映画レビュー(95)「アンテベラム」


2020年米映画

 物語の背景にBLMが見えるが、よくできたホラーである。
 南北戦争時の南部のプランテーションでモノを言うことすら禁じられた黒人たちの日常と、くそったれな南軍の白人たち。一転、現代のアメリカで、黒人と女性の権利や自由のために運動するヒロイン・ヴェロニカ。
彼女は出版記念の講演会の後、何者かに襲われてしまう。
 過去と現在が交錯すると思わせて…。
 実によくできたホラーだが、南部の白人層が象徴する反BLMへの怒りが割とストレートで、おそらくトランプ支持層への反感もあるのかも。Antebellumとは「戦前」という意味で、とくにアメリカでは南北戦争前の時代を指す。間接的に、「お前ら、南北戦争の頃から何も進歩してないぞ」と突き付けているわけな。
 本国の批評界隈では、けっこう不評だったそうだが、そのあたりのストレートさが引っかかったのかも。トランプ氏が根強く支持をされているような現在のアメリカの社会的メンタリティをうかがわせる。
 風刺や批判など、あまりに直接的すぎると揶揄された側の反発を呼んでしまう。見た側が、「これって~のことじゃない?」と気づくぐらいでちょうどいい。
 人間は、直接言われたり叫ばれたりすると反発することも、自分で自然に気づいちゃったことは「そういうことだったのか」と100%受け入れてしまうからだ。
アンテベラム
(追記)
この映画が、米国の評論界隈で不評だということで思い出すのが、邦画「大怪獣の後始末」という映画。これも日本では袋叩きと言ってもいい扱いだったが、震災時の旧・民主党政権への揶揄が露骨で、そこが反体制を気取る評論家やメディアから標的にされた感がある。アイロニーを感じる。
大怪獣の後始末で映画評論における無言のバイアスについて考えた


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