見出し画像

『大吉原展』内覧会での、田中優子先生による挨拶全文

東京藝術大学美術館にて『大吉原展』が、明日、2024年3月26日(火)から2024年5月19日(日)の日程で開催されます。それに先立つ本日3月25日(月)に、報道陣向けの内覧会がありました。

その内覧会にて、本展の学術顧問である法政大学名誉教授の田中優子先生から挨拶がありました。その挨拶の内容をわたしが要約することも可能ですし、本展を紹介する記事を、どこかで掲載する際には要約するはずです。ただし、要約する際には、どうしても本展に対するわたしの考え方が影響せざるを得ないと思います(それは、どのメディアの誰が書いた記事でも、同じことがおこります。故意だろうと過失だろうと、人が介在して伝える以上、その書いた人の考えが、程度の差はあれ影響してしまうとわたしは考えています)。ということで、できるだけわたしの考えを排除するために、ここでは、田中優子先生が発した言葉を、そのまま記載しておきます。
※一部、聞き取れなかった箇所があります
※文中の()内は、わたしの注釈等です

■田中優子先生の挨拶……全文

ようこそいらしてくださいました。高いところから失礼いたします。今日は、皆さんにこの『大吉原展開催にあたって』という文章(プリント)を、配布させていただいてます。『吉原と女性の人権』という題名になっています。で、このテーマについて私は少しお話ししたいと思います。本日から開催されるこの展覧会なのですが、これ、吉原を正面からテーマにしたものとしては初めてだと思います。で、今までは歌麿展を初めとして大変いい、浮世絵展は行われてきました。しかし、それを吉原という括りで、全体を見ようということはなされてきませんでした。それは、浮世絵展としてだけではなくて、工芸品なども含めてご覧いただけるものがたくさん、実はあったんですね。で、吉原というテーマにすると、例えば遊女の着物、これ、すごい着物を着ますので、着物そのものが残ってるというよりは、それが絵になってます。それから、たばこ盆などなどの工芸品、これは蒔絵で作られている大変豪華なものです。それから、町そのもの。吉原という町が作られて、そこが本当に非日常的な、ある種の“芝居の舞台”のような町です。そういう町が作られています。で、そこで年中行事が、独特の年中行事が行われて、いつ行っても何らかの年中行事がなされているという場所になっています。それから、日々の暮らし方の時間、それから座敷のしつらえなどなど、1つの展覧会として集めるということになりますと、本当に様々なものが集まってきますので、これはやはり吉原展ということは、大変貴重な機会だと思うのですけれども、今までなされてこなかった理由があります。これは、その吉原の経済基盤が売買春だったからです。で、吉原を支えた女性たち、遊女たちは、 家族のために前借金をして、その借金を返すために働いていました。で、これは決して人身売買ではありません。なぜかというと、 徳川政権が人身売買を固く禁じてましたので、吉原遊廓についても、これができるにあたって 絶対に人身売買をした遊女を雇うなということを決めてます。吉原は様々なルールがあります。○○(聞き取れず)のはなぜかというと、それまでたくさん散らばっていた妓楼を、1箇所に集めて管理するために作られたんですね。ですから、惣名主がいて、その人が管理しているという状態で(注:浅草に近い新吉原へ移る前に日本橋人形町付近にあった)元吉原は始まっていますので、そういう意味では売買……人身売買ではありませんが、しかし、前借金、膨大な借金を抱えて遊女たちも入ってきます。それはやむを得ずそうなるわけで、望んできたわけではありません。で、だけれども、その借金を返すまではとにかく出られないんですね。ただ、借金を返せば出ることはできますから、買われたわけではありませんが、でも、出られないんです。これはもう明らかに人権侵害です。ですから、2度とこういう場所があってはならない、出現してはなりません。私は、『遊郭と日本人』と日本を書いた時に、それをはっきりと書きました。「2度とこの世に出現してはならない場所 」として遊郭を書きました。で、公認の遊郭というのは吉原だけではありませんので、日本全国に散らばってますから、これはある種、その芸能をやっていた女性たちが、 同時に売買春をやるというのが、ある種の日本の歴史だったという風に言っていいと思います。それは繰り返してはならない歴史です。そして、それの後の歴史に及ぼした影響は多大なものがあると。ですから、そのことに私たちはちゃんと目を向けなければならない。で、〇〇(聞き取れず)したら当然、人権という言葉と考え方はないわけですね。で、私たちは戦後初めて人権という考え方を憲法の中に明記しました。ですから、(現代の)私たちには(人権という言葉と考え方が)あります。ですから、そこの考え方から言っても、吉原という空間は2度と出現してはなりません。