創作エッセイ(69)青空文庫の思い出


 インターネットで著作権の切れた電子書籍を無料で公開しているのが青空文庫だ。著作権は切れていないが、作者の了承のうえで無償で公開している作品もある。有名なところでは片岡義男さんのエッセイなど。無名なところでは私の「自転車の夏」の初期版がある(苦笑)
 このサイトは完全にボランティアで運営されている。また、作品の紙の本からの電子化は青空工作員という、これまたボランティア。生まれたのは1997年7月だ。私が個人サイトを作ったのが1997年の1月。前年の6月に凸版印刷が電子書籍のダウンロードサイトの実験を始めていた。インターネット草創期で、小説作品をネットで読むということがまだ珍しかった時代だった。
 電子書籍が走り出したころで、1995年にボイジャー社からエキスパンド・ブック形式の電子書籍フォーマットが登場した。
 小説をネットで発表していたことから、このボイジャー社にはご縁があり、電子雑誌「T-time」には、私の「盂蘭盆会○○○参り(うらぼんえふせじまいり)」が掲載されている。
 光文社などの出版社が電子書籍の試行をしていた時代である。

 個人的に作家としての知名度アップのために、自分の作品「自転車の夏」を青空文庫に収録してもらったのもその時代である。ネット経由で読んだ方からメールなどで感想が送られてきて、書き手としての喜びを初めて得たのだった。
 読者として青空文庫を利用し始めたのは、2008年から。iPhone3Gを利用するようになって、そのスマートフォンが電子書籍リーダーとして使えるようになってからだ。
 アプリとしては「豊平文庫」を利用した。これが実に読みやすい。今でも愛用している。ハヤカワ・ポケット・ミステリで所有している「黒死館殺人事件」(小栗虫太郎)と「ドグラマグラ」(夢野久作)。本の形では途中で投げ出していたのだが、この豊平文庫のお陰で読了することができた
 広告会社のサラリーマンとして通勤途上の地下鉄でスマホ読書を楽しんだ。特に、岡本綺堂の「半七捕物帖」、海野十三「火星兵団」「十八時の音楽浴」など、古典と言われる名作・傑作群は、本当にありがたかった。
 近年では、江戸川乱歩や谷崎潤一郎の著作権が切れた時など、ボランティアの方が電子化するのを待ちかねて読んだ。
 やがて、AmazonのKindleで自分の作品を出すようになって今に至るのだが、電子書籍による読書に抵抗がなかったのは、青空文庫のお陰だと思う。
 現在は電子書籍で小説やコミックを配信するサイトは枚挙にいとまがない。ネット草創期から思うと隔世の感である。

青空文庫 サイト

リーダーアプリ「豊平文庫

(追記)
4月30日の最新公開作は、永井荷風の「銀座界隈」「木犀の花」である。

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