栗林元

名古屋市出身。 広告会社で、営業、WEBディレクターとして勤務。 体験を生かした小説「…

栗林元

名古屋市出身。 広告会社で、営業、WEBディレクターとして勤務。 体験を生かした小説「神様の立候補」で、平成3年に第二回ビジネスストーリー大賞(テレビ東京/日本経済新聞)佳作入選。 現在は会社を退職し、マイペースで作品を発表しています。 近著は「不死の宴 第一部・第二部」

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  • 映画レビュー

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  • 小説創作に憑かれた人よ!

    小説やシナリオなど、言葉で物語を描くことに関しての気づきや技に関する記事です。 「小説指南抄」は過去記事を、「創作エッセイ」は新しい記事をアップしています。

  • デジタル文芸

    栗林元の小説作品集。1997年から初めたWEBサイト「デジタル文芸」から名前を取りました。サイトは休眠中ですが、創作活動は継続中。

最近の記事

映画レビュー(98)「桐島、部活やめるってよ」(2012年)

朝井リョウのデビュー作を原作とした青春映画である。 群像劇のスタイルで描かれている。原作との違いは、人物を章立てにせず、時系列である曜日を章立てに使い、複数の視点で何度も描く手法を使っている。 それが、お互いの心の内が判らずにすれ違う若者同士の孤独感や焦燥感や自責の念などに繋がっていることを描き出している。巧いと思った。 学校のバレー部のスター選手・桐島が突然部活を止め学校にも来なくなる。 何故? と驚く学生たち。 それを横目に、運動部の連中からバカにされながらも映画を作り始

    • ブックガイド(121)「東京都同情塔」(九段理江)

      第170回令和五年下期芥川賞受賞作である。  ザハ・ハディドによる新国立競技場が中止にならずに建設された東京を舞台とする物語。(実際には建設費が高額すぎるために、隈研吾による新設計で作られた)  女流建築家・牧名沙羅が挑むのはシンパシータワーと呼ばれるタワマン型の刑務所である。シンパシータワー?  これは幸福研究家マサキ・セトが提唱する「ホモ・ミゼラビリス 同情されるべき人々」という受刑者に対する新しい認識に由来する。  牧名沙羅と彼女に侍るホスト・拓人の二人の目線で綴られる

      • ブックガイド(120)「狂乱廿四孝/双蝶闇草子 」(北森鴻 創元推理文庫)

         江戸末期~明治初期に一世を風靡した歌舞伎の名女形、三世澤村田之助。  舞台の最中の怪我から脱疽となり結果として四肢を切断せざるを得なかった悲劇の名優である。明治3年、猿若町を震撼とさせたのは、異彩の画家・河鍋狂斎の描いた幽霊画を発端とした連続殺人事件だった。幽霊画に隠された歌舞伎界を揺るがす秘密とは?  戯作者見習いのお峯の目を通して滅び行く江戸風情とともに、その事件の顛末を丁寧に描いている。第6回鮎川哲也賞受賞作『狂乱廿四孝』。さらに、その後のお峯たちの姿を描いた未完の長

        • 映画レビュー(97)「メタモルフォーゼの縁側」

           カドカワのWEBコミックの映画化。鶴谷 香央理の原作である。 高校生うららと、老女の雪がBLマンガを接点に同志のような友情を抱く物語。  うららとの友情で生きがいを得る雪。同時にうららは雪の励ましで初めてマンガを描き始め、自分を見つけていく。王道とは言え、何とも爽やかな物語ではないか。  主演の芦田愛菜さん、いい女優さんになったなあと、胸が熱くなった。一途に頑張れる他人を観て、何者でもない自分に劣等感を抱く若者の気持ちが伝わってきて、若いころの自分の背中を見つめるような気持

        映画レビュー(98)「桐島、部活やめるってよ」(2012年)

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        • ブックガイド(120)「狂乱廿四孝/双蝶闇草子 」(北森鴻 創元推理文庫)

        • 映画レビュー(97)「メタモルフォーゼの縁側」

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          映画レビュー(96)「シャイロックの子供たち」

