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ミュージカル『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』 10/29初日感想

ルードヴィヒさんの「やりたいんだ!音楽を!」の絶叫が胸に刺さって、カールさんが追い詰められていった様が1番印象に残る初日でした。

不思議な読後感で「一体、何をみたんだろう…?」と劇場を後にして、振り(?)返ると色んなことがジワジワ来ました。文字どおり浴びた?ぶつけられた感じ…。

ある音楽家の半生

歳を重ねシスターになった木下晴香さん演じるマリーさんの元に、「彼の弟子になり損ねた」と言う音楽家がベートーヴェンさんの手紙を持ってくる所から物語がはじまるのですが、自分の半生(120分尺)を断片ハイライトで手書きにしたためて送ってくるベートーヴェンおじいちゃん、ちょっと…いやだいぶ愛おしいなってなりました。

マリーさんには知って貰いたかったし、マリーさんなら笑ったりしないって信じられたんだな・・・ピュアピュアだ・・・。

「あの方の音楽を弾いて下さらない?」という言葉にベートーベンの時代って、演奏者がいないと曲が聴けないんだなぁと改めて感じました。

死を穏やかに待つ福士誠治さん演じる壮年ルードヴィヒさんの表情をみて、あぁ彼にとって、これから語る自分の生は愛すべきものだったのかなぁと感じて胸に来る。

青年ルードヴィヒ役の中村倫也さんは、舞台「狐晴明九尾狩」で拝見した時、今までみた中で一番攻守のバランスが凄まじい俳優さんだ!と感じて。

”守”だと感じたものが何なのかその時は分からなくて、初日を改めて振り返ると、Yシャツのふんわりとした、たわみのような部分かなぁと(概念)。良い意味でソリッド過ぎない人間の余白。ゆるさ。自在に形や温度、湿度を変える空気みたいな俳優さん。

お顔のガワは柔らかい雰囲気なのに、よくみると顔の筋肉が、演技が異様に上手い人たち特有のつき方をしているのが印象的でした。フィジカル………。

青年のルードヴィヒさんは、昔の自分の曲を奏でてくれた才気あふれる若きウォルターくん(マリーさん仕込み)が余りに眩しく、聴力を失いつつある自分の運命との明暗が辛過ぎて、とてもじゃないけど教えられなかったのかなぁと。

"天才"のフレーズにあそこまで固執するという事は、モーツァルトとの比較で自分は天才じゃないかもしれないって刷り込みが何処かにあったのかも。

青年カールくんがパッと出て来た時に「あれ?まだ他にも役者さんいるんだっけ?」って思ったら、福士さんが演じてて普通にビックリした。すごい。うわぁ。遠目で見たら喋るまで気付かなかった。

何事もフラットに見たいのに自然と目で追って、重なった音の中から声を探してしまうので、福士さんの表現がたまらなく好きなんだと思います。次は何をされるんだろう?って気になってしまう。

貴族さんがほんっとーに調子良過ぎて笑ってしまいました。あとでルードヴィヒさんが「バカ貴族は酒と女にしか興味がない」的にバッサリ切っていたから、当時の貴族イメージ代表なのかなぁと。知っている人が誰もいないパーティーとか行く時に、隣にいると心強いタイプの人ですね!

調子が良いけど話している内容を聞くと、早々にルードヴィヒさんに目をつけて、楽譜ベースでちゃんと新曲毎に特徴を捉えて、貴族代表として具体的な感想を伝えられるくらい良い耳は持っているんだろうな。

ルードヴィヒ父は怖かった。鋭いムチみたいだった。歌手なのに、あまりに自分の感情を表現する引き出しが乏し過ぎる人だった。幼いルードヴィヒと入れ替わるシーンがあったけど、ほんとに身体が大きいだけの子どもみたい。お父さんの鋭い音のアクセントが、ルードヴィヒくんを追い詰めるのと同時に舞台全体の流れもつくりあげていて、こういう表現をみると何となく福士さんご自身も演出家さんなんだと感じます。

福士さんの壮年ルードヴィヒが話し始めた時にすごくすごく感激しました・・・!ほっんの絶妙な差だけど、今までと音色の響きが違う。すごい。

それだけで福士さんがこの作品で積み重ねた何かが伝わって来た気がして感動した。その音の違いについて筋肉単位で話したいのですが、たぶん楽しいの私だけなので割愛します!!(長くなりがち

