萩原正人

タイタン所属(元キリングセンス) 臓器移植芸人 連載:水道橋博士のメルマ旬報「死ぬ前に…

萩原正人

タイタン所属(元キリングセンス) 臓器移植芸人 連載:水道橋博士のメルマ旬報「死ぬ前に跳べ」 2000年:肝腎臓同時移植atダラス/2015:生体腎臓再移植at東京女子医大 肝臓日記:http://hagi-net.com

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福島の友人と命の恩人

ほんとうならこの日、去年に引き続き福島にいたはずなんだ。かなり熱めの飯坂温泉の露天風呂につかって、今日の講演会の出来不出来を反省していたはずなんだ。 もっともこのご時勢。 講演会のオファー段階から、 “コロナ渦の様子を見て、中止もありえる”とのことだった。 楽天家の俺としては、そんなことはないだろうと高をくくっていた。 のに。 この情勢を鑑みて、イベントが中止になってしまった。 すげー悲しい。 福島には旧友がいる。恩人がいる。 まず旧友。 爆笑問題ファンにとっては懐かしい

    • 『死に前に跳べ』 第2回 救う会詐欺をおいつめろ! 2016年12月

      悲しい事件がおきてしまった。 日本でも脳死移植はできるが、圧倒的にドナーが少ない。そのため、最後の希望として、海外渡航移植にかける患者さんがいる。かつてのわたしがそうだった。 しかし海外渡航移植には、膨大な費用がかかる。そのため救う会を結成して、ひろく公に募金をお願いする。わたし自身、萩原正人を救う会を結成し、募金活動を行なった。 そしてこの救う会には非難がつきまとっている。 なかには激しい言動もあって、「巣食う会」と揶揄したり、「死ぬ死ぬ詐欺」とバッシングする人たちが

      • 『死ぬ前に跳べ』 第1回 爆報!THE フライデー 2016年11月

        今春(2016年3月)、爆笑問題が司会をしている「爆報!THE フライデー」に出演した。いや、出演したという表現は正しくない。コメンテーターとしてひな壇を飾ったわけではないのだから。 この番組では、芸能人の知られざる過去を、それもかなり壮絶な体験を、毎度どこからかと驚くほどに掘り当てて、エンターテイメントに料理して放送している。なんとも恐れ多いことに、こんなわたしも芸能人のはしくれとして取り上げてもらった。 どんな内容かといえば、昨年12月におこなった、腎臓移植手術につい

        • 中国からの荷物が届かない

          5月のことだ。 コロナ自粛であまりに暇を持て余していたので、amazonでジグゾーパズルを買った。5月9日のことである。 画面上、お届け予定日は<6月11日>となっていたが、<在庫有り>と表示されていたので、「そんなバカなことがあるか!」と注文をした。いくらコロナだとはいえ、配送にそこまで時間がかかるはずもない。 案の定である。注文から3日後に「5/12に●●が発送し、ご注文のお手続きが完了しましたので、お知らせいたします」と通知が来た。 ところがだ。そのメールにもお届

        福島の友人と命の恩人

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        • 鯖がぐうと鳴いた
          7本

        記事

          鯖がぐうと鳴いた 長編ver あとがき

          あとがき この「鯖がぐうと鳴いた」は、2014年12月25日から、2015年9月9日まで、水道橋博士のメルマ旬報で連載をさせていただいたていた。このあとがきは、連載終了後に書いたものの一部改定版である。  この文章は、あとがき的な何かである。 「いったい何のあとがき?」と思う方がいたとしたらどうしよう。戸惑う。これこれこういう小説を私は書いてきて、その連載が終ったので云々……と、私は説明するべきなのだろうか?  これから書く文章において、「小説をお読み頂いている」という

          鯖がぐうと鳴いた 長編ver あとがき

          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #6/6

          最終章 鯖がぐうと鳴いた      一  吉祥寺の駅近にある喫茶店で待ち合わせた。  いらっしゃいませと出迎えたウェイトレスに、待ち合わせと断りをいれ、ホールの中程に立って店内を見渡す。そこにまだ鎌田氏の姿はなく、後からもう一人きますと窓辺のソファーに席を取った。  選ぶでもなくメニューを眺めてアイスコーヒーを注文する。それから五分程たって、 「まったー」  と、陽気に語尾をあげながら、鎌田氏も現れた。 「いやあ、今日も暑いね」  脇下が汗に濡れた、黒地に金ラメの入ったペ

