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2.呆れたにわか雨

降ったと思っては止み、止んだと思ったらまた降ってくる。

その繰り返しに、私と助手は辟易していた。

「お天道様も頻尿ですね」

事もなげにくだらないことを言う私の助手は、真顔だった。

私の助手は、片目が見えない。

ある小説の人物に憧れて、己で片目を潰したのだ。

眼球の摘出は難航したが、事なきを得て、その窪みに義眼を入れて日々暮らしている。

視界不良を感じさせない立ち振る舞いだが、日頃の言動には、常々手を焼いていた。

「そこは呆れたにわか雨でいいだろう」
「なんの話ですか?」

彼は自分の言ったことはすぐに忘れる。

その場の思いつきを言葉にしているのだろう。

時折見せるインスピレーションには光るものがあったが、一瞬の閃光のようなもので、彼の脳は右脳しか機能していないのではなかろうか。

右目を潰すと左脳が閉じるのだろうか。

彼の台詞のおかげで、私の考え事は無残にも霧散した。
示し合わせたかのように、霧雨まで降ってきた。

ああ、私はとても大切なことを考えていたのではなかっただろうか。

「なあ、お前」
「なんですか?」
「私はさっき何を考えていたと思う?」
「そんなの決まりきってるじゃありませんか」
「なんだと?」

助手の義眼がくるりと回った。

「さっさとズラからないと、とっ捕まりますよ」
「ああそうだ。逃走中だったな」
「なんでそれを忘れられるんですか?」
「それは」

お前の台詞のせいだ、といいかけた言葉を飲み込んだ。
まるで飲尿療法ではないか。
自分でその発想を笑いそうになり、唇をかんだ。

「なんですか?後悔してるんですか?」

確かに後悔している。
自分の発想の馬鹿さ加減に。

「にわか雨程度でズラかるのやめてたら、とっととお縄を頂戴されますよ」
「まあ堂々としようか」
「そうですな。それが俺たちの流儀ですものね」

大泥棒と義眼の助手は、くだらないことを考えながら、またセキュリティーの甘い、ジュエリーショップを狙っている、かもしれない。

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お題:あきれたにわか雨 必須要素:義眼 制限時間:15分 文字数:848字




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