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キャリアのデチューン

最近、歳をとったこともあって割とこういうのもありなんじゃないか、と思うようになったことの一つに、キャリアのデチューンというものがあります。

デチューンというのはレーシングカーの分野であえてパーツの性能を落とす処理のこと。そうすることで騒音やコストを抑えたり耐久性を高めたりするのが目的です。本来の性能のままではピーキーで危険だからリミッターをつける、みたいな。

チューンナップの対義語としてのデチューンをキャリアという言葉につけることで、キャリアアップの対義語としたいわけです。

ここで肝心なのはキャリアダウンではないこと。ただ下がるんじゃなくて、あくまでチューニングの一環としてのデチューン。単なる言葉遊びではなくて、きちんと意味があるんです。

20代から30代、さらには40代とひたすらキャリアアップに励んできたわけじゃないですか、みなさん。そういった成長だけを追い求めるのはもういい。散々やってきていまはもう成長しなくていい。というかしたくない(笑)。

もちろんそういったロートル(死語)にのみ当てはまるわけではありませんよ、キャリアのデチューンは。20代の成長盛りだったとしても、もう無理だ、このまま行くとタヒぬ、となった際には有効です。

もう一度言いますが、キャリアダウンではありません。あくまでデチューンというところがポイントですからね。

話の解像度を上げるために、ここで実際にキャリアのデチューンを体験したぼくの話を聞いとくれよ。またお前の話か、とか言わないでくださいね。そもそも毎回俺の話なんだから。


地味極まりない求人広告の世界からなんとか這い上がって、念願かなって消費財の広告制作の現場でコピーライターとなったぼく。しかしあまりの能力(才能ではなく)の無さ、事務所のボスのフィリピンパブ狂い、その他もろもろの理由から何もかも嫌になって夜逃げします。

逃げた先に何があったか。何にもありません。あるのは毎月の家賃や光熱費。

仕方なく働き口を探します。ここで、昔取った杵柄とばかりに求人広告のコピーライターに戻ってしまうと、キャリアダウンです。

もちろん当時はそんなことはわかっていませんでしたが、なんとなく本能的にそれはヤバいなと思って避けました。

そこでぼくが選んだのが居酒屋の店員でした。

居酒屋の店員の仕事は、ぼくにとってまさしく天職でした。消費財のコピーライティングという仕事がぼくの10ある能力に対して15も20も求めてくるのに対して、居酒屋のホールは2か3ぐらいの力で回せてしまう。

こうなると不思議なことにそれまでの広告コピーの仕事では考えられなかった「仕事の質を高める」みたいな気持ちが湧いてくるんですよね。すると高い成果が出る。そして評価されておちんぎんも上がる、ぎんぎんに上がるという好循環が生まれます。

そして、ここがキャリアのデチューンたるところなんですが、曲がりなりにも5年間の会社員生活、そして広告宣伝関係に身を置いていたことがものすごく役に立つんです。

ぼくのお店はホールスタッフの大半が大学生のアルバイトかフリーターで占められていました。その一方で客層は真逆。ほぼ全てのお客様が年季の入った会社員でした。客単価が当時で7500円ですから、そりゃそうだろうよ。

そうなると客あしらいにもそれなりの空気感温度感が求められます。ある程度、渡る世間の酸いも甘いも知ってた方が対応の物腰が違うというわけです。これが大学生やフリーターには難しい。ここでぼくは大きなアドバンテージを発揮します。

さらに広告宣伝の一応の知識と経験があった。それまでその店ではマスコミの取材などは一切受けていなかったんですね。なんで?とオーナーに聞くとやり方がわからないから騙されそうで怖いと言います。

ここでぼくの浅はかではありますが専門性が発揮できました。問い合わせてきた時点で担当し、媒体の種類やPR目的なのか純粋な記事取材なのか、費用負担はどうなっているか、掲載前の校正はできるのか、取材はいつどこで何時間ぐらいなのか、などなど、事細かに確認を進めていきます。

この取材対応はかなり集客に貢献できました。なにしろ取材を受けた張本人が1階ホールで客入れをやっているわけですからモロに反応を実感できたわけです。


こういうことなんです、キャリアのデチューンって。単なる仕事のステージやステータス、入職難易度を下げるだけではなく、それまでに培ったスキルやキャリアを全く別の場所で、特にパワーをかけることもなく発揮できる。そしてそれがバリューとして評価される。ここにキャリアダウンとの大きな差があります。

いかがでしょう、いま、キャリアの先行きが不安だ、なんて感じている方。あるいはもうキャリアアップはしんどい、もう少し楽したいと思っている方。闇雲に賃金だけ、条件だけで別の道を探すのではなく、自分のやってきたことを小さく細かく切り刻んで、あたかも空気を吸うかの如くできることを言語化してみてはいかがでしょうか。

それが活かせる仕事場であれば、もしかするとノーストレスで圧倒的なパフォーマンスを発揮できるかもしれませんよ。

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