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アイドルと祝福とわたくし

(2020.8.22追記:トップ画像追加しました。イトウタカオさんからご提供頂きました!わたくしだ!照れちゃうな!)

Negiccoという新潟のアイドルユニットを好きになって数年が経つ。動画はわたくしが彼女たちの音楽に触れる少し前のもので,改めて「トキメキ★マイドリーム」聴くとアイドルポップスのツボを余すところなく押えたconnieさんらしい良曲だなと思う。良曲なのだけど,例えば数年前のアイドル文化に表面的な知識しかなく偏狭な音楽好きってだけのわたくしが,地元の商店街の催し(具体的に言うと古町どんどん)で,通りすがりに彼女たちのステージを見かけてこの曲を聴いていたらどう思っただろう? 容易に想像はつく,「あーネギ持って踊ってる子達だ」「がんばってるな~」「オタク(*1)の人達すごいな~」以上だ。恐らく帰る頃には忘れている。古参のオタクの皆様には申し訳ないが当時(2012年以前)の多くの新潟市民にとってのNegiccoとはそういう立ち位置だったと思う。数年後,同じ曲を歌う彼女たちを目の当たりにして滂沱の涙を流すことは勿論知る由もない。

以下は,人はアイドルオタクという立ち位置に如何にして辿り着くのか,もしくは偏狭な音楽好きことわたくしが如何にして新しい視野を手に入れかわいいbot(好きなアイドルを観てかわいいしか言えなくなる)に成り果てたのかの記録である。かわいいbotだってたまには自分内の「好き」を整理してみたいと思う事もあるのだよ。

*1 「オタク」と書くと何かネガティブなイメージもあるが要するにそのアイドルのファンの総称で,当の本人達がオタクという自称をポジティブな意味合いで用いているように感じたのでわたくしもそうする。先人には学ばなければならぬ。

はじまりは音楽とネームバリュー

思えばこれだけ長く生きてきてアイドルに妄信的にハマったことのない人生だった。そもそもロック好きの元渋谷系である,わざわざCDを買うならできるだけ誰も知らないかっこいいものを…という偏狭な音楽オタクである。その視点で言うとウェルメイドでいかにも売れそうな女性アイドルの音楽はチョイスに入らない。男性アイドルも然りで周囲がジャニーズ沼に続々落ちて行ってもなかなかピンとくるグループがない。ハマっている人たちはとても楽しそうだけど,自分とは別の文化圏に居る人たちなのだなと思っていた。

新潟に住んでいるのでNegiccoの名前は当然知っていた。やわ肌ねぎ(うまい)のPRをやっててネギを振りながら歌とか歌う若い女の子達でしょ知ってる知ってる,ぐらいの知識だ。その子達に曲を提供しているのが西寺郷太,小西康晴,田島貴男…と聞いて「えええ!?なんで!?」とならない偏狭な音楽オタクはおるまい。90年代の渋谷系文化の頂点にあったような人々が何故新潟のローカルアイドルに曲を。どういうことだ。偏狭なオタクは得てしてネームバリューに弱い。

既に周囲にはNegiccoにハマっている先輩たちがちらほらおり,色々なきっかけがあって初めてライブを観に行ったのが2013年の晩秋だったと記憶している(主に対バンのノーナリーヴス,正確にはそのサポートベーシストの村田シゲ目的ではあった)。初めてアイドルのライブお金出して観るな~やっぱネギとか持って行った方がいいのかな~原信(スーパー)で買うかな~などと浮かれて観に行ったが,ステージ上の彼女たちは思った以上にプロフェッショナルで,口パクでもなくマイク片手に歌って踊ってそれは「古町どんどんの小さいステージで歌ってた若い子達」というイメージを一新するに相応しいものだった。訳わからないままラインダンスもやったしとても楽しかった。何よりその音楽がアイドルの歌う曲でありながら上品な70年代ソウルテイストで,さては渋谷系の頂点以外にも有能なブレーンが居るなコレ…となった(後年それがconnieさんという新潟在住のコンポーザーにして最古参オタクだということを知り激しく動揺する)。このあとノーナの郷太くんがMCで,当時大人気だった朝ドラ「あまちゃん」の話に触れ「あれも面白かったけど言うてドラマやん,Negiccoはリアルでアイドルの成長物語をやってるやん」的なニュアンスの事を仰っており,そうかここにもストーリーがあるのだなと思ったのは覚えている。そしてそのストーリーが全て新潟に軸足を置いて進行していることにグッときた,が所謂沼にハマるのはもう少し先の話になる。