ルードヴィヒとしての表情も今まで見た事のないものばかりで、ほんとにほんとに素敵だったんですよ・・・!!天上に向かってピアノを弾くように手を伸ばす瞬間とか、壮年ベートーベンさんがそっと耳をつけて愛おしそうにピアノに触れる姿をみて、あぁ、この人本当にピアノが好きだったんだなと。

マリーさんと初めて会った時を思い出す壮年ルードヴィヒさんの表情が余りにも優しくて、あぁ晩年の彼にとって、堪らなく愛おしい記憶だったんだ・・・!ってなりました。

私もすごく音に影響を受けて来た人間だから、ローズハウスの記憶を話す木下晴香さんのマリーソロで無性に泣けて来てしまった。力強い前奏とセリフから歌に入る流れがとても素晴らしかった。希望の世界が目の前に拡がった。

いつもそばにあって、新しい世界を開いてくれて、人生を支えてくれるキラキラした思い出の音ってあるよね。。。貴方のお陰で、貴方の音が、勇気をくれた。

反対にウォルターくんの船出を回顧する場面で、壮年ルードヴィヒさんが余りにも痛々しくてみていられなかった。

振り返ってそんな痛みを伴う思い出なのかなって思っていたら、ウォルターくんは、この世界の何処にも辿り着けなかった。しんどい。

「悲しみを指したままで動けない 時計の針のように(歌詞違ったらごめんなさい)」のピアノ伴奏とウェットな旋律、福士さん演じるルードヴィヒの歌声が、森さん訳の歌詞も相まって、胸を締め付けられるほど美しくてとても苦しかったです。

中村さん演じるルードヴィヒさんの「やりたいんだ音楽が!!!!!!!」の絶叫は、本当に心の奥に刺さって、いつまでも抜けない棘みたい。

執念、慟哭。言葉で知っていても、こうやって目の前で展開されて、はじめてその意味を知るような・・・そんな感じ。

もし自分も耳が聞こえなくなったら…と想像した時に、楽譜がよすがになるので五線譜ルールを決めた人は本当にすごいなと思いました(脱線

音符を加えれば鳴らさなくても届けられるんですよ。すごい発明だ…!ルードヴィヒさんが演奏家だけじゃなくて、ゼロから1を生み出せる作曲家で本当に良かった。

楽譜に起こす時は休符(静寂)も音楽だから、あの絶叫の後、静かに耳を澄ませるのがとても大事な時間に思えました。

福士さんのルードヴィヒが歌う静寂、本当にほんとにほんとに素晴らしかった。ここから壮大なオーケストラに入ってWメロの「わたーしのー」でまた泣きそうになる・・・差し込む希望が会場全体を支配していた。元々、福士さんの多彩な豊かさに心惹かれたのですが、そこからさらに表現の深みを増していく様に、毎回新鮮に感動する。

ルードヴィヒ本人としてストーリーテラー的に言葉を紡ぐ時のピッチの変化とリズムの紡ぎ方とかが明確に変わっていたから、福士さんこの作品で何かが変わったのかなと(※個人の見解)。ほんの些細な、ほんのちょっとの差なのですが、堪らなく好きです。

子ども役の大廣アンナさんが、幼ルードヴィヒくんの時はちょっと大人組2人のやんちゃ(マイルド表現)さの片鱗がみえて、ウォルターくんは第一声から才気溢れる凜とした瑞々しさでキュンと来ました。

カールくんの時はちょっと素朴な感じで弾む響きが違って、1人ひとり違う心を演じる素敵な俳優さんなんだな!って感動した。

そう、カール。初日は福士さんのカールさんが一番刺さってしまって。何となくあの苦しみは他人ごととは思えなかった。

大なり小なり、人間は愛という名の期待や欲に応えられなくて、心を寄せてくれたはずの人から憎まれる瞬間もある気がします。

愛してる!って言ってくれる人から、自分で在ることを許されない時が一番孤独だし、愛してくれた相手を信じて、勇気を出して伝えた自分の気持ちを無かった事にされるほうが数段、悲しくなるんじゃないかなぁと。

だから「それは愛なのですか?」と問いかけるカールさんの悲嘆に、うんうん唸ってしまった。

カールさんとのレッスンの中で、ルードヴィヒさんの「(音楽で)あっと驚かせたい!」って大衆音楽家としての聴衆に対する誠実さは本物だったから、その誠実さをカールさんにも向ければ良かったのに・・・ってちょっと思いました。両方だいじ。