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          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #6/6

          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #3/6

           第二章 鯖もおだてりゃ木に登る      一   平成六年、夏。  デビューから八年が過ぎていた。 「新橋の日比谷口を出るとSL広場がありますから、そこへ三日分の着替えを持って、朝七時に集合してください。くれぐれも遅刻は厳禁ですからね。勝ち抜けば十六日から二十日まで、泊まりでの拘束になります。そのつもりで準備してください」  マネージャーからの連絡は、それだけだった。  具体的な企画内容は一切知らされず、テレビの深夜番組であることだけが告げられた。私がそれ以上の内容を質

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          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #3/6

          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #5/6

          第四章 溺れる鯖は藁をも掴む      一  隔月で開催を積み上げてきた、新座さん主催のお笑いライブが、記念すべき第一〇〇回目を迎えた。  初期のライブでは、お客さんが一〇人に満たないこともざらにあったが、試行錯誤の末、今では立ち見が出るほどの大盛況だ。  もっとも、キャパが一五〇程度の小さな劇場だけど。  いつにも増して新座さんがご機嫌だった。 「マキちゃん、おはよう。今日のお客さんはラッキーだよ。シークレットゲストを呼んでるからね」  まだ相方の姿は見えなかった。私は

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          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #5/6

          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #4/6

          第三章 俎板の上の真鯖      一  血管を毛虫でも這いずるような不快感だった。いや、もっと硬いものがごりごりと血管を進んでいく。  麻酔で感覚の麻痺したはずの首筋に、ときおり鈍い痛みも感じる。声を上げるほどじゃない。それでも、身体を動かさないように肩を強張らせて、顔が歪むほど歯を食いしばる。  いったいどうしちゃったんだよ、私の躰。  一瞬のめまいの後、椅子に腰掛けたままバイト先で昏倒した。突如とした激しい動悸が襲ってきて、ピンでも外れたように心臓が肉の内側に激しく跳

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          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #4/6

          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #2/6

           第一章 生け簀の鯖は大海を知らず      一  一九八八年、冬。  骨から震えがくるような、寒い日の午後だった。  夕べは遅番で、揚げ物油が髪にへばりついている。この日は夜からお笑いライブがあって、せめて身奇麗にして舞台に立ちたかった。  洗面具を抱えて、凍てついた真鋳のノブをまわす。板敷きの廊下へ出る。冷気が素足に絡まって、腰へ抜けて歯と肩が震える。昼でも薄暗く、ぽつんと寂しげに裸電球がひとつ。  幡ヶ谷六号通り商店街を抜けて十五分ほど歩く。  築二十年になる風呂な

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          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #2/6

          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #1/6

           序章 月光の鯖が友を呼ぶ      一  江ノ島の右肩に白い月。  そこへ突進するように慶太がハンドルを切った。片瀬東浜と西浜の隙間をぬって、江ノ島弁天橋のたもとにもぐりこむ。  釣り宿が軒を連ねていた。看板には片瀬漁港と達筆な文字。右手には魚市場があって、定置網で水揚げされた魚が直販されている。そこには、私の知らない夏の江ノ島があった。  漁港の朝は、前のめりに動き出していた。  船宿にたむろする釣り客が、軒先で釣り竿を伸ばし、リールの感触を語り合っている。地平線の彼

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          鯖がぐうと鳴いた 長編ver #1/6

          鯖がぐうと鳴いた 短編

          ※これは2011年7月に、桶田敬太郎くんと一緒に、片瀬漁港から鯖釣りにいった出来事をモデルとした小説です。 鯖がぐうと鳴いた                萩原正人  再会  江ノ島の右肩に白い月。  そこへ突進するように慶太がハンドルを切った。片瀬東浜と西浜の隙間をぬって、弁天橋の袂にもぐりこむ。  船宿が軒を並べていた。看板には、片瀬漁港と達筆な文字。右手は魚市場だ。定置網によって水揚げされた魚が、ここで直販されている。  ここには、私の知らない夏と江ノ島があった。

          鯖がぐうと鳴いた 短編