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春の終わり、夏の始まり 20

義之から同居の提案を受けた夜。
唯史は部屋の灯りを落とし、窓際に座って月明かりを眺めながら中学3年生の頃の自分を思い返していた。
窓から柔らかな光が部屋に差し込み、唯史の記憶の中にも淡い光を投げかけていた。

あの頃の唯史は、その整った容姿から常に注目され、それが重荷になっていた。
同級生たちはその見た目を称賛する一方で、内面を理解しようとはせず、表面的な関係に唯史は疎外感を感じていた。

しかし、義之は違っていた。
義之は外見を超えて、唯史の内向的な性格を受け止め、理解してくれたただ一人の存在であった。

特に放課後、一緒に帰宅する時間は、唯史にとっては特別な時間だった。
帰宅途中、義之はいつも唯史の話に耳を傾け、寄り添ってくれたのである。

「義之だけが、本当の俺を見てくれていた」
心の中で呟きながら、義之の変わらない優しさと自分に対する理解を思い出す。

窓の外の月が高く上る頃、唯史の心の中にもわずかな明るさが広がり始めていた。
目を閉じ、義之との共同生活を想像してみる。
一緒に料理を作ったり、週末にはどこかに出かけるのも良いかもしれない。
そんな平穏で心温まる風景が、唯史の心に柔らかく広がる。

「義之となら、もう一度、本当の自分を取り戻せるかもしれない」
唯史はひとつ深呼吸をして、心を決めた。

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