「より良く表現したい」という、とても大事な衝動を持っていたから実は劇中のカールさん、音楽の才能自体はあったんじゃないかなぁと感じて。

最初に会った時にベートーヴェンさんのアドバイスを聴いて、カールくんの弾き方が変わった瞬間の煌めきとか。木暮さんのピアノのタッチもその煌めきに溢れていて、本当にそういう細かい所が素敵だった・・・本作MVP・木暮真一郎さん・・・。

カールくんと一緒に楽しくピアノを弾いている内に「神が私の償いのために与えたもうた、運命の子ども!」って音楽家・ベートーヴェンも解釈しちゃったのかも。

ヨハンナさんの元でカールくんが寂しい思いをしているのに彼が強がっている事は、聴こえ辛い耳でもちゃんと気付けていたから、レッスンの時は自分から耳や目を塞いでいたのかなぁ…「おじさん」を「お父さん」に変換して。愛は盲目………。

ルードヴィヒさんの耳がどれくらい聞こえていないかは、どんな音量で話せば相手に聞こえないか知っているカールさん自身が一番よく分かっているはずだから、「上達した!」「繊細さが増した!」って褒められても、信じられなかったのかもしれない。

さらに「足りない」的な、今のカールさんを否定する発言がちょこちょこあって、相手の意図(顔色)を汲み取ろうとするカールさんには辛かった気がする。

カールさんが自分の実力を疑わない子なら「やっべーオレ天才!?」でハマったかもしれないのにね・・・!(それはそれで才能がある

「先生の音楽のお陰で、わたし自由になりました!」って歌うマリーさんが男の服を着て、男のように足を開いて座る様が~~~~ちょっと~~~~自分にはせつなかったです。。。。

それは本当にマリーさん自身の心の声を聞いて、実行した変化ですか・・・? 女の話は聞くに値しないと決めつける世間の声に従ってはいませんか・・・とドキドキしました。

自分の話になっちゃうんですけど、男っぽい名前で仕事をしていた時は、周りに男の人だと勘違いされていて、何にも壁がなかったんです。

その経験があったから、女性だと分かる立場でお仕事をするようになってから、こんなに話を聞いて貰えないなんて本当にビックリしました。私自身はほぼ何も変わってないのに!?(愕然

わたし絶賛、何を優先して服を着るかが都度ブレブレ(※臨機応変)で生きているので、マリーさんに「偽りの姿で世間を欺いている!」とか「本当に設計者になりたかったのなら男の皮を被るべきだった!」って揶揄する人がいたら、申し訳ないけど両方ほっぺつねると思います(暴力ダメゼッタイ

そんな風に、愛する設計の世界で話を聞いて貰えなかったマリーさんが「カールの話を聞いてあげて」「運命を決めつけないで」と訴えるのは、心からの言葉でくるしい。あの情熱と狂気の塊みたいなルードヴィヒに対等に、真っ直ぐに届けようとする木下さんマリーの熱量が素晴らしかった。

ちゃんとお金を盗んだカールさんの弱さも指摘して、「育てて貰ったことには感謝してね」と諭して帰るのは、何となく教授が、マリーさんを誠実に世話していたからなのかなぁと(妄想

※↑追記「感謝して」じゃなくて「ご恩を忘れてはなりません」でした。ニュアンスが違う

そういう存在がたった数人でもいれば、他人に誠実であることを諦めないでいられる気がします。あぁ、だからマリーさんは、ベートーヴェンさんにも誠実で居られたのかな。優しい繋がりの連鎖。

反対にベートーヴェン家の稼ぎをコッソリ受け取っているヨハンナお母さまは、カールさんにとって良き家族じゃない側面もあるのかもしれない。

息子はお母さんに喜んで貰いたくて堪らないから、お金を盗んで、お母さんはそれを受け取って。その関係だとカールさんに逃げ場が無さすぎてかなしい。、。、

日本人にも馴染みのある第九が鳴り響き、光と降り注ぐ赤い花びらの中で歓喜している中村倫也さん演じるルードヴィヒは本当に圧倒的な存在ですごかった。あの瞬間、心の中でスタンディングオベーションだった。今まで観た演劇の中でトップに入る印象的なシーンだった。すごかった。

こういう心の掴み方をされるのって、アイドル出身の方が多い印象だったんですけど、俳優・中村倫也さんがその思い込みをブッチ切っていった。血管が切れてしまいそうだった。客席の誰もが息を呑んでいた。