オタクは全てを肯定する

自分よりはるかに若い女子グループを好ましく感じてその活動にフォーカスしていく,という行為には某かのハードルがあると思う。そもそも若い女子はだいたいみんなかわいい。目の前に居る彼女たちが自分にとって特別な存在になるには何かしらきっかけが必要だろう。男性なら好みの顔であったとか,ステージから自分に目線をくれた(気がした)とか,握手会で神対応だったとかまあいろいろなきっかけが想定される。わたくしはそのきっかけが音楽だったというだけのことだ。

2015年初頭に発売のアルバム「Rice & Snow」を聴いてやっぱりこの子達いいな,と思い始める(どんなアーティストもアルバム聴くまで評価は保留するタイプです,偏狭な音楽オタクだから)。何度も何度もアルバムをリピートし,豪華コンポーザー陣がNegiccoをモチーフに様々なシーンを構築し結果としてひとつのストーリーが出来上がるみたいな構成に唸った。それまで主に自らの音楽は自ら作詞作曲するアーティストばかり聴いてきたけれど,こういう形で完成していく音楽もあるのだなと当たり前の事に感心していた。

ここから周囲のオタク仲間(何故かサポ仲間が次々とNegiccoにハマっていく時期でした)のお誘いなどもあり,ライブやイベントなどの現場に足を運ぶ機会がじわじわと増えていく。幸いにも新潟市内在住なので機会はいくらでもあった。同年4月の新潟県民会館,初めてワンマンでNegiccoを観たのだけどびっくりするほど多幸感に包まれており,アイドルのステージってこんなに観客に優しくていいの?いいの??と戸惑うレベルであった(別段いつも観てたインディーバンドのライブが観客に厳しいってことはない)。その後もいくつかの現場に足を運び,なんとなくメンバー3人のキャラも見えてくる。かえぽ(*2)は平熱に近いテンションでありながら愛嬌があって,ぽんちゃ(*3)は常にニコニコしていると思ったら時折見せるキリッとした表情がまあ美しく,そしてNao☆ちゃん(*4)はその年でどこでそんなギャグ覚えた,というネタをこれでもかこれでもかと繰り出してくる。一定のスパンでそのキャラクターに触れるのだから愛着も湧くというものだろう。特典会など参加しようものならいかに中年女子と言えども若くてかわいらしい女子にニコニコで話しかけられて舞い上がるし握手した手からいつまでも良い匂いがしてめろめろにもなる。きっかけは誰でも(どのアイドルでも)良かったとしてもこうして推しのアイドルは誰かにとって特別な存在になっていくのかなと思っていた。

*2 Kaedeの愛称。かわいい
*3 Meguの愛称。かわいい
*4 とにかくかわいい 

ところで皆様が一般的にアイドルのオタクに抱く印象とはどのようなものだろう。CDをたくさん買って握手会を何周もする人。ペンライトやサイリウムを持ってオタ芸を打つ人。「○○が一番かわいいよー!」とか言っちゃう人。どれもまあまあ正解だがその本質は「推しの全てを肯定する人」ではないかと考える。一般的にあの人達はとにかく全てをプラスに捉えていて,引き算で好きにならない理由をひねり出すことがない。ステージで彼女たちの調子が少し悪かったとしても「体調悪いのかな,心配だな」「がんばって!」「気にしないで!」「かわいいよ!」といった声ばかりが聞こえてくる。各種SNSでもオタクはなんとかして皆に推しの素晴らしさを伝えようと言葉を尽くしている。そんなだからNegiccoの現場は基本的に愛に溢れており,ライブを楽しみながらも基本的にはステージ上の3人が良いパフォーマンスが出来るようにと最大限気を配っているように見える(年齢層がそこそこ高くて分別がついてる人が多いのもあるだろうし,暴走するタイプのオタクが皆無かと言ったらそんな事もないのだろうけど)。恐らく溢れる愛の出しどころが分からなくなってとりあえずCDを山と積んだりオタ芸を激しく打ったり○○が一番かわいいよー!とか声を枯らして叫んだりしているのであろう。それは恋愛の始まりに少し似ていて何かもっと大きなものを内包しているように感じる。オタクすばらしいな,わたくしもかくありたいなと思うようになる。何事も形から入るタイプなのでね。

