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14.傍の石油女王

「私、油田を掘り当てたんだ!」

付き合って間もない彼女の一言に引きづられ、僕は彼女の洞窟を、始めてのデートスポットにすることを選んだ。

彼女は筆まめな性格で、予め、準備しておく荷物と僕の用意しておく荷物を区分して書き分けた、デートのしおりを用意してくれた。

惚れ直すじゃねえか、この野郎。

ヘルメットと作業着は、SMLサイズを予め連絡しておけば、用意しておいてくれるというし、つるはしと現地までのトロッコは彼女が手配してくれるというし、とにかく彼女におんぶに抱っこで、この洞窟までやって来たのだ。

僕が用意しておくものは、懐中電灯や携帯食料等々で、万々が一の遭難や陥没に備えた準備だけで問題ないそうだ。

生死に関わる事態になるのは、まず問題ないけど、まだ掘り当てて間もない油田なもんだから、どの石油王に営業かけに行けばいいか迷っているらしい。

そんな彼女がどうして僕を選んでくれたのかな。

もっとも僕は、彼女の顔が見れるのならば、ツルハシ片手に作業員になっても一向に構わない。

当日になると、彼女は間違いなく今日の日のために用意したデートの用意と、今日の日の探検に備えた冒険の用意を絶妙なバランスでコーディネートして来てくれた。

彼女の作業着に刺繍してある、胸のハートのアップリケがなんとも言えない。

惚れ直すじゃないか、この野郎。

「ごめん待った?」

かくいう僕は、三時間前から来ていたけれど、周囲の地形や陥没の危険性をハザードマップや古地図と照らし合わせたり、石油燃料が排出する二酸化炭素を減らすテクノロジーを開発しているベンチャー企業をリストアップしていたから、全く問題ないよ。

「今来たところさ」

二人で軍手した手を繋いで、彼女の手配したトロッコに乗った。

確かにこの洞窟からは、石油の匂いがぷんぷんするな。

それにしてもこの洞窟は、どうしてずっと放置されていたのだろう。

気になる気がしなくもないが、気にしなかった連中が悪い。

彼女の観察眼と日頃のツルハシが物を言った努力の賜物だ。

現地に着いたら本当にすごい。

出てるわ出てるわ。

油田ってこんな感じなんだ。

「石油臭くてごめんね」
「そんなこと言わないで」
「売り先は色々あるんだけど」
「精錬や排出する二酸化炭素に関する懸念は?」
「あなたが調べてくれたんでしょう?」

彼女が悪戯っぽく笑う。

「もちろんさ」

ぼくも笑った。
悪戯っぽく。

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お題:彼女の洞窟 制限時間:15分 文字数:1008字

参加される皆さんの好きを表現し、解き放つ、「プレゼンサークル」を主宰しています! https://note.com/hakkeyoi1600/circle ご興味のある方はお気軽にどうぞ!