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(短編ふう)新婚6日目のプレゼント

6日目ぐらいだった。
帰宅すると、妻からプレゼントを渡された。

いわゆる授かり婚で、それまでお互い実家生活だったので、新しくアパートを借りて一緒に暮らすようになったものの、大きくはかわらない生活リズムの中にいた。休日に内輪で式を挙げた以外、ハネムーンに行くこともなかった。
妻もまだ、普通に仕事を続けていた。
半年後には子供が生まれるわけなので、結婚指輪こそそろえたものの、婚約指輪をプレゼントできる余裕もなかった。

定かでないが、6日目、ということにしよう。
新婚6日目。

帰宅した玄関に、にぎやかな模様の包装紙にくるまれ、華やかなリボンまでかけられて、それは置かれていた。

妻がすぐに姿をみせた。
特にサプライズを仕掛けようという意図も無いようである。
それは40~50㎝四方サイズの大きさだったが、妻はひょいと持ち上げて、にこやかに差し出してきた。

「はい。プレゼント。」

あまりの不意打ちに、何か大切な記念日を忘れていたか、とドキリとした。
一拍、息をのむが心当たりは思い浮かばない。
最近、感謝のお返しをもらえるようなことをした覚えもない。

「はいっ。」
彼女は、さあさあ、受け取って、と促す。
まだ靴も脱いでいない。

どうやらこちらが戸惑っているのを楽しんでいる。
明らかに上機嫌な様子ので、不安が安堵に切り替わる。
かわりに、俄然、プレゼントに興味が湧く。

何だろう? 
カバンを床の方に置いて、両手で受け取った。

軽い。…

大きさのわりに空気のような軽さだった。
「?…。どうしたの? 記念日、とかじゃないよね?」
「いいから、いいから。」
プレゼントを両手に持ったままバランスをとりつつガサゴソ靴を脱ぐ。
「早く開けてみて!」
もしかして、彼女の友人の誰かからの結婚祝いだろうか?
籍をいれてから改めてお知らせした知人も多い。
そのため今日の出勤タイミングになった?
大きさ、軽さ、からしてベビー関連のものかもしれない。
彼女は、早く中を確かめたいのに待っていたのだ。
一緒に開けて、幸せを分かち合いたいのだ。
改めて妻を愛しく思った。

「早く! 早く!」
キッチンテーブルの方へ背中を押されていく。

華麗な包装の中から、とうとうそれは姿を現した。
予想を完全に裏切る衝撃。
送り主は、紛れもなく後ろから覗きこんでいる妻だった。

「これ、お風呂掃除のとき履くやつだよね?」
軽さに納得がいく。
「そう。バスブーツっていうみたい。」

こうしてバス掃除は、私の分担になった。

やがて、バス掃除は子供たちの主要なお手伝い項目になり、子供たちの成長後は、私には戻らず妻がしてくれていたが、定年を契機に再び私の分担にもどってきた。
6日目のプレゼントは、薄い水色をしていたが、今のブーツは何代目なのか、薄いオレンジ色をしている。

「シューと吹きつけとけば、あとは流すだけでいい、ってCFで言ってるんだけど?」
「だめよ。一応、ちゃんとこすって!」
というのが、最近、繰り返される会話である。

―了―


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