未来への贈り物
前の、その前の家に引っ越してきたときのことは、いまでも覚えている。
恋人と別れて、ふたりで住んでいた家を退去したっていうのに
引っ越しのタイミングが合わず、残置されていた元恋人の荷物と一緒に引っ越してきたわたしは、親切のフリをしたまぬけで、おろかだった。
部屋の一角を埋め尽くしていたその荷物は、
わたしがいないスキに全部なくなって、空っぽになって
寂しさがなかったわけではないけれど、そんなことよりも「ああ、これでやっと本棚を組める」と思った、あの晴れ渡るような清々しさは、一生忘れない。
IKEAの、木の板を組み合わせただけの棚に、本をひとつずつしまってゆきながら、「ハチミツとクローバー」の背中を見つめて、取り出して撫でて
それからまた本棚を見つめて、腕を組んで、頷いて
これでひとりでも大丈夫、と確信した。背骨をすうっと突き抜けるような強さ。
最近のメモに、こんな言葉が残っていた。
3月のあのころは、図書館で本を借りて、読んだり読まなかったりして
借りに行くのも返しにいくのも、みょうに億劫になってしまって
本棚の本でも読もう、と仁王立ちしていた。
本を買うのが好きで、いつも少し溢れている。
けれども、「本棚以上には買わない」と思っているので、手放すことも臆さない。
本棚にはいつも、わたしの希望がある。
わたしが残したかった言葉、好きだったもの。
贈り物をひとつずつ手繰り寄せるように、ここまでやってきた。
わたしはまた本を買うと思うけれど
捨てられない本たちには、ひとつずつ掛け替えのない宝物が、眠っているのだと思う。
※now plyaing
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