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誰も追いつけない圧倒的なスタイルと2023シーズンのアルビレックス新潟とわたくし(後)

前編↓

ファンタジスタのいない季節が始まる。涙の移籍挨拶から3週間ほどアルビの練習に普通に参加し続けて「いつまで居るの」とチームメイトに言われていた伊藤涼太郎がベルギーに旅立った。言うて去年だって、本間至恩が抜けたらチームがガタガタになるんじゃないかなどと他のJ2チームを油断させておいて、週替わりでヒーローが現れる展開でJ2を制してきた成功体験があるので、チームに関してそこまで心配はしていないが、リーグ戦中盤でだんだん負けが込んできたこと、ここまでの得点が殆ど伊藤涼太郎を起点としたものであることなどを考え合わせると「これからどうやって点取ろうかね…」という不安が、この時期少しでもなかったかといえば嘘になる。


君の代わりはどこにもいない

6月18日ルヴァンカップGLアウェイ鹿島戦。開始早々にミドルシュートを喰らって失点、12分にGK阿部航斗がビルドアップの出しどころを探る一瞬の隙を狙われてまた失点。90分通して何も出来なかった訳ではなく、谷口海斗名物ハーフウェーラインで脈略なく繰り出す超ロングシュート(しかも枠に行ってた)などチャンスは十分作れていた、でも序盤の失点癖はなんとかしないと厳しい。グループリーグ敗退が決まり、わたくしは素早くSPOOX(加入しないとルヴァンカップは観れないけど他のコンテンツにビタイチ興味が持てないアプリ)を解約した。後でSNSで知った話だが、試合後の不穏な空気渦巻くゴール裏に対峙したその日のゲームキャプテンである高宇洋が「絶対に勝つから!」と口にしたという。なんとも悲痛だが、がんばれキャプテン。がんばれとしか言えない。

閑話休題。数年前まではチームキャプテンに指名された選手がすぐ移籍してしまうことが続き「キャプテンってそんなものなのかな」と思っていた時期もあったが、2020シーズンに堀米悠斗がチームキャプテンに指名されてからその意味合いはがらりと変わった。今では試合前の円陣で気合の言葉を放ち、試合中もチームを鼓舞し時には落ち着け、厳しい結果でもサポーターとの対話を厭わず、地域を代表する存在であることを自覚し内外にアピール、みんなが気になる秋春制にも言葉を選んで言及、果てはサポーター間の揉め事まで治める勢いでつまりは完全無欠のキャプテン。最初からそうだったわけではないと思うが、堀米悠斗には良かった時も悪かった時もチームの先頭に立つことでキャプテンに相応しい振る舞いと人格が備わってきたのだと思う。誰でもああなれる訳ではない。だから高宇洋には、彼にしかできないキャプテン像を描いてほしいと勝手ながら期待している。ゴメスにならなくてもいい。ヤンはヤンだ。

リーグ戦ではまたも1ケ月ほど勝ち試合が観れていない。勝利が観たければ、なんと!行くしかないのですよ~。という訳で6月24日リーグ第18節アウェイ柏戦。日立台(今は三協フロンテア柏スタジアムって言うらしい)はいつ来ても異様にピッチが近く、アップ中の選手もゼロ距離で拝めてしまう。そこで観てしまったのだ、負傷リリースの出ない軽微と思われる怪我から久々に復帰した高木善朗が、ハーフタイムのサブメンバーのアップ中にどこか痛めて足を止めた瞬間を。見るからに悔しそうな表情でスタンド下に退いていく高木善朗を観て、なにもこの至近距離で目撃したくなかったな…などと思う。同じく怪我から復帰の堀米悠斗は後半67分から出場、鋭いオーバーラップを見せるなど完全復活を思わせながらも、途中で腿裏あたりを気にし始めて自ら交替を申し出ていた。復帰したばかりの2人の心中を察するとやりきれない気持ちになる。試合は終盤の柏の猛攻を小島亨介名物現人神セーブで凌ぎ切りスコアレスドロー、脳内では対セイレーン戦のラッコ先生(ちいかわ)が「『戦う』しかないようだな…このメンバーで」と呟いていた。今季、サイレント負傷というかリリースは出ないけどそういえば最近出場ないな、というレベルの怪我人が多い気がする。それもJ1の強度に立ち向かった故の成長痛のひとつなのだろうか。2人とも怪我が軽いことを祈る。

夏が近づいてこの日からリーグ戦もナイトゲームが始まる。7月1日リーグ第19節ホーム広島戦。開幕当初からアルビレックス新潟のサイドバックは激戦区。昨季の不動の左右サイドバック堀米悠斗と藤原奏哉がいて、渡邊泰基がいて田上大地がいて長谷川巧がいて今年からは新井直人まで加わった。2つしかポジションないの勿体ない、6人全員出してほしい(サイドとは)(バックとは)。堀米悠斗が一時抜けても、穴埋めではない別の個性を新井直人が存分に発揮する。藤原奏哉は通常営業で当たり負けせずボールを刈りまくる。渡邊泰基はセンターバックにコンバートされたことで強靭なフィジカルが開花し、なんなら倒されながら恐ろしく正確なフィードを通す。怪我人が続出して結果もなかなか出なかったけど新潟のサッカーをやりきっていた5~6月最大のサプライズがCB渡邊泰基爆誕、一体誰が予想できたか。試合は三戸舜介と新井直人の左右対称みたいな2ゴール、しかも今日も現人神こと小島亨介がシュートを次々止めてクリーンシート、広島相手にシーズンダブルという完璧な復活の狼煙であった。