その後ろで、まるで天国への階段を昇るみたいに、銃を携えて静かに進む福士さんカールの後ろ姿をみて心が死んでしまう。

積もり積もったものの上に、"才能ある子の身代わりだった"ことを知って「もうどうでもいい」ってプツリと糸が切れてしまったみたい。それでも、足取りは意思を持って死に向かっているようにみえました。

カールさん生きてて本当に良かった~~!!「カールは二度と私に会おうとはしなかった。」のはすごく悲しいけど、カールさん自身が懸命に何かを選んで生きた先で幸せを掴めたら、許してないけど憎んでない境地にいけるのかもしれない。

深い傷を負っても、人生の苦難は避けられないものだから、何とか幸いの種を見出して、生き抜いて欲しいと心から願ってしまう。これも愛にみせて、相手にこう在ってくれ!という欲かもしれませんね。

最後、木暮さん演じる手紙を届けてくれた音楽家さんが「フランツ・ペーター・シューベルトです!」と名乗って、ヒュー!!解釈一致ありがとう握手!!!!となりました。

シューベルトさんもベートーヴェンさんと作風は違ったけど、彼の楽譜を読んで影響を受けて尊敬していて・・・というか後続の音楽家で彼の影響を1mmも受けていない人なんて(ほぼ)いないでしょ????

ベートーヴェンさんの楽譜やピアノを通して、直接的ではなくても影響を受けたマリーさんやシューベルトさんが人生で新たな道を切り拓いて、また次の人々へ繋げていく様に圧倒的な生の肯定を感じて、とてもとても美しかった。

か細くても、一瞬でも、確かに未来へ繋がっていく愛おしさ。

そこで辛かった少年時代、絶頂と絶望を味わった青年時代を経て、壮年のルードヴィヒさんが振り返った時に、人生まるごとひっくるめて愛せるものだったなら良いなぁと。

そして1人の男が語る私的な半生が、さいごマリーさんの言う”先生の音楽は永遠です”という壮大なスケールに繋がるのが・・・すごかった・・・。ベートーベンの当て書きでしか描けない説得力だ………。

そのベートーベンの楽譜が今も残っているのは、当時の方々が演奏をしたり、次に繋げていったからで、遠い韓国ではミュージカルになり、日本でまた新たな作品になるのも夢のあるロマンですね。

振り返って、そんな事を感じた初日でした!

手ぶらで行って劇場では受け止めるのが精一杯で、両腕に大きな塊を抱えながら「はて何をみたんだろう…?」となりました。人間、ビックリすると一回止まってしまう。

帰ってから受け止めたものを少しずつ砕いて、受け入れたらじわじわ来ました。すさまじいものをみた…………。中村さんと福士さんの歌唱は感激し過ぎてまだ紐解くのが勿体ないので「すごかった」の5文字でまとめさせてください。。

観劇後に「「観るぞ!」って気合いを入れて来てください」的な取材レポの言葉を知って、もうちょっとそれ早く知りたかったです!!!笑 ※時差

次は観るぞ!と気合いを入れて臨みたいとおもいます!!!!

福士誠治さんの歌をもっと聴きたい方は・・・

長い感想の後なのですが、もう1人のルードヴィヒ役・福士誠治さんの素敵な歌が各種サブスク&DLサイトで配信されているので、ぜひオススメさせて下さい!

以前、音楽活動をやられていた時の楽曲で、入門編として聴くなら12曲入りの最新アルバム「Time Lover」

音楽家・濱田貴司さんが手掛けた映画みたいにドラマチックな歌が堪能出来る一枚です。ヴァイオリンなどの弦楽器も多用したロックテイストで、ルードヴィヒの曲がお好きならきっとハマること間違いなし!

そして福士さんと濱田さんのユニット「MISSION」活動休止前のラストライブ「Time Lover」を収録したBlu-ray&ライブCDが11/13(日)まで完全予約生産限定で販売受付中です。ちょうど今だけ予約出来ます!

福士さん自身が演出を手掛けた、手紙の朗読を交えたお芝居仕立ての演劇好きには堪らないライブで、時に涙したり、時にホッコリしたり、「Time Lover」のイベント名どおり、色んな愛が感じられる時間だったのでルードヴィヒから気になった方もぜひ✨

▷ ライブBlu-ray 販売ページはこちら

\こんな曲が収録されてます!/

ほかと少し違う曲調の福士さん初作詞曲もオススメ!


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