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(短編ふう)三人のキャサリン
東京都美術館で、肖像画《キャサリン・チェイス・プラット》を観た。
101.9×76.7cm。油彩・カンヴァス。
1890年、ジョン・シンガー・サージェント作。ウスター美術館所蔵。
未完成だというが、自然を律する数式のような美しさである。
キャサリン・チェイス・プラットは、椅子の背に肘を掛け、半身をやや傾けてあずけている。鼻筋の通った横顔をみせて、凛と前方を見ている。身に着けたドレスに、あたり
(短編ふう)アラフォー占い師
〈痕跡を消す夢〉をみた、と男は言った。
「お待ちしていました。」
彼女は男を見上げ、いつも通りのセリフをゆっくりと言った。
そうすると客は皆、そろってハッとしたように固まるのだ。
男も一瞬動揺を見せた。
しかし、すぐに小さな苦笑に変わった。
占い師の、見えすいた常套手段だと気づいたらしい。
ばれてしまったので、ひとまず彼女も苦笑して返す。
一年前、彼女はこの仕事についた。
アクティビストの主
(短編ふう)新婚6日目のプレゼント
6日目ぐらいだった。
帰宅すると、妻からプレゼントを渡された。
いわゆる授かり婚で、それまでお互い実家生活だったので、新しくアパートを借りて一緒に暮らすようになったものの、大きくはかわらない生活リズムの中にいた。休日に内輪で式を挙げた以外、ハネムーンに行くこともなかった。
妻もまだ、普通に仕事を続けていた。
半年後には子供が生まれるわけなので、結婚指輪こそそろえたものの、婚約指輪をプレゼントでき