この日のパフォーマンスは三戸ちゃんと新井の叩いて被ってじゃんけんぽんでした

フライデーナイトJリーグ略して金J。7月7日リーグ第20節ホーム神戸戦。アンドレス・イニエスタが新潟にも来る!J1昇格間に合ってよかった!と思ったら1週間前に退団していた。それでも大迫勇也に武藤嘉紀にみんな大好き酒井高徳に、と代表級の選手がずらりと揃っており豪華なことには変わりない。前半14分、ビルドアップの中継点で星雄次が何かに足を取られたようにバランスを崩し、その一瞬の隙を突かれてボールを奪われ最後は大迫勇也に仕留められる。目の前で半端ない人の半端なさを目撃してしまった。後れを取ったのはほんとにあの一瞬だけで、他は十分に首位チームと渡り合えていたとは思うのだが、90分のうち一秒にも満たないその隙を確実に捉えられるから上位チームなのだろう。久々にJ1らしいチームにJ1らしい負け方をしてしまった。ただ、6月末からここまでのゲームで「伊藤涼太郎がいないからやれていなかった」と思った試合は今のところ一つもない。誰が出たとしてもサッカーのコアの部分があって戦術自体はぶれていなくて、更に選手個々に成長があって上積みができて、なんか「託児所があって親切指導です」みたいな言い方になってしまったな。ポジションは11個しかないので代替要員は当然必要だけど、選手一人一人を観れば誰も代わりにはなれないと思っている。全員が必要なのだ。

いい意味でバカなんじゃないのかって(笑)

1か月以上の間を開けて天皇杯が再開した。対するはJ3で首位争いに顔を出しているカターレ富山。久々の近距離アウェイである、平日でも午後休取れば余裕で行ける(※車で3時間)そんな訳で7月8日天皇杯3回戦アウェイ富山戦、友人達と車に乗り合わせて和気あいあいと北陸道を西へ向かった。現地は雨予報とのことで「雨にしっとり濡れてただでさえ顔がいいのに色気までダダ漏れの星雄次、略して濡れ雄次が観れる」と友人達に力説し、特段の反応も得られないまま富山県総合運動公園陸上競技場に到着。思えば濡れ雄次ハワーとか言っていた頃は本当に能天気だった。さて今日のスタメンをざっと観ると両サイドバックは早川史哉と田上大地。MFに長谷川巧。…MFに長谷川巧!? カップ戦も終了しサイドバックのポジション争いで最も遅れを取っていたと思われる長谷川巧、前触れもなく右サイドハーフに起用されサイドバックの時と同じ勢いで走り回り、前半20分にはゴール前でのこぼれ球を勢い余ってゴールに押し込む。何が起きた!? 後半入る直前ぐらいから、雷を伴う強めの雨が予報どおりに降ってきた。落雷の危険があるということで試合は一時中断、屋根のないゴール裏のサポもみんな軒下に移動させられ、ホームゴール裏の芝生を無邪気に走り回る子供が場内アナウンスでしゃーつけられ(※新潟弁)ていた。

初めて見る画面だ

約30分の中断をはさんで後半45分から試合は再開、大雨の中同点に追いつかれたところで再中断。再開したらビジターゴール裏に裸族が出現してて驚いた。こういう時って謎のヤケクソ感出るよね。78分カウンターから失点。もう延長戦分ぐらいの残業は余裕でしていたが、何時に新潟に戻ることになろうとこのまま帰れるものか。ピッチ上もだいぶ雨が溜まってボールも転がらなくなってきた後半82分、怪我から復帰した太田修介がピッチにも戻ってきたぞと名刺を叩きつける勢いで同点弾。この頃には富山県全域に大雨警報発令、線状降水帯が発生するなど災害寸前の事態になっており、地元のサポ仲間や親族から「行ってるの!?大丈夫!?」と続々LINEが届く。大丈夫も何も勝って帰るしかないし声援を送るしかないのだが…。

トーナメントの延長戦でこの円陣を観ると胸が熱くなる

延長戦に突入し、負傷した阿部航斗に替わって瀬口拓弥がゴールを守る。試合の出番があってもなくても早朝にはクラブハウスに来て掃除をして盛り塩をしてオフには新潟ほぼ全市町村を回るブラセグチこと瀬口拓弥が遂に公式戦デビュー、とても落ち着いてボールを処理し指示を出している。延長前半5分、太田修介の逆転弾。勝って新潟に帰れる!勝って帰れるなら何時になってもいい!(この時点で22時)そして試合は再々中断。最終の路線バスがもうすぐ出るとアナウンスされてもここまで来たら帰る選択肢は存在しない。「そんなもん最後まで見届けるしかないでしょ!我々ここに来てるんだもの!」と、屋根ありメイン席に居るくせにゴール裏のコアサポみたいな台詞が自分から出てきたことに驚いた。再開するも延長後半に突入する頃には視界も危ういほどの強い雨、そして落雷。試合中止がアナウンスされたのは22時40分頃のことだった。豪雨の中、路線バス最終に乗り遅れた人々を見ず知らずのサポ同士声を掛け合って富山駅に送り届けたりして、新潟に到着したのは朝の4時前とかそんな時間だった。我々は伝説に立ち会った、と言いたいがまだ試合の決着はついていない。サポーターは好きで行ってるので特に労われたりしなくてもいいが、同じぐらいの時間に新潟へ戻ったであろう、2日後に札幌遠征を控えた選手スタッフの体調の方が余程心配だった。

