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春の終わり、夏の始まり 16

4月の終わり、唯史はこれまで勤めていた会社に退職届を提出した。
その決意は固く、新しい人生を歩むためには、今の環境から離れることが必要だと、強く感じていたからだ。

しかし、上司は唯史の能力とこれまでの貢献を高く評価しており、また状況の変化も理解していたため、退職ではなく大阪支社への異動を提案した。
唯史もそれなら、と異動に同意し、ゴールデンウィークを利用して住んでいたマンションを引き払うことにした。

とりあえず実家に身を寄せることにし、家財道具などはすべて処分することに決めた。
それぞれの道具には、思い出が詰まっている。
愛用のペアマグカップ、美咲が好んで座っていたスツール、毎朝唯史が新聞を広げていたテーブル。
それぞれの家財道具が、かつての生活を物語っているようであった。

空になった部屋を見渡すと、心が引き裂かれるような感覚を覚えた。
この部屋で過ごした日々、夫婦で笑い合った時間、そして離婚という結末。
だが、それらはもう過去のものだ。

トラックが家具を積み込んで去った後、唯史は深いため息をついた。
そして空っぽの部屋をもう一度見渡し、これは終わりではなく始まりなのだと、自分自身に言い聞かせた。

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