ハナコイマ

生業は舞台照明、趣味でやっていた演劇では「作・照明」という妙なクレジットを背負っており…

ハナコイマ

生業は舞台照明、趣味でやっていた演劇では「作・照明」という妙なクレジットを背負っておりました。 演劇から離れて久しいですが、執筆だけは続けようかと思います。

最近の記事

一生同じ歌を鳥のように no.5

3月20日(土) 庭は今が一番美しい。 朝、お日様が昇るとつぼみはいっせいに花へ。山も緑を増やし所々にエニシダの黄色い花がほころんでいる。山からエナガが遊びに来た。薄いピンク色の胸元を見るとますます桜の開花が待ち遠しい。 ばあちゃんとヒロちゃんは市内まで買い物に行っている。出かけてすでに2時間。スターキティはお留守番だ。台所マットの上に寝転がって箸を持つ練習をしている。猫の手は物を持つ用にはできてない。今は変身してヒヨリの手だが、やったことがないことをやるのは難しい。仰向

    • 一生同じ歌を鳥のように no.4

      3月19日(金) 私たちのこの家は吉野川の上流、大槌山麓は木川村の一番端っこにある。 ここはばあちゃんが生まれ育った家。大工だったばあちゃんのお父さんが建てた。私はシンじいちゃんについてこの家に来たのでそのあたりの話は初めて聞いた。白木蓮が教えてくれる。なんと今年でぴったり築100年!ばあちゃんのお母さんが草木の好きな人で、庭木はすべてお母さんが植えたものなのだそう。「私が一番にこの庭に一番に招かれたのだよ」と白木蓮が誇らしげに言う。それを聞いたクスノキが、いや、一番に植え

      • 一生同じ歌を鳥のように no.3

        3月18日(木) 春本番だ。ラジオの桜の開花予想は週末にせまる。庭のソメイヨシノはぷくっと蕾を膨らませ、予想よりも早く花が見られそう。花は桜だけではない。モモやツツジ、コデマリにハナカイドウと、木々は色とりどりに着飾る。 お昼ご飯をすませたところに電話が鳴る。湯呑を置いてばあちゃんは時計を見る。12時45分。「ま、このくらいだね。あの子の朝一は。」そうつぶやいて電話機に向かってため息をひとつ。受話器を取りあげると懐かしい声が漏れ聞こえてきた。私たちの所まで聞こえる大声の主

        • 一生同じ歌を鳥のように no.2

          3月17日(水) 白いふくよかな花びらを枝いっぱいに抱えて立ち続ける白木蓮の木。ばあちゃんはこの木をソナチネの木と呼ぶ。ソナチネの木とは岸田今日子の詩集に登場する白い花を咲かせる木。一つずつ音をくわえた鳥たちが、歌で咲かせる花の木。もちろんこの白い貴婦人のもとへも、毎日のようにコマドリやキビタキがやってくる。一つずつ歌を口ずさみながら。 突拍子もない書き出しで驚かせてしまうことをまずはお詫び。誰にだろう・・・いつか、この日記を読む誰かがいたときのためにかな。 チヨばあちゃ

        一生同じ歌を鳥のように no.5

          一生同じ歌を鳥のように no.1

          3月16日(火) 庭の白木蓮が真っ白なつぼみを膨らませている。この小さな家に春を告げる、ここが白木蓮の城と呼ばれる所以の木だ。この季節、遠くから見ると家の半分を白い花がすっぽりくるんで見えるのだと、スターキティが教えてくれた。 チヨばあちゃんが突然この家に帰ってきたのは昨日のことだ。 何十年も連れ添い暮らしたシンじいちゃんが亡くなったのは、もう5年も前。ばあちゃんは東京に住む娘のハトコと一緒に暮らすことになり、スターキティとこぢんまりとまとまった荷物とともにここを出て行っ

          一生同じ歌を鳥のように no.1

          一生同じ歌を鳥のように no.0

          日記帳表紙裏のメッセージ 私はインクのかすれない万年筆。相棒は色あせない日記帳。 私たちを今ここで生かしている魔法はまもなく消えて、私たちに与えられたひとつずつの魔法も遠からず薄れ、消えてしまうでしょう。その前にどうしてもやりたいことがあります。私と日記帳にしかできないこと。これはきっと、チヨばあちゃんの言う「一生同じ歌を歌うこと」で、私たちの魔法の形です。 ここに、この白木蓮の城に住むものたちとスターキティとチヨばあちゃん、そしてばあちゃんを愛する人々と過ごすであろう最

          一生同じ歌を鳥のように no.0

          「一生同じ歌を鳥のように」のあらすじといきさつと

          これから投稿する架空日記をどういういきさつで書いているのか、まずは初見の方に説明しつつ、あらすじもうっすら伝わればと思います。 「一生同じ歌を鳥のように」は2006年に札幌で上演した演劇だ。 私は高校から演劇を始め、北海道・江別にある酪農学園大学(ラクダイという縁起でもない通称)に進学、演劇部という名の運動部に所属し、1998年から同演劇部の同期数名と演劇ユニットを立ち上げ、2年に一度公演を行っていた。奇抜なファンタジー作品ばかり作っていたのだが「一生同じ歌を~」はユニット

          「一生同じ歌を鳥のように」のあらすじといきさつと

          note初め

          Facebookのノートという機能が終了していた。昨日気づいた。SNSは主にTwitterを使用し、Twitterやってないよって知人をFacebookでフォローする程度なのだが、昨夜Facebookメッセンジャーで長野に住む友人から「話を聞いてほしい」とメッセージが届いていた。届いてから2日ほどたっていたのだが、素知らぬふりで「なんじゃ」と返信。ややしばらくして「離婚するかも」という衝撃的な言葉が打ち返されてきた。はあ?投稿を見る限り絵にかいたような良妻賢母で幸せそうに娘の