一番雨が酷かった時のサブメンバーの様子。中央奥が濡れ雄次
屋根のないゴール裏であの雨の中120分近くバモってた皆様すごい。中央が突如現れた裸族

富山遠征の疲れが全く取れず荷造りも出来ないまま、飛行機の距離でのアウェイ遠征の週末がやってきた。7月15日リーグ第21節アウェイ札幌戦。この季節の札幌、きっと気候もさわやかで最高なのだろうな~とうきうきして北の大地に上陸したら結構な雨が降っていた。雨はもうお腹一杯だよう。ドームだったら雨でも平気だが、この日の試合会場は札幌厚別公園競技場。待機列にもスタグル広場にもスタンドにも屋根はなし。フジロック2018でアジカン観てた時ぐらいの洒落にならない雨をポンチョ1枚で凌ぐ。一進一退(むしろちょっと札幌に押されていた)の試合は後半に大きく動く。52分、高宇洋のパスを星雄次がダイレクトで前へはたき、藤原奏哉が相手DFの前に回り込んでボールに追いついて折り返し(※ここまで軍団星ライン)、最後はいつだって居てほしい場所に居る鈴木孝司がゴールに叩き込む。先制点から数分後、新井直人がDOGSO案件でオンフィールドレビューの末に退場。10人になってからの観ているだけで分かるみなぎる気合、1人抜けたハンデをフィールドプレイヤーが2人分走って埋める。途中出場のMF長谷川巧は3人分ぐらい走っていたまである。後日「天皇杯富山戦でMF起用される直前まで移籍を考えていた」と語るほどに出場機会に飢えていた下部組織育ちの男が、ここにきて輝く。1点を守り切ったエモーショナルな勝利の後は、泣きながらスタンド下から出てきた新井直人が胴上げされていた。新井そういうキャラじゃなかった気がするが、このチームが時折謎に覗かせる、プロ集団でありながら「雰囲気のいい部活」みたいな空気感にあてられたところもあるのかもしれない。これからも新潟で最高の思い出作っていこうな新井!(最高の夏にしような!風に)

選手もサポもずぶ濡れの万歳シーンをGIFでどうぞ

札幌遠征の荷解きも終わらないまま迎えた7月19日、先週雨で中止になった天皇杯3回戦富山戦の再試合。延長後半15分だけのために出向くアウェイ遠征、ロマンの塊だな…と思ったら居てもたってもいられず、2時間の時間休を申請し帰宅すると見せかけてそのまま高速に乗り、ほぼノンストップで一週間ぶりの富山県総合運動公園にキックオフぎりぎりに到着した。そんなロマン主義のサポーター言うほど来てないでしょ、と思ったらまあまあ来ている。後で知ったところによると堀米悠斗も観客として来ていたらしい、どういうことだ。田上大地の1週間を挟んだ貴重な追加点あり終了間際の失点あり、約15分のロマン(※移動時間往復で6時間)はきっちり勝ち切って終わり、4回戦に駒を進めた。ロマンを追い求めて富山県総に集まったアルビサポはクラブ調べによると約500人、その様子を観た太田修介は「言い方が悪いけど、いい意味でバカなんじゃないのかって」と驚きのコメントを残していたそうだ。2回も言っていたぐらいなので、一体我々どれだけバカだと思われているのだろう。誇らしい限りだ。

そうですバカです(いい意味で)

8月2日天皇杯ラウンド16アウェイ町田戦。この日のわたくしはといえば、3年間逃げ仰せてきた新型コロナウイルスに5類移行の今になって捕まり、あんなに楽しみにしていた週末の国立競技場アウェイ名古屋戦参戦が流れてしまって心底やさぐれていた。解熱剤で朦朧としながらYoutubeの中継を見守る。前半のうち30分は中継トラブルで観れなかったが、なるほど町田強い。J2首位を爆走しているのも天皇杯3回戦で横浜F・マリノスを大量得点で撃破しているのも頷ける。スコアレスで延長突入かと思われた後半90分、誰か(引きの画面すぎて選手が誰だか分からない)が左足でネットを揺らし、ゴール裏に駆け寄る。小見洋太だ!やっと入った!残りの数分間を堀米悠斗(Twitter実況中)の「集中!」の声に見守られながら凌ぐ。ベスト8?マジで?今週末の国立に行けないわたくしを小見ちゃんが決勝国立に連れて行ってくれるかもしれないの? 伊藤涼太郎が今年の目標として言い残していった「何か一つタイトルを獲る」の可能性がギリギリで残った。もう天皇杯の初戦で下位カテゴリのチームに苦戦して、勝ったのにブーイングを喰らっていたかつてのアルビレックス新潟の姿はどこにもない。

王の帰還と「あれは長谷川のゴールです」

転換点と言えるものが今季のアルビレックス新潟にあるとするなら、2週に渡った天皇杯富山戦とそこに挟まった札幌戦になるのではないかと思う。これまで結果を出せなかった選手達にも脚光が当たる場面があり、チーム自体も雰囲気のいい部活というか、古式ゆかしき少年漫画の友情・努力・勝利の空気感というか、とにかく右肩上がりに楽しいことになってきている。応援しているチームが正しい手段で前進していくのを観るのは嬉しいものだ。だが勿論、これでシーズンが大団円で終わる訳ではなく、次の試合は容赦ないリアルを連れてやってくる。

8月5日リーグ第22節アウェイ名古屋戦。国立競技場には15,000人のアルビレックス新潟サポーターが馳せ参じるという。聖籠町の人口がまるごと国立に行っていると考えれば目安になるだろう。前述のとおり新型コロナウイルス感染症の療養期間真っ只中、選ばれし聖籠町民になれなかったわたくしは一人淋しくDAZNを眺める。1点ビハインドの前半36分、田上大地のシュートが弾かれ、交錯した相手選手を誤って(恐らく)踏んでしまう。オンフィールドレビューで退場確認がされたが、故意ではないと判断されイエローで済む。それはいいのだけどこの日のDAZNの解説者が「わざと踏みに行っている」「本来なら退場」「感じ悪いですね~」を連発、なんなら後半に入ってもネチネチとこの時の田上大地のプレーを批判しており、たいそう心象が悪かった。選手経験があるなら故意に踏む(しかもPA内で)なんてそうそうあるものではないと分かりそうなものだが。更にこの後太田修介がタックルを受けて負傷退場、これまで2度の怪我があって復帰して調子も上がってきてこの仕打ち…と、悔しそうな表情で担架で運ばれていくのを観てやるせない気持ちになった。この敗戦の後、SNSでは予想通り双方サポの罵り合いが続々流れてきて本当に不毛だった。ラフプレーに憤る気持ちは一定数理解するが、ああいうのは双方のサポにしか正義がなく客観的な判断はどちらも下せないので泥仕合にしかならない。あんな不愉快な解説聞かされて不愉快な罵倒合戦見るぐらいなら、現地で選ばれし聖籠町民(概念)の一員になりたかった。