          先行する同名小説(池井戸潤・2006年)の世界を使い、完全オリジナルストーリーで作られた経済犯罪ストーリー。脚本も池井戸潤がやってるだけあって面白い。 二時間超の作品だが、ラストまで引っ張られた。後半からの巻き返しが正に「倍返し」で、思わずニヤリ。阿部サダヲが正に適役だ。 銀行の内部がリアルで、これは作者が元銀行員だったせいもある。担保の譲渡の「儀式」などすごくリアルで、引き込まれた。 騙し騙されの駆け引きがスリリングで、池井戸節って本当に面白いなあ。 「シャイロックの子供

          映画レビュー(96)「シャイロックの子供たち」

          創作エッセイ(70)インターンシップの志望動機の書き方・伝え方【例文あり】

          今回は2017年に書いたビジネス記事の採録。広告業界の出身ということで、そのような業界を希望する就活学生向けに書いてほしいという依頼であった。こんな仕事もしてたんだなと。 近年急速に拡大したインターンシップ。「就活は大学3年のインターンシップから始まっている」などとも言われています。またインターンシップによる就業体験を卒業のための単位として評価するケースも増えています。ただ受け入れる企業も無制限に学生を受け入れることはできません。業界を代表する企業、有名な大企業などになると

          創作エッセイ(70)インターンシップの志望動機の書き方・伝え方【例文あり】

          映画レビュー(95)「アンテベラム」

           物語の背景にBLMが見えるが、よくできたホラーである。  南北戦争時の南部のプランテーションでモノを言うことすら禁じられた黒人たちの日常と、くそったれな南軍の白人たち。一転、現代のアメリカで、黒人と女性の権利や自由のために運動するヒロイン・ヴェロニカ。 彼女は出版記念の講演会の後、何者かに襲われてしまう。  過去と現在が交錯すると思わせて…。  実によくできたホラーだが、南部の白人層が象徴する反BLMへの怒りが割とストレートで、おそらくトランプ支持層への反感もあるのかも。A

          映画レビュー(95)「アンテベラム」

          創作エッセイ(69)青空文庫の思い出

           インターネットで著作権の切れた電子書籍を無料で公開しているのが青空文庫だ。著作権は切れていないが、作者の了承のうえで無償で公開している作品もある。有名なところでは片岡義男さんのエッセイなど。無名なところでは私の「自転車の夏」の初期版がある(苦笑)  このサイトは完全にボランティアで運営されている。また、作品の紙の本からの電子化は青空工作員という、これまたボランティア。生まれたのは1997年7月だ。私が個人サイトを作ったのが1997年の1月。前年の6月に凸版印刷が電子書籍のダ

          創作エッセイ(69)青空文庫の思い出

          ブックガイド(119)「天鬼越(北森 鴻/浅野 里沙子)」

          作者・北森氏の急逝から六年後に、残された二編と新たに浅野氏が書き下ろした四編を加えた一冊。民俗学や伝奇要素の大好きな私にとってはうれしい一冊となった。 印象に残ったのは古文書関係の話。 「書の真贋ではなく、その書はなぜ必要とされたのかを問うのが民俗学であり、真贋は歴史学者に任せればいい」という那智のセリフ。 思わず膝を打った。作者は過去や伝承をネタに語りつつ、今を生きる人間の業を描いている。だから心に残るのだ。 最終エピソードの見事な締めくくりは、ミステリ作家・北森鴻への深い

          ブックガイド(119)「天鬼越(北森 鴻/浅野 里沙子)」

          ブックガイド(118)「旗師・冬狐堂四 瑠璃の契り」(北森鴻)

          旗師としての命ともいえる眼に飛蚊症が出始めた宇佐美陶子。今回は、彼女のもとに持ち込まれた怪しいものから事件が始まる。 安定の面白さ。 以下の四話が収録されている。 「倣雛心中」 いわくつきの呪われた和人形 「苦い狐」 若死にした同期生の描いた洋画 「瑠璃の契り」 瑠璃ガラスの切子椀 「黒髪のクピド」 生き人形と思しきビスクドール 出会ったモノだけで、ぞくぞくしてくる。もの言わぬモノから、ここまでドラマが紡がれる巧さに魅了され、同時にもうこのシリーズの新作は読めないのが心残りだ

          ブックガイド(118)「旗師・冬狐堂四 瑠璃の契り」(北森鴻)

