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こけしと武井さんと米浪さんと昆布だるまと

年に2回ほど職場である公共図書館のエントランス展示を担当しています。
最低限のオフィスソフトで紙に出力したものを切り貼り工作する、生徒の自由研究感満載の手作り展示ですが、毎回期日間際になると髪振り乱してヘトヘトになり、鶴の機織り…とぼやく日々。
テーマは、墓碑があり市ぐるみで長年推してる近松門左衛門関連、干支などが定番ネタで杉山平一没後10年展は力を入れて取り組み、講演会を開催したり新聞社に取材してもらったり歴博の紀要に記録を残すなどの成果がありました。
春先はいつもネタに困っています。かねてより、参考図書架のなかに岩崎美術社の戦後復刻版の武井武雄『愛蔵こけし図譜』があることに気づき、時々その折本を帙から出してひろげ、うっとり眺めていましたが、今年は生誕130年なので、エントランスのガラスケースに入れたら展示になるなーと思いたち、華麗なる武井ワークスからこけしと郷土玩具に絞って展示を企画することにしました。

◆尼崎のこけしコレクター「米浪庄弌」

こけし、こけし…と文献やネットを彷徨っていると、戦前の尼崎塚口に「大阪こけし教室」というこけしの研究会を立ち上げた、米浪庄弌さんという人物がいたことがわかりました。
こけしについての著作があり(国立国会図書館のデジタルコレクションの送信サービスで読めます)、武井武雄さんのこけし通信や刊本会員の親類通信に投稿があったり、武井さんに蔵書票を作ってもらっていたり(激かわです)、「おもちゃ絵」で有名な川崎巨泉の作品にもたびたび米浪氏の名前が登場するなど、数々のこけし文献にて“西に米浪コレクションあり”と謳われている、昭和のこけしコレクション界の重要人物だったようです。

かねてよりインスタや展示を拝見してる憧れの郷土玩具コレクター横田百合さんにお願いして、大阪こけし教室の中根さんをご紹介いただき、米浪さんのことを伺う機会に恵まれました。
戦前から戦後にかけて阪急塚口駅の北側にあったお屋敷「おけし園」で、こけし展を開催したり出版物をつくったりする、同好の士が集う場所だったようです。いまはもうその場所はなく(商業施設になっている模様)ご子孫は転居されてこけしの世界からは離れてしまわれた様子。
ただ、90年以上も前から戦後の時代にかけての尼崎にそんな場所があり、有名なコレクターがおられたということは、驚きの発見でした。しかも武井武雄さんと交流があるということも嬉しく、展示に盛り込めたことがよかったです。

◆武井武雄記念館「イルフ童画館」・大阪府立図書館デジタルアーカイブ・尼崎大覚寺

武井武雄さんの出生地は長野県岡谷市。イルフ童画館という記念館があります。ここは岡谷市(自治体)が運営しており、武井さんの著作権も市で管轄しているそうです。公共施設での展示の申請をおこない、肖像写真や図譜の画像などデータ提供いただきました。
学芸員さんには親身にご対応いただき感激でした。尼崎で取り上げていることを喜んでくださっているようでした。
武井武雄の刊本作品を初めて間近で見たのは友人の左岸洋子さんのコレクション。憑かれたように稼ぎをつぎ込んで集めたという掌本たちは、ほんと「本の宝石」というに相応しい、震えるほど美しい世界でした。その残像が何年たっても心に残っています。
なかなかついでがあるような場所ではありませんが、いつか岡谷市に行ってあの美しい本たちや原画に会いたいと夢見ています。

その他、大阪府立図書館のデジタルアーカイブ「おおさかeコレクション」で中之島図書館の人魚洞文庫、川崎巨泉の玩具帖が大量に公開されていて、申請の手続きをおこない展示に活用させていただきました。どれもこれもカラフルで愛らしく見飽きない図版ばかり。尼崎大覚寺の節分会に授与される昆布だるまが何枚も描かれており、そのほか巨泉さんが描いた兵庫県内各地
の郷土玩具の図版で絵地図のようなパネルをつくることができました。

準備中の時期に節分だったため、尼崎大覚寺の節分会にも立ち会えました。
コロナ禍のあいだ中止になっていた豆まきや、からくり人形・狂言など、すべての行事が今年はおこなわれ、大賑わいでした。節分会当日にしか買うことができない昆布だるまやだるまの御朱印も無事ゲット。可愛いだるまが描かれた節分会のポスターを図書館に寄贈いただきました。

そんなこんなで壁とガラスケースをなんとか埋め、4月24日まで展示開催中。ほんとわずかなスペースでの手作り展示なので、わざわざ見にくるほどではありません。でも阪神尼崎界隈に来る用事のある方は、どうぞ(くれぐれも期待せず)覗きにいらしてください。
月曜日は休館です。

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