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春の終わり、夏の始まり 18

その日の、夜。
義之は唯史が本格的に帰郷した喜びにひたっていたが、内心は複雑なものがあった。

中学時代、義之にとって唯史はただの友達ではなかった。
あのクラス写真撮影の日、桜の花びらが唯史の黒髪に舞い落ちた瞬間、義之の心は強く動かされた。
その美しい光景は、今も義之の記憶に鮮明に残っている。

中学3年生の夏が訪れる頃、唯史への想いはさらに強くなっていた。
唯史のちょっとした表情、仕草、セリフ、すべてが義之の心を揺さぶった。
だが義之は、恋愛というものを理解していなかった。
彼が持っていたのは、恋心は異性に対して抱くものだという、一般的な認識だけだったのである。

しかし唯史に対する感情は日に日に強くなり、もはや否定できないものになっていた。
夏の暑い日、義之は図書室で静かに読書を楽しむ唯史の姿を見つけた。

半袖からのぞく、その細く白い腕を目にした瞬間……
義之の体に衝撃が走った。

触れたい、華奢な体を抱きしめたい。
そんな欲望が芽生えた瞬間、義之はこの感情が恋心であることをはっきりと自覚した。
だが同時に、この恋心を一生隠し通す覚悟も決めたのだった。

やがて唯史とは別々の高校に進学し、唯史が大学進学とともに上京してからは疎遠になっていたものの、義之は心の奥底に唯史への想いを秘めていた。
精悍な顔立ちと恵まれた体格で女性からの人気も高かった義之は、それなりに女性経験も持っている。
だが、女性と付き合い始めても、どこか唯史の面影がちらつき、交際が長続きすることはなかった。

唯史が結婚したと噂に聞いた時、義之は自らの恋心を封印しようと心に決めた。
カメラマンとして仕事に没頭することで、頭の中の記憶を追い出そうとしたのだ。
そのおかげで、現在フリーランスとして活動できているわけだが。

だが。
その唯史が、離婚して戻ってきたことで、義之の感情は再び揺さぶられている。
封印したはずの唯史への気持ちが再燃し始めている。

この想いをどうしたものか……
考えた末、義之はひとつの結論に達した。

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