学芸美術 画家の心 第44回「梅原龍三郎 黒薔薇 1940年作」
梅原は1908年若干20歳でフランスに留学し、リュクサンプール美術館でルノワールの絵を見、自分の絵はこれだと心に決める。
翌年ルノワール宅を訪ねると弟子入りを認められ、その後五年間師事した。
もともとあった豪快な色使いと筆使いにさらに磨きをかける。
師匠のピンクに対して、梅原は鮮やかな赤を得意とした。
このときルノワールは、
「君は色彩を持つ。デッサンは勉強で補うことができるのだが、色彩はタンペラマン(気質)によるものだ、それがあるのが甚だいい」
と褒めた。
梅原の生家は京都で染物屋を営んでおり、鮮(あざ)やかに染め上げられる布地や艶(あで)やかに縫い上げられた着物を見て育ったことが、彼を意匠的な色彩鮮やかな世界に誘い込むことになったのだろう。
やがて52歳になり、円熟期に差し掛かった梅原は得意とする赤と、それに緑と黒からなる「黒薔薇」を完成させる。
翌年から中国に出かけるのだが、描かれた絵は、緑、赤、黒が見事に調和した名作を次々に描き上げていく。
その新境地の発端となった絵がこの「黒薔薇」だ。
真の梅原が誕生した瞬間で、心して鑑賞したい。
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