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7.古時計

俺の部屋には時計が無かった。

電波時計の壁掛け時計が、いつもよく分からない時間を刻むから。

妖気でも受信してるんじゃないか?

そう言った俺の兄貴の髪の毛が、少し逆立っていたのはよく覚えている。

少しづつではあるが、俺の時計は動き始まりつつあった。

きっと誰しも歯車さえ噛み合えば、ある所まではいけるものだ。

自分にとって、この世で生きるということは、自分の歯車を動かすメンテナンスが人よりも欠かせず、かつ面倒で、繊細なのだろう。

それはそれだ。

社会の歯車になりたくないだの、俺は社会の歯車だなどと、自笑する輩に、俺はなりたくない。

まずは自分の歯車の手入れをし、自分の時間を確実に進めよう。

今の自分の一秒は、社会の一秒よりも遅いかもしれない。

それでも前に進んでるからいいじゃないか。

自分の時間は逆走もするし、狂うし、社会の時刻と同じ時を示すことすら滅多にないかもしれないが。

俺はまず、俺の時間を一秒一秒進めて行こう。

きちんと自分の時間が進んだならば、その暁に俺は自分に時計をプレゼントしようと思う。

大きなのっぽのものを。

そんな紙屑が出てきたのは、大きなのっぽの古時計を処分するときのことだった。

目ざとく見つけてくれた妹に、心から感謝している。

なぁ、爺さん。

あんた、いい人生だっただろう?

http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=503624

お題:昔の話 制限時間:15分 文字数:577字

参加される皆さんの好きを表現し、解き放つ、「プレゼンサークル」を主宰しています! https://note.com/hakkeyoi1600/circle ご興味のある方はお気軽にどうぞ!