近年は「誰が引き抜かれるのか」の方が余程心配で落ち着かない、かといって補強がなければないで強化部批判に回る輩が後を絶たないでお馴染み夏の移籍期間、今年はザスパクサツ群馬から長倉幹樹が完全移籍で加入した。聞けば1年前まで地域リーグで働きながらプレーしており、去年からJ2でめきめきと頭角を現していた選手だという。去年から1年半続いた、ある種特殊なアルビレックス新潟のサッカーにどういう形で嵌っていくのか。その長倉幹樹が初めてサブメンバーに名前を連ねた、8月12日リーグ第23節ホーム湘南戦。前半で2点を失い今日も大逆転勝利の権利を得てしまった。別カテゴリに居たはずなのに気が付くと対戦相手に居て必ずゴールを喰らわせてくるディサロ燦シルヴァーノ、新「新潟絶対殺すマン」の称号を河田篤秀と並んで与えたい(与えたくない)。後半64分に投入された長倉幹樹、これまでに観た誰とも違う鋭い動きでボールに絡む。2点ビハインド時点で得たコーナーキック、もっと声を出せと言わんばかりにゴール裏を煽る高木善朗。チャントの音量が一段階上がる。島田譲も煽る。更に上がる声量。負けている時点でサポーターを味方につけて、雰囲気で相手を圧倒しようとしている。選手の言う「サポーターのお陰」が決まり文句や美しい幻想ではないことを彼等が証明させようとしている。ああもはっきりと「頼りにしてる」を提示されたらゴール裏もメインもバックも関係なく声を張り上げるしかないだろう。試合はその高木善朗の2ゴール(流し込むだけって言うけど、あんなミドルシュート流し込み感覚で決める!?)でドローに持ち込むも時間切れ。長い雌伏の時を経て、新潟の王が堂々帰還である。勝ちたかったが今日の収穫は「我々は信頼されている」という実感と、一瞬でフィットどころか同点弾のアシストまで決めてしまった長倉幹樹。途中加入する選手は「一人だけうまい」ではダメで、こんなふうにチームを一段上に引き上げる存在でなければならない。強化部よくピンポイントでこんな逸材見つけてきたな…。

8月18日リーグ第24節アウェイ福岡戦。前半18分、この日初スタメンの長倉幹樹がPA内で3人ほどDFを引き付け、零れたボールに島田譲が反応しグラウンダーでクロスを送る、飛び込む長谷川巧、DFごと転がり込んでゴールに押し込む。長谷川巧のいいところはチーム戦術を超越した「とにかくすごい勢い」だと思っているのだけど、その勢いがついにリーグ戦のゴールという形で結実した。ルーキーイヤーにEゲート前広場で見かけたときはJリーガー史上最も一般人に近い紛れ込み方をしていた長谷川巧、今なら大堀幹線(新潟市西区)を歩いていても眩しさで目が潰れる。と思ったら記録はオウンゴール。なんでもいいから守り切れ~(あと巧はもう1本ぐらい決めちゃえ~)。試合は激しい攻防戦の末に勝利を収めたのだが、試合後の監督インタビューで松橋力蔵が「あれは長谷川のゴールです。僕はそう思っています」と断言しており、特にうまいことを言おうとしていないのに簡潔な言葉で選手との信頼関係を表せる監督、本当に良いな、こういう人格だからぶれないサッカーが貫けるのだろうな、と思うなどした。

8月26日、初めての自走で馳せ参じたカシマスタジアム。リーグ第25節アウェイ鹿島戦。メインスタンドにいるとこんなに何種類ものモツ煮屋さん&シラス丼屋さんがあるのか、初めて人権を得た気分だ。最初に言っておくと完敗の試合なのでさっくりと流すが、垣田裕輝と鈴木優磨に決められて0-2で敗戦。練習でやってきたことを全部出してそれでも勝てないのならこれはもう伸びしろで、久々に納得感のある負け試合だった。高宇洋のミドルシュートはそろそろ入ってほしい(今日はバーを叩いていたので枠内近づいてる!)し長倉幹樹のJ1初ゴール未遂(オフサイド)はあの位置に走り込むことができれば次は絶対に決められる。あと、ゴール前で小島亨介と交錯してイエローを貰った鹿島・鈴木優磨、ジャッジが下されるまでそれなりにイキっていたのに、小島亨介が倒れて立ち上がれずにいるのを見て、大丈夫?水飲む?みたいな素振りでそわそわと周りをうろうろしていたところで不覚にも好感度が上がってしまった。サッカーの上手い輩系大好き人間なもので…。

でも元気出してこ、ポッポ焼き食べてさ?

