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ガルフの金魚日記5

 ぷくは、まあるいアサガオ型の金魚鉢の中で飼われています。そして、毎日ガラスに映る自分の姿を映しています。

真っ白なシャツに紅色のスーツ、胸には黒の蝶ネクタイ、尾ひれは優美な屋根型の桜尾で、左右には黒の斑(ふ)入(い)り模様が入っています。これらすべてが気に入っています。

ぷくは、金魚鉢のガラスに自分の体を映し、右に左に体をひねり、今日の体型と身だしなみをチェックします。
ときどき、ガラスに映る自分の姿を見て、うっとりして見入ってしまいます。

気持ち悪いなんていわないでください。ぷくは、人に見られることが本分だから、それなりに意識しています。
ところが最近、気になることがあるのです。それは、このアサガオ型の金魚鉢が、せまく感じるようになったのです。気のせいならばいいのですが…。

この丸くて狭い金魚鉢の中で、運動もせずに、三度三度の食事をいただいていれば、太らない方がおかしい。今ではまん丸の体型です。

この家の奥さんの春さんが、にこにこしながらやって来ました。お買い物に出かけるようです。
玄関脇の出窓のぼくを見つけると、にんまりと笑いました。
春さんのあの笑いは、とても危険です。

そして、金魚鉢の上から顔をのぞかせ、まじまじとぷくを見ました。
「まあ、プクプクしてかわいいわね」
というと、もういちどにっこりと微笑みました。
「ガルフ。あなた、金魚というより、ピンクパファね。ふふふ。じゃあね、お買い物に行ってきます」
 
 そういい残すと、春さんは、手を振りました。
 そして、お買い物袋を電動自転車の荷台に乗せ、自転車にまたがると颯爽と浜風に髪をなびかせて、出かけて行きました。

「行ってらっしゃーい。ぷくぷく」
 胸びれをひらひらと振りました。
 今日の晩御飯を買ってくるのでしょうか。
ぷくはいつもの金魚のエサですから、なんの代わり映えもしません。エサ箱は、棚の上に置かれています。

 それを上目使いで、チラチラ見ています。
 ぷくは、これが大好物なのです。
 いつもおんなじ金魚のエサだけけど、三度三度いただけるのですから、ぜいたくはいえません。それどころか、金魚のエサを食べたぼくは、栄養満点で健康です。そのためもあって、いまではプクプクです…。ぷくぅー…。

そういえば、春さんは、そんなぷくを見て、にやりと笑っていました。そして、ピンクなんとかって、いっていました。なんのことでしょう…。気になります。プクー。

もう一度ぷくの姿をガラスに映しました。やっぱりブクです。いくら見ても変わりません。なんど見ても同じす。ぷくのこの姿のことをいったのでしょうか。
ぶーく。思わずため息がでました。

やはり、ダイエットしなければならないのでしょうか。
ぷくは食べることしか、楽しみがありません。あとは、どうすればいいのでしょうか。
また悩みが増えてしまいました。ぷくぷくぷく。
                    明日の金魚日記へつづく 

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