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【生活と読書】8/27-9/2 日記を書くための目を持ちたい  『空芯手帳』 『泥酔懺悔』 『サキの忘れ物』

8月27日(日)
子どもの夏休み最終日。
終わっていない自由研究をやっつけるべく夫が奮闘をしてくれている。研究題材の決め方、まとめ方を学校で教えていないのに宿題で課すことに対してモヤモヤが募る。しかも、来年からは科学なんとかコンテスト的なものに提出必須らしく、その予行演習として今回も内容は理科で、とのこと。
大河ドラマに影響された子どもは歴史(戦国時代)に興味を持っているので、親としてはその辺りの調べ物学習をさせたかったのだけど……。
そんなこんな、夫が8割ぐらい手を入れて『指紋の研究』が完了。


8月28日(月)
ようやく新学期!
夏休み中ずっと子どもと一緒だった夫が一番ホッとしている(苦笑)。
子どもから解放された夫は洗濯機の掃除をしていた。メーカー純正の洗剤の威力を半年ぶりに思い知る、ってくらいヘドロの写真が送られてきた。

植本一子さんの『ウイークリーウエモトvol.2』読了。
『愛は時間がかかる』(筑摩書房)でトラウマ治療をされ、パートナーさんとの関係がよりよいものになったのかと勝手に思っていたが、「もうやっていけない」と告げられたことに読者のわたしもショックを受けてしまう。が、パートナーの気持ちを受け入れ日々を過ごす植本さんに、今まで読ませていただいた日記の中の植本さんと違って、強さというか、しなやかさを感じた。
作中、『愛は時間がかる』を読んだ高橋さんという方の感想で

これまでにたくさんの私の本を読んできた高橋さんに感想を聞くと、今回はエッセイだけれど、エッセイの最後に日付が入っていて安心した、と言う。これまでの日記もそうだけど、日付は見ているようで見ていない。でも、あるのとないのとではまったく違う。日付はお互いの唯一の共通点でもあり、同じ日を生きていたということが感じられるもの。だからエッセイだけど日記でもあって、嬉しかった、と。

『ウイークリーウエモトvol.2』8ページ

確かにそうだ、と思う。あの日あの時、わたしが知らない場所で生活をしている誰かの息吹が感じられる日記が好きだ。エッセイもいいんだけど、やっぱり日記っていいな、と思う。このことを言語化できる高橋さんってすごい。

それ(引用者注:毎日)は案外、どんなときも変わらないと、日記をつけ始めると実感する。日記を書くための目が、日常の中からさまざまなことを拾っていく。

『ウイークリーウエモトvol.2』28ページ

1週間に一度、とりとめのない日記を書くことで精一杯のわたし。日常からさまざまなことを拾い、できる限り文章として残したいな、と思う。
(旧Twitter、最近ではタイッツーに衝動的なカケラは残しているけれど)


8月29日(火)
一人で長崎へ。400km弱の運転はしんどい。
やりたいことをやるために、新しく銀行口座を開設した。


8月30日(水)
苦手な方を含むメンバーで打ち合わせ。その後、苦手な方とふたりでランチを食べる。
苦手、というのは言葉が少し違っているかもしれない。相手がわたしのことをこころよく思っていないため、お互いのためには接点が少ない方がいいんじゃないの、という気持ち。
とりえずランチでそつなく会話ができてよかった。
あまりにも「つらい」しかない状況すぎて、ストレス由来の難聴が悪化しないかとても心配。
夜は上司と退職した方と食事。泥酔懺悔。

酔っ払いすぎてバエる写真が撮れてない


8月31日(木)
二日酔いが続く中、上司と後輩と北九州方面へ。二日酔いで酒気帯びていたらシャレにならないので運転は後輩にお任せする。
フラフラの中、銀河のチャンポンを並んで食べる。カツが重い……。

北九州名物 ”銀河のチャンポン” チキンカツ入りがデフォルト

本棚から『泥酔懺悔』(ちくま文庫)を発掘したので寝る前にパラっと読む。女性作家12人によるお酒にまつわるエッセイで、飲む人も下戸の人のそれぞれの酒感がおもしろい。
三浦しをんさんのエッセイの冒頭で ”酒の話をするのはつらい。自らの恥について語るのと同義だからだ。” に激しく同意。ぽっかりと空いた記憶を埋める作業ほどつらいものはないし、この反省を活かせた試しもない。


9月1日(金)
在宅で溜まった仕事をやっつける日。が、やる気が1mmも出ず、とにかくやらなくちゃいけないことだけを片付ける。いつも思うんだけど【仕事の終わり】ってどういう状態のこと?賽の河原のようにどんどん仕事が降ってくるので、【今日はここまで】の区切りをつけてやり過ごしている状態なのですよ。終わりってなに?終わるってどういうこと?