ベスト8のその先、という未知の領域に手がかかりかけている。8月30日天皇杯準々決勝ホーム川崎戦。7月の天皇杯富山戦以来出場のなかった(恐らくサイレント負傷であろう)谷口海斗が久々にスタメンに戻ってきた。前半30分、その谷口海斗が松田詠太郎からボールを受け、DFを引きちぎってゴール前に持ち込んで、持ち込んで、シュート!持ち味120%のゴールだった。このままいけば神ユニ出ちゃう!どうしよう!と浮かれていた前半アディショナルタイム、相手との接触で膝あたりを痛めて担架で運ばれていく谷口海斗。怪我人が復帰してすぐ負傷、何度も観てきたけど本当に切ない。チーム全体のそういう傾向と考えればやれ復帰の見切りが早いだの体調管理がなんだの、普段のトレーニングを観ているわけでもない層に好き勝手言われるかもしれないがあれはプレー中の偶発事故で、そしてわたくしにとっては怪我人が多いという事象の一部ではなく「推しが怪我した」という1分の1の重い現実だ。こんなのあんまりだ…という気持ちになりながら後半を見守る。68分、瀬古樹のゴールで追いつかれ同点。試合は今大会2度目の延長戦へ。開始早々に山田新のゴールで1点ビハインド。1試合に2週間かけたり終了間際で勝ち抜けたり、こんなに頑張っていてもだめなのかアルビレックス新潟は。頂点に近づくにはまだ足りないチームなのか。そう諦めかけていた延長戦後半アディショナルタイム、ラストプレーになるであろう右サイド遠くからのクロスにゴール前で誰よりも高く跳んだ男が居た。早川史哉だ!誰もが知っている重い病で回り道をして再びJ1に辿り着いて、それでもなかなかスタメンを掴めなかったディフェンダーが試合の土壇場で窮地を救う、ヒーローはいつだって遅れて現れる。PK戦はN側、我々の目の前で行われた。互いに1本ずつ外し、後がない状況で後攻5人目のキッカーは高宇洋。ゴール右隅を狙って蹴り込んだボールはパンと音を立ててキーパーグローブに弾かれる。そのままPKスポットで頭を抱えてしゃがみこむ高宇洋。真っ先に迎えに来て肩を叩くキャプテン堀米悠斗。とてもいい試合だったけれど、PKは運だというけれど、じゃあその凶運の部分をなんで彼に当てたのか。理不尽だけどそんなことを考える。試合後の駐車場渋滞をやり過ごしながら、「チームを勝たせるゴールを決めたい」とずっと言ってきた谷口海斗のこと、試合後ずっと泣いたまま場内一周していた高宇洋のこと、いろいろ考えているうちになんだか情緒がおかしくなってしまい、めそめそ泣きながら帰ってきた。軍団星推しは修羅の道。(みんなそうだよ!)

げんきだして(わたくしもな)

情緒が乱れていても3日後には早速試合があるので、否が応でも気持ちは切り替わる。9月2日リーグ第26節ホーム浦和戦。川崎戦の時に観てびっくりしたのだけど、ビッグスワンの芝が長く続く猛暑と少雨(というか7月下旬から一切降ってない)で広範囲に渡り茶色に枯れてしまっている。この日も当然芝は回復しておらず、浦和GK西川周作がゴールキックで荒れたピッチに足を取られてバランスを崩すたびに「おかしいなあ」という素振りで足元を慣らしている(ごめんやで)。前半にPKで与えてしまった1点を追う展開の試合は後半80分、松田詠太郎がボールを持つとドリブルで相手を一人、二人とかわし、体を当てられても倒れず小見洋太にラストパス、撃ったシュートはポストに跳ね返って直角にゴールネットに刺さる。小見洋太、ついにJ1初得点。これまでシュートを打てども打てども入らないプレッシャーが彼にはあったと思うが、ヒーローはだいたい遅れてやってくるので大丈夫だ。追加点は奪えなかったが、鹿島戦と川崎戦の悔しさは若干晴れてきた感がある。

6年ぶりにパナスタに戻ってきたぞ。9月17日リーグ第27節アウェイガンバ大阪戦。近年(というか我々がJ2に居た間)芳しい成績が出せていないらしきガンバではあるが、なんだかんだ言って外国人選手はみんな強そうだし放っておいてもばんばんシュート放つ食野亮太郎みたいなのは居るし、J1常連クラブのネガティブ報道とサポの自虐なんて絶対真に受けてはいけない。あいつらそうやって昇格組にワンチャンあるんじゃないかと錯覚させて騙すつもりだ。そんな食野に結構なゴラッソを喰らって1点ビハインドの後半82分、前触れもなく千葉和彦の必殺縦パスが火を噴いた。三戸舜介スルーからの前方へダッシュ、落とす高木善朗、スピードを一段上げてDFを股抜きでかわす三戸舜介、GKと1対1、決めた!練習からこれをやっているのだろうなという美しい連携でのゴール。ゴラッソもやればこういうのも出来てしまう、いよいよ三戸舜介手が付けられなくなってきた。前節浦和戦とこの日のガンバ戦、体感では勝点6ぐらい得ていたが実際には2試合連続ドローなので勝点2。なんでだよ。

これは試合後古巣のゴール裏に挨拶に行って割と暖かく迎えられて帰ってくるヤン

よく晴れた(※新潟基準)秋の休日、ホームゲームにうってつけの日。9月23日リーグ第28節ホーム横浜FC戦。前半5分で三戸舜介のGKの手すら弾く強烈なゴール、追いつかれてからの後半61分に高木善朗のコーナーキックから渡邊泰基が頭で合わせてこれが決勝点、仕上げに高宇洋の年イチゴラッソ(15番と年イチ、泰基とヤン2人合わせて見事にミスターアルビレックス本間勲を受け継いでいるな…)。今年初めてじゃないかなぐらい久々に完勝といえる試合だった。ホームゲーム勝利後恒例のパフォーマンス、今日の阿部航斗は何のネタを仕込んできたのかな、と思っていたら、高宇洋がボールを持ったままピッチ中央を離れてN側のゴールに向かう。阿部航斗がゴールマウスに立つ。何が起こるのか理解したスタンドのサポーターから大きな歓声があがる。あの天皇杯川崎戦と同じ場所で、あの時決められなかったPKを今、高宇洋がやり直すのだ。

