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【広告本読書録:110】待っていても、はじまらない。 潔く前に進め

阿部広太郎 著 弘文堂 刊

思えば言い訳ばかりの人生を歩んできた。悔しいときに、きちんと悔しがらなかった。いつか誰かが高い場所へ引き上げてくれると勝手に期待していた。踏み出すべき一歩を踏みとどまっていた。

駆け出しの頃、コピー年鑑でいちばん最初に開くのは新人賞のページだった。確認するのは生年月日。自分より年上ばかりが受賞しているのを見て安心していた。それがいつの間にか3コ上、2コ上と近づいてくる。

新人賞受賞者が自分より10歳以上若くなったある年、ぼくはコピー年鑑を見るのをやめた。

広告のイベントやセミナーに登壇するコピーライターやクリエーティブディレクターはみんな年下になった。気づけば20歳も下のクリエイターに憧れつつ嫉妬しつつ、才能も学歴も運もない自分を憐れむ。

いまここに、阿部広太郎さんの、おそらく最初に出版されたであろう本がある(違っていたらごめんなさい)。『待っていても、はじまらない。』サブタイトルは「潔く前に進め」。帯には「自分の道は、自分でつくる。」とある。

ぼくはいつも阿部さんの本にやられるのだが、今回はもしかしたらいちばん大きなゲンコツをもらったかもしれない。

33年前の自分に読ませたい。33年前に戻れたら、お前、これ真剣に読めよ。そして素直に実行しろ。つらくなったら読み返せ。そしてまた前向いて歩け。そうしたら後悔しなくてすむから。と、言ってやりたい。

それぐらい、若くてくすぶっているコピーライターやデザイナーに読んでもらいたい一冊です。

自分の道をつくるヒント

この本は阿部さんがコピーライターとしての自分の道を、自分でつくる決意をし、一歩踏み出したことが起点となっている。先輩たちが引退して座席があくのを待っているのではなく、自分から動く。できることをやる。

阿部さんはその瞬間に生きている実感を得た。と、同時に他の業界ではどうなんだろうと気になりはじめた。そこで脚本家や作家、映画監督、芸人など6人のその道のプロとの対談を通して自分の道をつくるヒントをあぶり出した一冊である。

あわせて対談の間には阿部さん自身の学生時代から、いま(といっても2016年当時)に至るまでの紆余曲折、挫折や回り道、そして突破してきたヒストリーがストーリーとなって描かれている。

これが、まぶしいのである。

阿部さんが電通に新卒で入社し、最初人事としてスタートした話は知っていた。必死にクリエイティブ試験を受けて、なんとか合格したこともどこかで読んだ。

でも実はそのもっと前にも阿部さんは自分の道を自分でつくってきていた。中学3年生のときの原体験。これが全てのはじまりだった。ここでもうすでに阿部さんはできあがっていたのだ。

さらに、駆け出し時代から宣伝会議賞までのエピソード。阿部さんは自分のあがきをきっちりと成果につなげている。新人の頃にダメ出しの連続を食らったのはぼくも同じなのに、正しい努力ができていなかったのか、あるいは夢中になりきれていなかったのか。この差はなんだろう。

とにかく、阿部さんは教えてくれる。こうすれば夢が叶うと。こうすれば突破できると。こうすれば少なくとも後悔はしないと。

noteで読むより臨場感が増す

実はぼくはこの本の存在を知ってはいたのだが、単なる対談集かなにかだと思って手に取ることはなかった。

でもある日、なにげなくnoteを見ていて阿部さんの記事にぶつかった。

全文公開チャレンジ。それがもうその時点で潔すぎるじゃないですか広太郎さん!と心の中でツッコミながら、夢中になってスクロールした。

全文公開とはいえ対談部分をのぞく、阿部さんのパートだけ。それだけでも面白かった。すでに知っている話にもいろいろと背景や説明が加わり、新たな発見や感動が生まれる。即Amazonで購入した。

そして、あらためて紙の本で、1ページずつ読み進めていくと…

対談が、いいのである。
いちいちグサグサ刺さるのである。

たとえば脚本家の渡辺雄介さん。本当はコメディの脚本をやりたかったのだが宮藤官九郎さんを知り、クドカンチームに入ってその実力と才能を嫌というほど見せつけられる。

ふつうなら、っていうか、ぼくならそこで何か言い訳でもして、グジグジとコメディの脚本を続けるだろう。でも渡辺さんは違った。ならば層の薄いところはどこだ、と探して漫画原作という場所を見つけた。

勝てる場所を探すという方向転換。めちゃくちゃ客観的に自分を見ていないとできない。

また、映画監督の松居大悟さんは、人とのつながり方が攻めててすごい。自分にとっての神のような存在の演出家に宛てて事務所にメールを送る。レスがない。2通目を送ってもレスがない。ふつうなら、っていうかぼくならこの時点で諦める。ってかぼくは送らない。恐れ多くて送れない。

でも松居さんは3通目を送る。すると直接本人から「ごめんなさい、バタバタしていて…」とよそいきな感じで返信がきた。

そしてその神が東京に来た時、公演を観に行き打ち上げに誘ってもらい最終的には自宅アパートに泊まっていってもらうところまでいく。そして気に入ってもらって翌年は公演を手伝うまでに。

この食い込み方。

松居さんは何度もメールしたりするのはダサい、とした上で、でも当時は必死だったし、そうすることで何かひとつでもかたちになるならダサいと思った上でそれやればいいじゃん、と。

「なんかすごいことしたいんですよー」って口だけの人も多くて、そういう人をみると、まず、行動したのか?一つでも作品をつくったのか?自分の好きな人、憧れている人に少しでも認識してもらえるようなことをしたのか?って言わないけど、そういう気持ちになります。
第3章/はみ出る仕事 P92より

こういった対談でグーッと熱が上がったあとに、阿部さん本人のエピソードを読むと、それはそれは臨場感というか、エモさが120%増す。それはもうnoteの比じゃない。

だから、この読書録読んでちょっとでも興味を持ったらまずAmazonでもジュンク堂でも青山ブックセンターでもなんでもいいので紙の本(電子書籍もあるそうです)を手に入れて、とにかく全編読んでほしいです。

素直さと貪欲さと誠実さと

こういうことを言ったり書いたりするから老害だと言われることはわかっている。わかっていても言わざるを得ないこと、書かざるを得ないことがある。なぜならそれが老害だから。

間に合わなかったぼくが、まだ時間のあるヤングに言いたいこと。

それは、こういう本を読んだら、素直に受け止めて、貪欲に取り込んで、誠実に実行してみてほしいということだ。

「こんなのは一部の才能のある人の話でしょ」
「いやいやいや、目の前のことで忙しくて」
「そうはいっても成功した人は運がいいんで」

いくらでもやらない言い訳はできる。ぼくもそうだった。でも、はっきりいって後悔していることが多い。だいぶ多いよ。

人生における後悔は、できれば少ないほうがいい。そのためにも、何かやりたいことがあるなら、あるいは何がやりたいかわからなくても、こういった本を読んだら読んで終わりにしないで自分ごとにするべき。

ぼくは、この本で、うんと歳の離れた阿部さんに、ぼくが本来歩んだかもしれなかった未来を教えてもらった。そんな気がしている。

チャンスは待っている人のところにはこない。

来た道を教えるのと、行く道から学ぶのは、どちらも同じなのである。

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