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即興小説まとめ集

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即興小説トレーニングという素晴らしいサイトにて、毎日15分一本勝負のその場のノリと勢いだけの小説を載っけていきます。目指せ。ハイセンス、ナンセンス! http://sokkyo-… もっと読む
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記事一覧

15.天災に食べるもの

「だめか…」

関節を外す匠の彼でも、この牢屋を抜け出すことはできなかった。

「なぜ俺たちが囚人に…」
「言っても仕方がない。この国のしきたりならば、それに従わなければ」
「でもまさかこんなことで…」
「悪法も、また法だ」

私たちは海外の駐在員だが、この国はいささか常軌を逸しているところがある。

ジャガイモを信奉しているのだ。

なんでもゲルマン民族の大移動の時に、ことごとく死に絶えたジャガ

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14.傍の石油女王

14.傍の石油女王

「私、油田を掘り当てたんだ!」

付き合って間もない彼女の一言に引きづられ、僕は彼女の洞窟を、始めてのデートスポットにすることを選んだ。

彼女は筆まめな性格で、予め、準備しておく荷物と僕の用意しておく荷物を区分して書き分けた、デートのしおりを用意してくれた。

惚れ直すじゃねえか、この野郎。

ヘルメットと作業着は、SMLサイズを予め連絡しておけば、用意しておいてくれるというし、つるはしと現地ま

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13.雑煮とちゃんちゃんこ

正月が誕生日だ。
それが子供の頃までは楽しみでもあった。
子供の頃、までは。

今はただ一人寝正月を繰り返し、干支を何周しただろうか。
実家に帰る気はなかった。
連絡する気もない。
両親が、生きているのか、死んでいるのかも分からないほど、音信を絶ってしまったのは、なぜだっただろうか。

ほんの少しだけの感傷に浸りながら、私は独りで手の込んだ雑煮をすすっていた。

なぜこれほどまでに、と思うほど、私

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12.八百万には多すぎる

12.八百万には多すぎる

正座って座り方は、何かで聞いた事あるんだが、こんなに痛いものなのかい?

隣に座る初対面の男は、正座がどうこうと言うよりも、彼の下半身が上半身を支える積載重量を大幅に上回っている気がしてならない奴だった。

初めてツアーで日本に来た私は、神社、というところに行きたかった。

だって日本には八百万も神様がいる国というのよ?

そしたら、イエス様だって、ムハンマドだって、八百万分の一って事じゃない?

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11.ハマチの声 #同じテーマで小説を書こう

11.ハマチの声 #同じテーマで小説を書こう

波打ち際に打ち上げられた魚に、私は違和感を持って思わず駆け寄った。

うめき声が、聞こえたもので。

空耳だと信じたかったが、いかんせんその線は望み薄だろう。

うめき声がみるみる近づいてきたからだ。

魚が、うめいている。

おまけに足まで二本生やして。

ああ私は、なんてものに接近してしまったのだろうか。

「おい、あんた」

思わぬしゃがれた声に、笑いを吹き飛ばす咳払いを、一つした。

「助

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10.文化祭の自由

10.文化祭の自由

「君はどうやって小説を書いている?」
「ノリ」

もう会話が終わってしまった。

文芸部のかきいれ時である、文化祭前、締め切りに追われている僕たちは粛々と原稿用紙に文字を書き入れていた。

僕と隣の彼女だけは、アナログ派なものだから、鉛筆と原稿用紙が今の僕たちにとって、あなたより大切なものである。

「そろそろ休憩しないか?人間は45分が集中力の限界って先生が」
「私の45分はまだ来てないから」

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9.秋雨は申し訳程度に

「おい風神」
「なんだ雷神」
「貴様、風を吹かせることは得意かもしれないが、雨を降らせることはできないのではないか?」
「かくいうお前は、雨が降っていないと雷も起こせぬのではないか?」

