僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす

『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』note版です。 ハーモニカ奏者広瀬哲哉です。 こ…

僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす

『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』note版です。 ハーモニカ奏者広瀬哲哉です。 この物語は私の体験談を元に、時系列や登場人物の特徴などを大幅にアレンジしている、いわば「フィクション」です。 ぜひお気軽にお楽しみ下さい。 https://www.hamonicafe.com

マガジン

  • ④テンホールズ・ジャズ編

    小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈④テンホールズ・ジャズ編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方にはテンホールズジャズ編までにあたる内容になります。

  • ③ブルース・セッション編

    小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈③ブルース・セッション編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方にはブルースセッション入門編からホストバンド編までにあたる内容になります。

  • ②テンホールズ・ストリート編

    小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈②テンホールズ・ストリート編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方には専門学校編からストリートミュージック編にあたる内容になります。

  • ①テンホールズハーモニカとの出会い編

    小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈①テンホールズハーモニカとの出会い編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方には中学生編から高校生編にあたる内容になります。

最近の記事

140話 突破口

2軒目のジャズセッション参加から、1ヵ月ほどの時が経った。 僕のBarの仕事の方は相変わらず順調だった。平日のお客さん参加型のセッションデーの日は、ほとんど1人で店を任せてもらえる状況となっていて、マスターは店の新しいメニュー展開や新店への拡大を考える方で忙しくなり、平日は、電話である程度店の状況を聞き、問題が無さそうなら、閉店ごろに確認をしに来るぐらいになっていた。僕は自分がある程度店の留守を任せられるほど信頼されているんだという自信の中で、淡々と日々の仕事を続けていた。

    • 139話 コール&レスポンス②

      そのまま店はBarタイムに入る。ほとんどの参加者が楽器を黙々としまい始める中、僕を紹介してくれた店員さんだけは、ひとり忙しくドリンクの注文を勧めて回っていた。同じバーテンをやっている僕でも同じだけれど、この時間からが彼の本業なのだ。 僕はようやく自分らしい音が出せたのが嬉しくて、先ほどコール&レスポンスで絡み掛けてすぐに終わってしまった黒いトランペットの参加者に話し掛けようと近づいて行った。 彼は自分のトランペットを布できれいに磨き、他の参加者同様に、楽器をケースにしまい込む

      • 138話 コール&レスポンス①

        店長さんの素早いカウントの後、スムーズに「ジャズブルース」のセッション演奏が始まった。 その曲も、誰もが知っているというセッションの定番曲のようだけれど、当然のごとく僕だけは全く知らない曲だった。ピッタリと音を合わせて奏でている他の演奏者と横一列に並びながらも、テーマの部分が終わるのをただじっと見学をしているしかなかった。 管楽器のユニゾン演奏の重厚なテーマ演奏後に、そのままひとりのトランペットの参加者がアドリブを吹き始める。聴けば最初に参加したジャズブルースと、ほぼ同じよう

        • 137話 難しい演奏

          セッション演奏は淡々と続いて行く。後半に行くに従って、それぞれの参加者の持ち曲が、難しさを極めるように聴こえる曲ばかりになって行った。もっとも、何もわからない当時の僕からすれば、全ての曲が難解ではあるのだけれど。 ピアノやサックスがぴたりと合うようなユニゾン(同じメロディーの合奏)を、当たり前にやって見せる。誰もそれを驚きもしない。さすがはジャズセッションに慣れた常連客ばかりという事なのだろうか。そんな集団を見ていると(この人達は、アマチュアではないのではないか?)と、つい思

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        • ④テンホールズ・ジャズ編
          22本
        • ③ブルース・セッション編
          38本
        • ②テンホールズ・ストリート編
          48本
        • ①テンホールズハーモニカとの出会い編
          33本

        記事

          136話 ブルースという言葉③

          次にセッションをする事になった、店長さんが言う「ブルース」の指定KeyはFmだった。おそらくはその曲も、僕からすれば「ブルースじゃないじゃん!」と言いたくなるような違いがあるのかもしれないけれど、それ以前に、僕には考えなければいけない問題があった。マイナーの曲という事は、今までのブルースの定番セカンドポジション奏法では音が合わない可能性が出て来るのだ。そうなると取り急ぎ別のハーモニカKeyチョイスが必要となって来る。 「E♭Keyのハーモニカでのサードポジション奏法」でなら何

          136話 ブルースという言葉③

          135話 ブルースという言葉②

          全員のユニゾン演奏が終わると、管楽器参加者のトランペットのアドリブ・ソロが始まった。やはりブルースで出て来るものとは明らかにメロディの感じが異なり、音数の多さ、フレーズのスピード感など、どれをとっても僕が「ブルース」と呼んで来たものとはかけ離れていた。またそれが、曲がわからないという焦りに拍車を掛けて行く。 「ブルースを演ろう」という言葉からこの曲が始まっただけに、もはや焦りが腹立たしさにまで変わっていた。 (こんなの、全然ブルースじゃないじゃん!!なんだよ、これ!!やっぱり

          135話 ブルースという言葉②

          134話 ブルースという言葉①

          僕がカウンターに並べた、数本の小さなテンホールズハーモニカ達。上から覗き込む人、かがみ込んで横から眺める人とさまざまだけれど、いつまでも僕のカウンター席の周りから離れる様子はなく、後ろで観ている人から完全にステージを遮っている事など、誰ひとり気にもしていない様子だった。 「何で、こんなにいっぱい持ってるの?これ全部Keyが違うのかい?」 「こんなに持ってるのは、君は、これを売っている人?行商の人?違うよね?」 「1本1本は、そんなにはしないんだろう?総額いくらよ?安いやつなら