アイドルもある日貴方の全てを肯定する

その後もNegiccoは数々の素晴らしいミュージシャンから曲提供を受けたり,パフォーマンスの幅を広げたり,キャパの大きなステージを目指すかと思いきや小さなライブハウスにも顔を出したり,紆余曲折があったりなかったりしながらキャリアを重ねていく。アイドルとしては少し長いかもしれない10年を超えるキャリアの中には様々なストーリーがあったことを,途中から彼女たちのストーリーに乗ったわたくしも知ることができた。期間限定で始まったローティーン時代,メンバー脱退や活動そのものの危機,古参オタクからの曲提供,信頼できるスタッフ,不遇の時代,タワレコの社長に見つかる,かえぽの卒論,武道館目指す→やっぱ目指さない,音楽好きの大人に注目される,等々々。これらが概ねこの新潟で進行している時点でわたくしが乗るべきストーリーはほぼ整っていたのだ。

確かここ1~2年だと思うけど,Negiccoのステージを観ててじんわりと涙が出ることがある。「愛は光」「雫の輪」といった近年のバラード系名曲の事もあれば,比較的ノリがよくてラインダンスでお馴染みの「圧倒的なスタイル」のこともある。以前Twitterでもちょっと書いたが,好きという感情にはなんらかの閾値があって,それを超える瞬間に涙が出たりかわいいしか言えないbotになるなど一定の形で暴発する。その時ステージ上のアイドルはただただ笑って力一杯にパフォーマンスしている。オタク達の有り余る愛を全て受け入れた上で肯定し,祝福し,高みへと上り詰める。あれはこのうえなく美しい光景だしアイドルの現場でしか観れないものだと思うのだ。

アイドルのオタクはとかく自分の推しが他のグループより特別なものを持っていて素晴らしいと思っているフシがあるけど,誰にとっても特別な存在はある。なんらかの形で積み上げて閾値を超えたオタクの愛がアイドルに共鳴する瞬間はどんな現場にもきっとある。それはNegiccoに限った話ではなく,NGTオタもRYUtistオタも,もっと言うと48Gでも坂道でもハロヲタでもモノノフでも地下でもあり得る話で(すみません最後の方だいぶ雑に括りました),今が辛かったとしてもいつか貴方の推しが貴方の全てを肯定する日がやってくる。

…なんか全肯定とか祝福とか怪しい宗教の話をしてる雰囲気になってきたな。まあ宗教だって別に構わないのだ,アイドル(偶像)なのだから。

そして物語は行く

少し前の話になるが,Negiccoの15周年を記念するライブが朱鷺メッセで行われた。あれは本当に素晴らしくて,今の彼女たちの最高を更新しながらこれまでの15年間のストーリーをほんの少し垣間見せて朱鷺メッセBホールをびっしり埋めたオタク達と共有するという稀有な光景であった。3人とも今がキャリアハイと言わんばかりにキラキラぴかぴかつやつやに輝いていた。勿論その後のネギフェスも苗場ネギーもその他現場もどれも素晴らしかったし,これからだって年齢とキャリアを積んだだけの輝きを放ってくれると思っている。

朱鷺メッセに話を戻そう。要所要所で泣いて踊って笑ってアンコールは2回もやって本当に楽しかった。「これが本当に最後の曲でーす!」とぽんちゃが叫び,はなやかなイントロと共にパン!と音がして銀と緑のテープが客席に舞い降りた。オタクの頭上にも彼女たちにも長年それを支えてきたスタッフの皆様にも,Negiccoに関わる全ての人達に祝福が降り注いだ瞬間だった。

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「♪夢に向かって走り続けたい あの未来の僕等のストーリー…」

こうして「トキメキ★マイドリーム」はわたくしにとって特別な一曲となったのだ。以上オタクでした!ありがとうございましたーーーー!!!

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