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春の終わり、夏の始まり 13

遅れてやってきた参加者も増え、同窓会はさらに盛り上がっていた。
あちこちで交わされる昔話、そして近況報告。
少々酔いを覚えた唯史は、義之を誘って居酒屋の裏手にある河川敷へと移動した。

春の夜風が二人の頬を優しく撫で、遠く関空の誘導灯が見える。
上空には無数の星がきらめき、喧騒を離れた穏やかな時が流れていた。

「ここは変わらんな」
と唯史がつぶやくと、義之は、
「そやな。でも人は変わる。唯史、その顔色の悪さとガリガリに痩せた体、俺が気づいてないと思ってるんか?いったい何があったんや?」
静かに、だが心配そうに唯史の顔をのぞきこんだ。

「ちょっと座ろか」
唯史は、まだ草の生えていない河川敷に腰を下ろした。
義之もまた、その隣で胡坐をかき、ポケットから出したタバコに火をつける。
「あ、1本ちょうだい」
義之はパッケージからタバコを取り出し、唯史に手渡した。そして、ジッポーで火をつけてやる。
美咲が嫌うから、という理由で禁煙していたが、今ならもう問題はない。

唯史は深く煙を吸い込み、それからゆっくりと吐き出した。
そしてこの瞬間を待っていたように、口を開いた。

「実は俺、離婚したねん」
義之は一瞬、驚いた表情を見せた。
だが、すぐに元の落ち着きを取り戻した。

「そうか…結婚したことは噂に聞いてたけど、色々大変やったんやな」
義之はそれ以上追求せず、ぷかりと煙を吐き出す。
「まだ、立ち直られへんねん」
一服吸い込み、唯史はため息とともに煙を吐く。

「顔色の悪さと瘦せこけた原因はそれか」
「まぁ、そういうことやな」

携帯灰皿でタバコを消し、義之は唯史の肩をそっと叩いた。
「時間が必要や。焦ることあれへん」
眉を寄せ、苦しそうな表情を浮かべていた唯史は、わずかに口角を上げた。
タバコを消し、義之の顔を見上げる。
そこには、中学時代から変わらない、義之の温かな笑顔があった。

ふと義之は思いついたように、
「いっそ、こっちに帰ってきたら?」
と提案した。

「仕事も何もかも変えて、こっちに帰ってくるねん。その方が良いんちゃうかな」
「いや待て、フリーの義之と一緒にすんな、こっちは向こうで仕事も…」
「何もかも投げたらええねん。まだ30歳や。いくらでもやり直しはきく」
唯史は、フリーカメラマンとして、世界を回ってきたであろう義之の言葉に妙な説得力を感じ始めていた。

まだ、30歳。
義之の言う通り、いっそ環境を変えるのも手段としては有りなのかもしれない。
実際に帰郷するかどうかは置いておいて、唯史は義之の言葉にわずかな救いを感じていた。

遠く洋上で、一機の飛行機が飛び立った。

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