13.雑煮とちゃんちゃんこ

正月が誕生日だ。
それが子供の頃までは楽しみでもあった。
子供の頃、までは。

今はただ一人寝正月を繰り返し、干支を何周しただろうか。
実家に帰る気はなかった。
連絡する気もない。
両親が、生きているのか、死んでいるのかも分からないほど、音信を絶ってしまったのは、なぜだっただろうか。

ほんの少しだけの感傷に浸りながら、私は独りで手の込んだ雑煮をすすっていた。

なぜこれほどまでに、と思うほど、私は正月の日にすする雑煮にはこだわっていた。

モチの形。
具材にする野菜。
無論出汁も腕も、吸い物の温度にすらこだわり抜いた逸品を作り上げるのだ。

この一杯のために、私は一年を生きているのかもしれない。

この雑煮を正月の日だけ、一人で楽しむ。
それが何よりの至福の時であった。

それでは私は、他の三百六十四日を、一体なんのために過ごしているのだろうか。

そう思っても、この一杯には変えがたい。
この一杯があれば、私は何もいらないだろう。

戸を叩く音が聞こえた。

インターホンがあるのに、戸を叩く音だ。
不思議なものを感じ、私は戸を開いた。

そこには、犬と猪が辰を引っ張って、佇んでいた。

かつて一度だけ、食器用洗剤を持った芸能人が来たことはあるが、この様な事態をまるで想定できず、私は戸を閉めた。

再び戸を叩く音が聞こえた。

観念して扉を開く。

そこには馬の上に兎、その上に鶏と巳が鎮座していた。

「どうかな?」

一番上の巳が、得意げに声をかけてきた。

「ブレーメンか?」
「分かってるね」
「でもメンバーに君はいないはずだよ?」
「そう言うな」

蛇がするりと降りてきて、私の足元に寄ってきた。

「巳年だろう?」
「いや、ネズミだが?」
「…いけすかねえ」

蛇のため息というものは聞いたことはないが、明らかに蛇は私に失望して遠ざかって行った。

「お誕生日おめでとう。赤いちゃんちゃんこを届けに参りました」

ネズミがちゃんちゃんこを引っ張ってやってきた。

「…私は今年で48だよ?」
「すると?」
「もう一周だね」
「…なんなんですか」

ネズミたちまで失望して帰って行った。

私は冷めた雑煮を前に呟いた。

「なんなんだよ」

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お題:孤独な食事 必須要素:干支 制限時間:15分 文字数:931字

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