夜、本棚から発掘した『空芯手帳』(八木詠美 ちくま文庫)を読む。
“職場にキレて偽装妊娠。” という帯コピーで思わず購入し積読していたもの。
名もなき家事ならぬ、名もなき業務を日々押し付けられることにキレた柴田が「妊娠しました」と口走るところから物語が始まり、妊娠週に合わせて物語が進んでいく。
人ひとりが入れる嘘がまことのようになる過程にゾクリとし、狐につままれたような読後感。空人(赤子)は本当に存在しているのか否か、それは柴田しか知らない真実で、きっとそんなことは他人である読者にとってはどちらでもいいってことなのだろうな、と。

偽妊婦になり、定時に上がって自炊した夕食を食べ入浴剤を入れたお風呂に入りストレッチをする。妊婦にならなければ享受できなかった非日常は、本当ならば日常でなければならないもの。
紙管(ラップの芯のようなもの)を扱う会社で働く柴田が日々紡ぐのは、空っぽのお腹を記録する妊娠アプリ手帳で、空っぽの芯の中には彼女の物語が詰められていく。

自分だけの場所を、嘘でもいいから持っておくの。人が一人入れるくらいのちょっとした大きさの嘘でいいから。その嘘を胸の中にもって唱え続けていたら案外別のどこかに連れ出してくれるかもしれないよ。その間に自分も世界も少しぐらいは変わっているかもしれないし。

『空芯手帳』173ページ

妊娠・産休・育休・復職を経験した身からみると、柴田さんの会社は公共機関でもらう「母子手帳」のチェックはなかったの?とか、育児休業給付金はどうしたの?とか、ツッコミどころが満載すぎて、ちょっと落ち着かなかったかな……。
女性は共感する場面が多いと思うし、男性には少しでもわかってほしい。
かなり変わった物語だけど、ぜひ手に取ってもらいたい1冊。


9月1日(土)
やっと土曜日。今週はいつもに増して長い1週間だった。
午前中、夫が洗濯とトイレ掃除をしてくれている間、久しぶりにインスタを更新したりする。
午後は子どもの習い事の付き添いをし、帰りに立ち寄った書店で読みたい本リストに入れていた『サキの忘れ物』(津村記久子 新潮文庫)を購入。

表題作『サキの忘れ物』しかまだ読んでないのだけど、あああ、なんて切なくてあたたかい物語なんだろう!
大きな病院に隣接する喫茶店で働く千春(高校中退)とお客の女性が、サキという作者が書いた1冊の文庫本を通じて気持ちを通わせていくお話。

夢中になれるものがあってうらやましい。自分には何にも夢中になれるものがない。どうやってそういうものを探したらいいのかもわからない。

『サキの忘れ物』13ページ

自分のやることすべてに意味なんてないのだ、と千春は高校をやめる少し前からずっと思うようになっていた。だからきっと、何をやっても誰もまともに取り合うはずもないのだ。
(中略)
 まともに取り合うって、私がまともに取り合ってもらったことなんて今まで一度でもあったのかな。

『サキの忘れ物』19ページ

本は、物語は人生を彩ってくれる。人生の道標となる。誰からもなにも教えられてこなかった少女が1冊の本をきっかけに誰かに取り合ってもらえることを知る。サキという作者の作品を読むことは千春にとってとても難しかったたけれど、読了の先には思ってもなかった未来がまっていた。
本、物語が読者に与えてくれるものはとてつもなく大きい

本の中にしか喜びを見出せなかったわたしの子ども時代を思い出してしまい、切なくなって涙が出てしまった。

余談だけど、見出し写真の児童文学全集は、わたしが子どもだった頃の拠り所だったもの。実家が引っ越すときに捨てられそうになったので持ち帰ってきた。重厚な表紙と美しい挿絵、知らない世界の物語たちに何度も救ってもらった。
つい先日、何気に見たメルカリで1冊88000円で出品されていたので驚愕!
昭和50年代後半刊行、当時1200円ぐらいで販売されていたものが88000円……!売らないけどね!

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