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春の終わり、夏の始まり 19

結論を出した義之の行動は早かった。
翌日は平日であったが、「急で悪いけど話がある」と唯史にメッセージを送信した。
ほどなく唯史から「OK」との返事があり、唯史の勤務が終わった後、自宅近くのカフェで落ち合うことに決めた。

先に到着していた唯史に合わせ、義之もアイスコーヒーを注文する。
5月中旬、そろそろ冷たい飲み物が欲しい季節だ。
運ばれてきたアイスコーヒーを一口飲んで、義之は切り出した。

「唯史、前に実家出て部屋見つける、て言うてたやん?」
「うん、いつまでも実家の世話になるのも申し訳ないからな」
唯史もアイスコーヒーを飲む。
その表情は前よりはいくぶん明るくなったが、それでも顔色は相変わらずすぐれない。

「唯史が良かったら、の話なんやけど。俺の家で、一緒に住めへん?」
唐突な申し出に、唯史の顔が一瞬固まる。
「いや俺の家、空いてる部屋あるし。それに、仕事で時々海外に行ったりするから、留守を預かってもらえると助かるんやけど」
義之は一気に畳み込んだ。

本心は、常に唯史のそばで彼を見守り、支えたいからである。
だがそれを唯史に言えば、気を遣わせることになる。
そこで考えた口実が「海外出張中に留守を預かってもらう」ことなのである。

唯史は驚いた表情を見せたが、義之はあえて軽い口調で付け加えた。
「合宿みたいなもんやと思ったら、案外楽しいんちゃうかな、と思って」
「まぁそれはそれで、楽しそうやけど」
「無理にとは言えへん。ゆっくり考えてくれたらいいから」

言いたいことを一気に伝えた安堵から、義之はアイスコーヒーを飲みほした。
唯史は、義之の提案について考えている様子である。

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