          映画レビュー(95)「大河への道」

          プライムで拝見。 千葉県香取市。市役所の総務課に勤める池本保治は、地域振興の会議で郷土の偉人・伊能忠敬を主人公にした大河ドラマを誘致する提案をする。 知事がご指名の脚本家がまた難物で、池本は頭を抱える。何とかシノプシスを作り始めるのだが、史実では伊能忠敬は地図の完成の三年前に死んでいたことがわかる。 現代の物語と、作家のモノローグから始まる江戸時代の伊能隊の物語が並行して進む構成にまず感心した。さらに映画ならではの面白さは、両方のドラマで同じ役者が別人を演じる。それが過去と現

          映画レビュー(95)「大河への道」

          映画レビュー(95)「ひみつのなっちゃん」

           2023年1月公開の本作、岐阜県郡上市を舞台にしたご当地映画でもある。制作には東映と共に岐阜新聞映画部が加わっている。  ある夏の日になっちゃんが死んだ。ドラァグ・クイーンだったなっちゃんの後輩、バージン(滝藤賢一)、モリリン(渡部秀)、ズブ子(前野朋哉)の三人はひょんなことから、なっちゃんの郷里・郡上八幡で葬式に出ることになる。車で郡上を目指す三人の珍道中が中盤のメイン。  自分たちの性癖を隠して葬儀に出ようとしている三人は、当初はぎくしゃくとした関係だが、やがて彼らはそ

          映画レビュー(95)「ひみつのなっちゃん」

          ブックガイド(117)「シャーロック・ホームズの護身術 バリツ: 英国紳士がたしなむ幻の武術」

          「崖っぷちから落ちかけたぼくたちは一瞬ふたりそろってよろめいたんだ。 でもぼくは日本の格闘術であるバリツを少々かじっていて、何度もそれに救われたことがあってね。」 ――サー・アーサー・コナン・ドイル『空き家の冒険』より 当時の記事の翻訳!  ドイルの作品に出てくるバリツとは、イギリス人エドワード・W.バートン=ライトが日本の柔術にボクシング、サバット、ステッキ術を組み合わせて生み出した護身術「バーティツ(Bartitsu)」ではないかと言われている。  1899-1900

          ブックガイド(117)「シャーロック・ホームズの護身術 バリツ: 英国紳士がたしなむ幻の武術」

          ブックガイド(117)「緋友禅」(北森鴻)

          旗師・冬狐堂シリーズの三巻目。短編集である。 今回は萩焼、埴輪、友禅、円空仏をモチーフにした四つのドラマが冬狐堂・宇佐美陶子の目線で語られる。 前作の「狐罠」「狐闇」が長編のため失念していたが、作者は短編の名手でもある。陶子の語りでの短編は、当時のファンには「待ってました」感があったのではと思う。 どの作品にも共通するのは、レプリカと贋作の問題。同時に、芸術家の創作意欲が、そうじゃない一般人の欲望に利用される悲劇だ。職人気質や芸術家の矜持が、欲望に汚される構図は、何も古美術に

          ブックガイド(117)「緋友禅」(北森鴻)

          映画レビュー(94)「パルス」(2006年)

          アメリカ映画だが日本映画「回路」(2001年黒沢清監督)のリメイク。どうりで既視感あった。2006年の作品だが、あの当時のJ-ホラーの味わいが濃い。清水崇監督の「呪怨」が2000年、これも2004年にはハリウッドでリメイクされている。 インターネットとWEBの世界が、まだ不安とともに語られた時代である。その不安がホラーに影響与えたのであろう。ビデオの普及後に生まれた貞子(原作「リング」1991年)みたいなもんだなあ。インターネットが民間に移管されたのが1995年。それからまだ

          映画レビュー(94)「パルス」(2006年)

          ブックガイド(116)「邪馬台」蓮丈那智フィールドノートⅣ

          北森鴻氏の未完の長編「鏡連殺」を、彼の構想ノートに基づいて浅野里沙子氏が完結させた作品である。そして、私の一番好きな蓮丈那智シリーズの長編でもある。 読み終えて大きな満足感に浸っている。よくぞ完成させてくれた。浅野氏と新潮社には感謝したい。 廃村から始まる謎 村に降りかかる殺戮の予感を思わせるプロローグで一気に引き込まれる。その村とは、鳥取県と島根県の県境にあった阿久仁村。明治の初期に地図から消えている。その村に残る「阿久仁村遺聞」という古書が雅蘭堂・越名集治の手で蓮丈那

          ブックガイド(116)「邪馬台」蓮丈那智フィールドノートⅣ