で、実際に1958年に売春防止法が実施されて、そのあとなくなるんですけれども、しかし、その女性という存在についての固定観念を作ってしまったのは間違いがないことです。しかし一方で、皆さんきっと展示物をご覧になってお感じになると思うんですけれども、吉原の町の中の賑わい、様々なこう音が聞こえてきそうなところですし、それから素晴らしいものをまとっている。で、それに対して絵師たちが非常に深い関心と尊敬の念を持って遊女たちを書いているということは皆さんに伝わると思います。大変深い敬意を持っています。ですから、そこにくる人たちの払うお金って何に使われているのかというと、そこで生み出された文化に対して使われています。で、様々な文人がやってきます。武士たちも入ってきます。で、吉原で生まれた文学、絵画、浮世絵、非常にたくさんのものがあります。で、そこで版元たちが様々な作家と交流して新しい作品を生み出していくということも起こりました。つまり、文化がそこに凝縮して、しかもその新しい文化が生まれる拠点にもなったんですね。で、そういう側面は見過ごしてはならないんです、これ、文化史からみて。ですから、そこに展開される象徴としての年中行事、それから、特に桜の季節、 さっき言いました、これは芝居の空間(のようなもの)だって言いましたけれども、桜が、桜の季節になると持ち込まれて植えられるんです。終わるとこれが持って帰るんです、植木屋さんたちが。ですから、本当に全部が虚構の舞台空間です。そういうものとして非常にアーティスティックに作られている場所です。で、世界でも稀(まれ)な空間です。で、この遊郭にこう…考えるにあたっては、その文化の側面っていうのをきちんと見なきゃなんないんですが、さっき言いましたように、売買春の場所であって、それが経済の基盤になっていたってこともきちんと言わなきゃなりません。つまり、片方を見ることによって、もう片方を隠してしまうということに問題があると私は思ってます。ですから、どうぞ両方見てください。両方があるということを知ってください。で、その売買春の場所であるってことは、もう既に法律で禁じられてるわけですから、起こらないとは思うけれども、でも、ご存じのように、現在でも売買春ということが行われています。で、とりわけこの4月が、大変日本のこの女性の歴史の中で記念になるような時になりますけれども、この女性の保護法ができます(女性支援法)。売春をしていた女性たちが、今まではまるで犯罪者のように、その“更生させる”という考え方だったのが、この4月の1日から“保護の対象”になるんですね。非常に大きな法律の転換点を、もうすぐ迎えるんです。大変これ記念すべき時です。しかし、それだけでは足りません。私は〇〇禁止法が必要だと思っています(聞き取れず)。つまり、買う方の禁止法です。これはフランスとか北欧ですでに始まってますので、見習うことができます。それだけやらなければ、 この女性の人権を守り続けるということは不可能です。で、今でもご存知のように、女性のこの収入であるとか、非正規社員の問題であるとか、様々なことがありますので、女性の地位を上げていくということも含めて、そのようなことが必要だと思ってます。で、私は、皆さんにぜひこの吉原のことを知っていただくことによって、 女性の人権をこれからさらに守っていく方法…に関心を持っていただきたいし、それと同時に、江戸時代の文化というのはそういう文化を持っていたという、そういう文化というのは、今申し上げたように、遊郭の中で生まれてきた、その工芸品であるとか着物であるとか、美意識であるとか浮世絵であるとか絵画であるとかというすごい文化を持っていたということと、両方ですね、その両方にぜひ目を向けていただきたい。片方だけではなく両方があったということに目を向けていただき、なぜその両方が両立できたのか。これは、あの、私は答えを持っていません。これは、日本の歴史の中にそういうものが非常に長い間、埋め込まれてきました。もう私たちはそういう時代に住んでいませんが、そのこともこれから考えつつ、 江戸時代の文化として吉原文化を見ていただきたいと思っております。私からは以上です。ありがとうございました。

■展覧会概要など

なお、田中優子先生が挨拶の冒頭で「『大吉原展開催にあたって -吉原と女性の人権-』という文章(プリント)を、配布した」と話していますが、同文章と、上述の挨拶文の内容は、ほとんど同じです。

展覧会「大吉原展」
会期:2024年3月26日(火)〜5月19日(日) 会期中に展示替えあり
(前期 3月26日(火)〜4月21日(日) / 後期 4月23日(火)〜5月19日(日))
会場:東京藝術大学大学美術館
住所:東京都台東区上野公園12-8
観覧料:一般 2,000円(1,800円)、高校・大学生 1,200円(1,000円)、中学生以下 無料
ほか詳細は、下記の公式サイトをご確認ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?