          134話 ブルースという言葉①

          133話 参加者に囲まれて

          開催しているセッションデーの状況を、事前に店員さんから聞き出すための2軒目のジャズ店訪問から、1週間が慌ただしく過ぎた。「ブルース」好きのギタリストの店長さんがホストを務めるという事で、さすがに最初のジャズ店のような悲惨な目にまでは遭わないだろうとは思うものの、こんな事を言われたらどうしよう、こんなトラブルになったらどうしようと、僕の頭の中は無駄に忙しく動き続けていた。 このセッションデーの日までに、自分のバンドでのライブイベントがいくつか入っていたので、自分からバンドメンバ

          133話 参加者に囲まれて

          132話 バーテン同士で②

          やがて店員さんがコーヒーを持って来る。 「はい、お待たせいたしました。コーヒーになります。それにしても残念でしたね。せっかくお越しいただいたのに、Bar営業の日だなんて」 若い上に、見たところ人柄も良さそうな店員さんなので、話を聞くには申し分ない相手だった。カクテルに詳しい奴とかなら、即行で逃げているところだ。 「ところで、お客さんは、何か楽器をされてる方ですか?」 とんとん拍子の質問に、(さっそく来た!)と僕はほくそ笑む。何しろジャズの店はどこも高いし、こちらの経費は限られ

          132話 バーテン同士で②

          131話 バーテン同士で①

          初めてのジャズセッションへの参加から、一週間ほどが過ぎた。僕は結局誰にもあの日の出来事を話せないもどかしさと、一方的にやり込められた悔しさの中で、いつまでももがき苦しんでいた。 開店前の一人での仕込みの時間などは、その店が、自分が働く店とはそう遠く離れていないのもあって、(今頃、またあの店の連中は、誰かに高圧的に振る舞いながら、訳のわからない演奏をしているのだろうか)などと、つい想像をしてしまっていた。おまけに「おい、この間、ブルースハープ持って参加した奴、傑作だったよな。何

          131話 バーテン同士で①

          130話 インフォメーション②

          テンホールズハーモニカの後に、僕がソロを回したピアニストも自分のソロを終え、ついでウッドベースのソロという順になるも、さすがに曲が長くなるからと黒ズクメがこれを断り次へと行かせようとした。となれば、最後はドラム・ソロという事になる。まぁ、ブルースであれロックであれ、バンド演奏のラストはだいたいドラムがソロを演るものだ。気のせいか、今日のセッションはドラムのソロが多かったような印象があった。ホストメンバー以外にもドラムの参加者が来たくらいだから、それに気を使っていたのかもしれな

          130話 インフォメーション②

          129話 インフォメーション①

          そのまま、僕が初めて参加したジャズセッションイベントは、メリハリもなくダラダラと続いて行った。参加者達はおのおの自分の持ち曲を選び、その都度セッションメンバー全員に楽譜のコピーを配るという作業を淡々と繰り返して行く。 演奏技術を見せるポイントなのか、後半にかけてリズムチェンジをする曲が頻繁に出て来るようになって行き、どの曲も当たり前のように、最後にはまた曲を始めた時の演奏リズムとテンポに戻される。確かにそれを見慣れて来ると、そういうものなのかもしれないと思え、徐々に違和感を感

          129話 インフォメーション①

          128話 それって常識?②

          僕はギターの彼に演奏のテンポを伝え、イントロを「カウント出し込みの4小節分で」と頼むと、再び客席の方へ視線を戻した。参加者の数人がささやき合うように、僕の手の中にある小さなハーモニカの話をしているのが見えた。いつもの僕ならサービス精神から「ね、小さいでしょ?このハーモニカは、」と言った感じで、演奏前のトークを挟むところだけれど、さすがにそんな余裕もなければ、フレンドリーなムードでも無かった。 (まぁ、何はともあれ、これから初めてのジャズセッションに参加する事になるんだよな。さ

          128話 それって常識?②

          127話 それって常識?①

          いよいよセッションが始まる時間となった。ピアニストとドラマーが、店の隅に設けられた段差のないステージへと入って来る。最後に入って来た黒ズクメは、壁にズシリと立て掛けられていた大きなウッドベースを素早く肩に降ろし、その横に置かれたマイクを片手にとると、セッションイベントの開始前に演奏するホスト・トリオによる演奏曲のタイトルと作曲者の名前だけを告げ、そのまま聞こえないほど静かなカウントをうち始める。 ブルースの店だと、この段階で常連の誰かしらが「ヘ~イ♫」とか「ヒュ~!」とかいっ

          127話 それって常識?①

          126話 そしてようやく②

          一体何が起こったのかわからない僕は、数人が出て行ったドアの方を、いつまでもぼんやりと眺めていた。自分も似たような店で働いているのだ。自分が働く店のセッションデーで同じような事が起きれば、それは大ごとのはずなのだから。 「えーと、ブルースハープの方?初めてですよね、このセッション?」 僕は話し掛けられてようやく我に返った。気がつけばやや離れた所からセッションのホストバンドのメンバーらしい「黒ズクメ」が、参加者が記入するノートをパラパラとめくりながら話し掛けて来ていた。新参者の

          126話 そしてようやく②

          125話 そしてようやく①

          ジャズセッションというイベントが存在する事を知ってから1週間後。僕はそれまでは行った事もなかったライブハウスの前に立ち、久しくなかった緊張の中に身を置いていた。気が付けば、手に持つチラシをシワがつくほど強く押さえていた。音楽の事でそんなに力んでいるなんて自分でも驚くほどだった。初めて、ブルースのセッションデーというイベントがあると知り、行った事もなかったBarという世界へ足を踏み入れた時以来かもしれない。けれど、かつてのその緊張感はBarという場所への警戒感から来ていたものだ

          125話 そしてようやく①