※主審・長谷川巧

審判役の長谷川巧が笛(概念)を吹き、高宇洋は助走をつけてあの時と同じコースに蹴り込み、今度はきっちりとPKを決め切る。いろいろな重圧から解放されたように晴れやかな表情でチームメイトが待つ方向に走り出し、全員から祝福を受け、最終的には胴上げされていた(胴上げ好きだなこのチーム…)。真剣勝負の場ではないけれど、パフォーマンスの一環でしかないかもしれないけれど、こんな風に誰かの苦しかった経験が昇華されるなんてことあるんだ。なんていうか最高のチームだ。今のアルビレックス新潟を応援していて本当によかった、そう思った。

いつまででもおとぎ話信じてちゃだめかな

鹿島戦の次からの3試合、リーグ戦でここまで得た勝点は5。上位との対戦が続いていたこともあるが、数字としては物足りない。ただ、言い換えれば「3試合負けなし」でもある。リーグ前半でよく見られた開始早々の失点とかカウンターを喰らう場面とか、格段に減ってきた気がする。失点の少なさはひとえに小島亨介の現人神セーブにあるのは確かだが、フィールドプレイヤーがシュートコースを限定できている、守備が整備された結果であるとも言える。順位表はボトムハーフであることに変わりはないが、意外と上位との勝点差は詰まっている。この調子でいけばもしかして一桁順位も狙えるのでは、そう思える勢いであった。

9月29日、金J多すぎんだろリーグ第29節アウェイ川崎戦。今季3回目となる川崎との対戦はいつもミラーゲームというか、同じ特徴が同じ強みを消し合うような展開になり、そういうのは大好物だ。前半22分、柔道でいうと奥襟を取り合っていたら足払いをかけられたみたいな形で失点。29分、三戸舜介のものすごい弾道のミドルシュートがポストを叩く、そのリフレクションを鈴木孝司が押し込む。いつだってゴール前の居てほしい場所にいる男、それが鈴木孝司。後半59分、クロスからのこぼれ球を新井直人がダイレクトで押し込んで逆転。75分PKを与えてしまって同点。目まぐるしいゲームの行方に決着をつけたのは太田修介。星雄次からのロングフィードを左サイドで受けて中央にカットイン、PA外から放ったシュートはファーサイドに刺さる。そのままの勢いで選手達の祝福をかわしてゴール裏に向かって走る。後で誰かが仰っていたけれど「ゴールした選手がゴール裏に来る」というシチュエーション、数年前まではあまりなかったことだ。歓喜を分け合える対象だと我々は思われている。信頼されている。この日の勝利で今季初の連勝というのは意外だったが、そういえば連勝ってなかったな。それよりも川崎相手にシーズンダブルのほうが信じられなかった。マイチームのポテンシャルを確信するふりして少し懐疑的だったシーズン開幕前のわたくしに、「最終的には広島と福岡と川崎にシーズンダブル決めるぞ」と言ったら笑うだろうか。

国際Aマッチウィークによる長めの試合間隔、サマーフェスタや遂に小島亨介が招集された(!!!)ビッグスワンでの代表戦などを挟んで、10月21日リーグ第30節ホーム鳥栖戦。前半アディショナルタイムに得たPKを鈴木孝司が難なく(難なくは見えるけど完全にGKの逆を突いていて職人だった)決めて先制、しかしその1分後に小野裕二にノーマークで頭で合わせられ追いつかれる。そのままドローとはなってしまったが、この日は8月末の天皇杯で負傷した谷口海斗が久々にピッチに戻ってきて、個人的にそこは一番嬉しかった。多分だけどこんなに長い間離脱していたシーズンは今までなかったはずだ。ゴール前にいて良し2列目まで降りてきても良しでオールマイティセンターフォワードの鈴木孝司と比べられる事もあったかもしれないが、彼の持ち味はDFの裏に抜ける動きだったりパワーのあるシュートだったりするので求められる役割は全然違うのにな…と思っている。鈴木孝司にならなくてもいい、海斗は海斗だ。

10月28日、リーグ第31節アウェイ京都戦。J2で対戦していた時はコロナ禍真っ最中で県外移動もままならなかったので、今回が初参戦のサンガスタジアムである。京都のスタメン紹介の映像に乗せたBGMが10-FEETの「第ゼロ感」で、10-FEETといえば京都だからそれはそうなるのだけどあまりにもかっこよくてズルいなと思うなど。前半19分、太田修介がハーフウェーライン手前から倒れながらフィードを繰り出し、独走状態の松田詠太郎がそのままGKと1対1、股を抜いてゴール!と思ったらオフサイドディレイ。いい崩しはできている。33分、高木善朗のフリーキックに密集状態のゴール前で足を伸ばしたのは渡邊泰基。先制。前半アディショナルタイムに京都にゴールを奪われるもハンドで取り消し。眼前でアップしていたサブメンバー(阿部航斗、舞行龍ジェームズなど)がそのシーンを観てサムズアップなどして悠々と戻っていくところを目撃し、ファン目線すぎてちょっと笑ってしまった。後半は原大智、木下康介など長身のFWを続々投入し圧をかけてくる京都。冴え渡る小島亨介(現人神)のセービング。負傷者などもあって終盤にはDFの舞行龍ジェームズが投入され突然の5バックが披露されたのだが、この時本来なら交替出場するはずであったろう星雄次に、松橋力蔵がベンチ前でその意図を説明している光景が見えた。星雄次は顔がいい上に性格までいいので、そういったことで反発することはないと思うが、この時の松橋力蔵は気の利いた管理職のようなマネジメント力を発揮していて、監督力って戦術とかモチベーターとかだけではないのだなと思った。1点を守ってアディショナルタイム、ゴール裏は長回しの「アイシテルニイガタ」を選択した。そのタイミングは映画THE FIRST SLAM DUNKの山王工業戦クライマックスで「第ゼロ感」が流れる瞬間にも似ていて、あまりにもドラマティックだった。DAZNには映らない、アウェイで現地に居ることで体験できる全てを得たような勝利だった。この試合をもってアルビレックス新潟は10位に浮上する。開幕前に言ったら笑われたであろう目標の一桁順位に、もう少しで手が届くところまできた。

