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求人広告とマッチングアプリ

ひさしぶりに求人広告の話でもするか…
4月もそろそろ終わるし。


最近、求人広告のディレクションをしてくれないか、というオーダーがいくつか入ってくるようになりました。企業規模でいうとだいたい30名から50名の壁をこえよう、とするクラスです。

それまではリファラルや業務委託からの社員化でまかなってきたのが、そろそろその手法にも限界がきて、こっから先はある程度の人数を紹介フィーより低めの金額で獲得していかないと、というレイヤーですね。

こうなると求人広告媒体への出稿も大いに選択肢にあがってくるわけです。スカウト媒体か求人広告か、でいうと手間暇効果性を考えて、まあ贔屓目に見てもイーブンかなと思います。

じゃあ、ということで求人広告媒体社(あるいは代理店)の担当を呼んで求人原稿をつくってもらう、となるんですが、それまで代表やナンバー2、あるいは管理部門の責任者が直接手を動かしていたというケースがそれなりにあります。

すると多くのシチュエーションで採用要件が整理されきっていなかったり、言語化、体系化されていなくて、いざ求人広告をつくらせたはいいがなんかピンとこない広告表現だとか、欲しい人材からぜんぜん応募がこないからやっぱ求人広告はオワコンなのかなという事実誤認(であると信じたい)が発生します。

そんなとき、奇跡的にというかたまたまわたしのことを知っている人が社内にいたりすると、ふと思い出して電話をかけてくる、というのがご発注をいただくまでのストーリーです。ありがとうございます。がんばります。


それで現場に入ってみてみると、たいていが採用対象者に対して欲張りさんなんですね。

たとえばこんなかんじで。

広告掲載では「未経験OK!」としておく。で、未経験でもまあいいけど本当に欲しい人材は5年ぐらいの経験者。でも経験者募集の求人広告にすると未経験者フラグが付けられないので検索に引っかからなくなり母集団形成ができない。だから表向き未経験可にしておいて、あわよくば、という戦略です。ドヤァまたはキリッあるいはキラーン。

果たしてこれを戦略と言っていいのかしばし思い悩むのですが(戦っていないので確かに戦略と言えなくもない)まあ、わがままボディな話です。

こういう話をされて、どうですかハヤカワさん、と意見を促されると、たしかに偶然の出会いみたいなものが100%ないといい切れない以上、あまり強い言葉で否定しにくいのも事実。

ほんと、広告である以上、求人広告にも水物の要素が多分に含まれるんですよね。

だけど、お金を払ってそんな不確定要素の高いギャンブルをいつまでも続けるのってヘルシーじゃないと思いません?よほどその会社の経営者が神頼みが好きな人ならともかく、偶然と奇跡に頼る採用って。

なのでいつもここで採用責任者の方とカロリー高めのディスカッションを行うことになります。

未経験者と経験者ではヒットするベネフィットも違えば知りたい情報も異なりますよ、とか。どっちもほしいからといってあれもこれもひとつの広告に盛り込むとかえってなにも伝わらなくなりますよ、とか。

結構、求人広告というか、コミュニケーションにおける基本のキ、みたいな話をさせていただくことが少なくありません。


ところが最近では大手を中心に媒体に登録した求職者のうち、市場価値の高い層(職種経験者、高学歴大手第2新卒、高難易度の資格保持者等)はその媒体社が展開する人材紹介事業にエスカレーションされる傾向にあります。

求人媒体社にとっては広告だろうが紹介だろうがどっちだってよくて、こんな言葉は使いたくないんですが、高く売れたほうがいいんです。低単価な求人広告よりも年収の30%~40%で売ったほうが儲かるのです。当たり前の事実です。

そうなると「経験者には経験者に向けた情報を」といった正論が通じにくくなるんですね。

自分も話しながら「そもそもそんな経験者いないんじゃないの?その媒体の登録者データベースに」と思って萎えてしまう。

結果として、先方の採用責任者たる人の「あわよくば…」に抗う気持ちが失せてしまうのです。

最近では、広告では未経験訴求でありつつ経験者に向けての情報もどこかの項目に忍ばせておきましょう、何があるかわからないですからね、そして経験者の採用は予算を割いてエージェント使いましょう、という、いったいなんのために呼ばれたのかわからない提案をする始末。

なんとも脱力感というか、無力感に苛まれることこの上ないです。


だけど

求人広告サイトって出会い系のマッチングアプリと構造一緒だと思うんですよね。

どんなに好みの相手が見つかったとしても、その相手が「どんな人でもOKです!ただし私にあう人なら!」って言ってたら果たして「いいね」を送るか?(送るかも?)

「虫も殺せぬ気の小さな人が好みですが、すごく力づよいマッチョな人も好みです。文系の方と小説や映画の話をしたいですし、理系の方と宇宙や数式の話もしたいです」

そんな自己紹介文に好印象を抱く人っているでしょうか?(いるかも?)

コピー用紙の裏紙をクシャクシャに丸めたものを5つ同時に投げたら、ぜんぶキャッチできるか?下手したらひとつも受け取れずにこぼすことになるが、それでもあれもこれもっていうのか?

この、紙を丸めて投げるエピソードは、かのスティーブ・ジョブスにクリエイティブディレクターのリー・クロウという人が実際にやったものです。ジョブスを相手にすると苦労する、という逸話でもあります。

あれもできます、これもできます、はなんにもできないに等しい。それと同じようにあの人もほしい、この人もほしい、では誰も採用できない。

求人広告媒体の登録者DBに採用対象となりうる経験者がほとんどいなくなった(※)といわれるこの時代に、わたしはそれでもそう思うのです。

(※)その代わりに採用対象にならない、職種経験を持った60代以上の求職者(登録者)はいっぱいいらっしゃいます。その意気やよし、です。この年齢層向けの求人マッチング事業はお金にならないかもしれないし、単なるマッチングだけでなくいろんな課題を含んでいるのでたいそうめんどくさいのですが、それでも業界のフラッグシップカンパニーはやるべきだと思うんですけどね。社会的責務として。いつか自分らもそっち側になるんだし。




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