風神は不意の雷神の言葉に、ムッとして言った。

「青天の霹靂という言葉があるだろう」
「それは慣用句だ。天界では禁じられているのをお前が一番知っているはずではないか」

雷神は、背負う太鼓を小刻みに指で弾き始めた

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8.赤い墓と黒い服

8.赤い墓と黒い服

「俺が死んだら、あの店の看板のような赤い墓の下に埋めてくれ」

そう言い残して、お前は消えた。

生きているのやら、死んでいるのやら。

分からなくなって、早何年経とうとしているだろうか。

なぜ私がこの事を忘れていないかって、お前が指差したあの店が、よもやお前が消えてから三日で、連日閉店セールを行う土産物屋になるなどと思っていなかったからだ。

お前の指差した看板はすっかり取り外され、毎日が閉店

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7.古時計

7.古時計

俺の部屋には時計が無かった。

電波時計の壁掛け時計が、いつもよく分からない時間を刻むから。

妖気でも受信してるんじゃないか?

そう言った俺の兄貴の髪の毛が、少し逆立っていたのはよく覚えている。

少しづつではあるが、俺の時計は動き始まりつつあった。

きっと誰しも歯車さえ噛み合えば、ある所まではいけるものだ。

自分にとって、この世で生きるということは、自分の歯車を動かすメンテナンスが人より

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6.湯田の福音書

6.湯田の福音書

料理をすることになった。

宵の口からの酔いの口から、そんな出まかせを口走ってしまったらしい。

私はと言えば、右も左も分からぬ田舎者で、お箸を食べる方が右手と習った左利きだから、それこそ右脳も左脳もあったものじゃない。

だけど、マルクスの資本論はいい本だったなぁ。

なぜ私が料理をするのか。

プロセスも何も分かったものじゃないが、とりあえず、食中毒で緊急搬送させなければ、ご愛嬌で済ませるべく

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5.この最悪な嵐の夜に

5.この最悪な嵐の夜に

この最悪なコンディションの中で。

女を連れて、私は逃げた。

くしくも場所は玉川上水。

飛ぶなよ、飛ぶなよと、湖畔から太宰治の声が聞こえる。

なぜこの女の片腕を取り、自分は逃げたのか。

なんとなく?

やってみたかったから?

走る最中、ずいぶん余裕のある声で、彼女は囁いた。

なんとなく、やってみたかったから。

大雨と強風の中の逃走劇である。

気が合いそうね。

彼女はまた、ずいぶん

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4.雷電

4.雷電

英霊、とはなんなのだ。

背後霊のようなものか?
それとも守護霊のようなものか?

勢いで書いた魔法陣からおもむろに出てきた力士に、真顔でそう問われた俺は、真顔で同じことを問い返したくなった。

「四股名は?」
「雷電」

やべえ、本物の角界の英霊呼べちまったよ。

そういえば、魔法陣のデザインが、土俵っぽいし、雷をイメージした模様が所々あったことに、今気がついた。

「雷電…さん?」
「雷電でい

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3.熱帯魚のいたりあ

3.熱帯魚のいたりあ

遅いな。

妙に鈍臭い熱帯魚がいる。

緑に白に赤の旗が目印の熱帯魚屋の水槽を外から眺めるのが、私の数少ない習慣だった。

毎日定刻にピザ屋の宅配がくるその熱帯魚屋は、なぜかトマトの匂いが濃厚な、風変わりな店だった。

私はあいにく店の中に入ったことはないが、遠巻きに見守り続ける、これ見よがしなたいこ腹の店主のウエストと窓ガラスに佇む水槽の中身だけには詳しくなっていた。

朝顔一つ育てられなかった

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2.呆れたにわか雨

2.呆れたにわか雨

降ったと思っては止み、止んだと思ったらまた降ってくる。

その繰り返しに、私と助手は辟易していた。

「お天道様も頻尿ですね」

事もなげにくだらないことを言う私の助手は、真顔だった。

私の助手は、片目が見えない。

ある小説の人物に憧れて、己で片目を潰したのだ。

眼球の摘出は難航したが、事なきを得て、その窪みに義眼を入れて日々暮らしている。

視界不良を感じさせない立ち振る舞いだが、日頃の言

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