これが急遽最後の交替枠を変更したときの力蔵です

アルベルおらんやないかーい!(フラグ回収)11月11日リーグ第32節ホームFC東京戦。前節からこの試合まで2週間のショートブレイクと、あとそういえば9月にも公開練習を観に行く機会があり、戦術練習やミニゲームを観ていて「こういう形でゴールに向かう」という意識はチーム全体に共有されているのだなと思った。1回や2回トレーニングを観ただけで分かった気になるのもいかがなものかとは思うが、チームは我々サポーターの見える部分だけでできている訳ではない。日々のトレーニングとそこで培った関係性のその先に公式戦はある。さてFC東京戦だが、端的にいうとジャッジの不安定さでピッチ上もサポーターも大いに荒れた後味の悪いスコアレスドローであった。特筆すべきはスタメン起用で完全復活(今シーズン2回目の超ロングシュート、GKとの1対1が決まらないところも含めて)の谷口海斗、そしてそのプレー全てに鬼気迫る何かを感じさせた星雄次。1枚イエロー貰っておいてファウルすれすれでボール奪取、相手ゴール前での決定的なピンチを鬼スプリントでカバー。前所属クラブでは「J1では厳しい」などと言われていた、30歳を回った選手がシーズン終盤でまだ成長しようとしている。顔がよくて性格もいいうえにサッカーまで上手い。ハワー。

関東圏アウェイの金J、休みを取って初めて駆けつけた。11月28日リーグ第33節アウェイ横浜F・マリノス戦。日産スタジアムでのシーズン終盤のアウェイゲームといえば誰もが思い出すのが2013年、マリノスのリーグ優勝がかかり6万人を集めた試合、川又堅碁と鈴木武蔵の2発でその夢を打ち砕いてしまったアレだ。奇しくも今年のマリノスも優勝争いの真っ只中、当然必勝を期してくる。だがそれは向こうの事情で、アルビレックス新潟にも一桁順位という目標があり、どうしても勝たなければいけない理由がある。

トリコロールギャラクシーvsプラネタスワン

始まってみればとてもハイレベルで緊張感のある展開。アンデルソン・ロペス、エウベル、ヤンマテウスというマリノスの強力な前線から放たれるシュートを小島亨介(現人神)が片っ端から弾き出す。勿論こちらもやられっぱなしではなく、小見洋太が、谷口海斗が、三戸舜介が果敢にゴールを狙う。最高じゃないか。こういう試合を、こういうサッカーを観るために、我々はJ1に上がってきたのだ。ただどちらもゴールは遠く、気の遠くなるような緊張感を90分保ったままスコアレスでタイムアップ。他会場の結果でマリノスは優勝を逃し、我々は一桁順位の可能性を失った。最高のチームが最高のサッカーをやっていたのに、最高の結果だけが手に入らなかった。

試合終わってウチの選手がこんなにピッチに倒れ込むことありますか。まさに死闘

これはDAZNにもモバアルZのinsideにも映っていなかったと思うが、選手たちが続々とベンチに戻ってくる中、ベンチ脇で悔しそうにペットボトルを地面に叩きつけ、コーチスタッフにまあまあと宥められる高宇洋の姿があった。彼の喜怒哀楽はいつも見ていて分かりやすく、喜び余ってチームメイトの頭を強めに叩いていたり、結果の出なかった試合で泣いて悔しがっているのも何度も観てきた。(物に当たるのよくない!というのは前提として)1試合1試合に、とりわけ今日のマリノス戦に懸ける気持ちが人一倍大きかったのだろうと思う。加えてここ数試合はずっとゲームキャプテン、そういう面でのプレッシャーもあったかもしれない。わたくしがホーム・アウェイにかかわらず現場に足を運ぶ理由は当然サッカーを観ることが主目的、なのだけど、「人の感情が振り切れる瞬間をこの目で観たい」も理由のひとつとしてあるのかな、そんな気持ちでゴール裏に挨拶に向かう高宇洋の背中を見送った。いつか彼が全てから解放されて、最高の笑顔を見せる日が来ますように。

リーグ後半戦にアルビレックス新潟が目標としていた一桁順位(と賞金)の夢は潰えた。それでも、わたくしにとっては最高のチームでしかない。昇格1年目でJ1残留も早々に決めてよくがんばった、上出来上出来とかそういう意味ではない。J2時代から積み重ねてきたサッカーのスタイルを崩さず、J1の強度の中で進化を遂げ、選手も一人残らず成長していった、あまりにも正しい在り方が最高である、ということを言いたい。応援していてよかった。ただ、上を観始めたら際限がない。いつか10位という成績では満足できない時が来る。逆に長くJ1に居ることでモチベーションを失い、残留することだけが存在理由になって「新潟らしいサッカー」を示せなかったかつてのアルビレックス新潟のようになるかもしれない。チームが強くなる過程で今の「雰囲気のいい部活」みたいな青春感のある集団ではなく、シビアである種ギスギスした(でもバカ強い)集団になるかもしれない。それでもなお、わたくしは今のチームを愛したいと思うのだ。愚直なまでにスタイルを貫き、正しいメソッドで前進するチームを信じたいと思うのだ。かつて反町康治が口にした「新潟のおとぎ話」という言葉、夢物語という意味合いでいえば正にそのおとぎ話の中に我々は居る。甘いかもしれないけれど、成長するチームと選手を愛すること、それが自分なりに落とし込んだサポーターとしての立ち位置だ。

12月3日リーグ第34節、ホーム最終戦は開幕カードと同じセレッソ大阪戦。その前日のわたくしは苗場プリンスホテルにいて、4年ぶりに有観客で開催されたNegiccoの冬場一大イベント「私をネギーに連れてって」に参加しており、ネギヲタ兼サポの他サポの皆様と交流し(皆様その節はありがとうございました。兼サポ多いな)、かわいい3人のライブと翌朝のおいしい朝食を堪能して苗場を出発、遅い時間にビッグスワン到着(この苗場ネギーのくだり今どうしても要るか?とお思いでしょうが、どうしても言いたい)。天気が悪すぎて参る、これ苗場より体感気温低いことないか。冷たい、というかほぼ霙みたいな雨が降る中、最高のチームの最後の試合が始まる。ゴールは観られないながらも締まったいい展開になり、セレッソの攻撃を観ながら「スピード感あるね~。シュートも鋭いしJ1を実感するわ~」「感想が開幕戦に戻った」などと友人と話をしていた。67分、谷口海斗と松田詠太郎が交替でベンチに下がった時「えっ今年もう海斗とぽえむ(松田詠太郎)観れないの」と突然我に返った。そう、このメンバーでのゲームは今日が最後。来年には居なくなっている選手もいるかもしれない。今まであまり考えないようにしていた…というか毎試合楽しすぎて、いつか誰かがこの最高のチームから欠けてしまうことに思いが至らなかったのだ。急にものすごく淋しくなるが、このゲームはまだ終わっていない。

スコアレスのまま試合は後半85分、右サイドで藤原奏哉がボールを奪ったところからそれは始まった。高宇洋、トーマス・デン、新井直人が注意深くボールを落ち着ける。星雄次、渡邊泰基、トーマス・デン、一度も相手に触らせない。藤原奏哉からトーマス・デンを経て一旦ボールは小島亨介に戻る。渡邊泰基が一度切り返して相手DFをかわし、サイドラインぎりぎりで倒れながら中央へパスを送ったところで攻撃のスイッチが入った。三戸舜介が2人に囲まれながら反転。サポーターの声のボリュームが一段上がる。潰されながら小見洋太が出したパスは長倉幹樹へ。前進。誰も追いつけない。更に大きくなる声。右の太田修介が受ける。シュート。相手DFに阻まれる。こぼれ球に追いつく太田修介、そしてゴール前に居たのは長倉幹樹。8月の鹿島戦で決め切れなかった時と同じような形で、今日の長倉幹樹は確実にネットを揺らす。リミットを超える歓声。ゴール裏に向かって真顔で駆け出す長倉幹樹。人一倍早くかけつけた阿部航斗を筆頭にベンチメンバーが次々と祝福に訪れる。ピッチ上の全員が繋いだゴールは、正にアルビレックス新潟がそのスタイルを崩さず数年かけて築き上げてきたサッカーの象徴のようでもあった。シーズン最初のゴールがJ3からJ1に駆け上がった谷口海斗で、最後が地域リーグからJ1に到達した長倉幹樹、何もかもが出来過ぎたストーリーじゃないか。最高だ。最高のチームが最高の試合をして、最後の最後に最高の結果を手に入れたのだ。

最高レックス新潟、今年最後のハルヲ最高スウィング

10年後もわたしたちってJ1なのかな

2023シーズンのアルビレックス新潟の物語は、ここで終わる。その後に誰がチームを去って誰が契約更新して誰が加入するのかは、本稿には記さない。何故なら加入や移籍や契約更新のリリースが現時点で進行中で、毎日とてもメンタルが削られる思いをしている最中だからだ(12月~1月の年中恒例行事)。それでもわたくしは今年のチームとそこにいた選手達は全員好きだし、去っていく選手に対してもその気持ちは変わらない(気持ちの問題なので移籍金が発生するとかしないとかは全く別の話である。勿論あるに越したことはないが)。多少のロスはあるけれど、わたくしなりに全力で2023シーズンをやりきったと思っているのでチームを去る選手達に思い残すことはない(でも場合によっては取り乱すとは思う)。44試合中31試合を現地観戦できた、そういう面でもやりきった方だろう。そのうちいろいろな事情でスタジアムに足を運ぶことがままならなくなるかもしれないけれど、DAZNで観ていたとしてもやりきることに変わりはない。全世界のサポーターよ、今できることを精一杯でやりきれ。

まっさらな気持ちで6年ぶりのJ1に挑んだ2023シーズンが終わって思うこととしては、J1…楽しすぎんか…? レベルが上がったら勝てなくなって楽しくなくなると思っていたけれど、まあ実際楽しくない時期も幾分あったのだけれど、それを大幅に上回ってあの環境でサッカーを繰り広げて成長していくチームと選手を観ていられるのが楽しくてたまらない。ずっとここに居たい。降格したらしたで「いろんな街に行けて観光もできてJ2楽しーい!」って言っているとは思うが、10年経っても本国トップリーグで躍動するアルビレックス新潟を観たいし、あわよくば何らかのタイトルも狙いたい。ACLなんかもいいですね。代表選出される選手や海外にステップアップする選手も続々出てほしいし、それを見てここでプレーしたいと思う野心ある選手もたくさん来てほしい。欲望は果てしなく続く。


毎年シーズン終了後には「来年はもっと楽しいに違いない」と言っているが、2024シーズンのアルビレックス新潟、絶対楽しいことになるから見とけよ。最終節の長倉幹樹のゴールを映像でご覧いただいたところで本稿の〆としたい。ご清聴ありがとうございました。


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