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歴史をケースメソッドとして捉える/『世界の転換期を知る11章』ご恵投いただきました

かつて、ビジネススクールで「経営戦略」について教えていた時があった。
そこでは、かつてハーバードビジネススクールが開発したケースメソッドという教育手法を採用していた。
(ちなみに、ケースメソッドは1921年に開発されたらしく、100年以上の歴史を持つらしい。その歴史や特徴をHBSの第10代学長だったニティン・ノーリアが説明してくれている)

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/8312

ここでノーリアが語る通り、ケースメソッドとは、「あなたが主人公だったらどうする?」という問いをベースに、自分なりに選択肢を考え、その理由を説明するというものだ。

しかし、この本質を理解しないままにケースメソッドに臨むと、めちゃくちゃつまらない回答になる。

たとえば、トヨタの「プリウス」というケースがある。
1997年、初代プリウスが生まれたが、この戦略を考えるというテーマだ。
ここでつまらない回答とは何か、というと、その後のトヨタやプリウスの後日談を踏まえた上で、プリウスの戦略の評価を語る、というものだ。
つまり、「プリウスはその後こういう結果を出したので、トヨタの販売戦略は素晴らしかったです!」みたいな回答だ。
これはめちゃくちゃつまらないし、本質を外しまくっている。

問われているのは、「あなただったらどうするか?」ということだ。
そこに、プリウスの後日談など一切関係ない。
自分が1997年当時のプリウスの責任者だったらどういう立ち振る舞いをするか、ということを、当事者になりきって考えた結果こそが重要なのだ。

既に歴史的事実になっていることを、その当事者の視点に立って考え抜くことができるか?

この視点の切り替えができるかどうかによって、ケースメソッドの効果は格段に変わってくる。

実は、この視点の切り替えはかなり難しい。
僕たちは、その後のストーリーを知ってしまっているから、ピュアにその当時の立場に立つということができないのだ。
できないにも関わらず、1997年の立場で、見えない将来を見る努力をしてみる。そこにケースメソッドの意味がある。

もし、この視点の切り替えができれば、歴史というものは、一気に素晴らしい学習ツールとなるはずだ。

今回、『世界の転換期を知る11章』という本を山川出版社の野澤社長(ゴリ)からご恵投いただいたが、この本はまさにそういう思考実験なのだと理解した。

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本書の「はじめに」には、この本の特徴をこう表現されている。

今日の時点から振り返ってみれば、それぞれの時期の「転換」の方向性は明確であるようにみえます。地域により、早い遅いの差はあれ、また独特の特徴はあれ、歴史はある一定の方向に向かって発展してきたのではないか…。
しかしこのような見方は、のちの時代から歴史を振り返る人々の陥りやすい、認識上の罠であるともいえます。今日の私たちからみると、歴史の軌道は自然に「それしかなかった」ようにみえてしまうのです。
それでは、「今日から当時の社会を振り返る」のではなく、「当時の社会から未来をみようとする」立場に立ってみたらどうでしょうか。

P.1より引用

この問いかけは、まさにケースメソッド的に歴史を考えてみようという誘いに他ならない。

僕らは、明智光秀が「本能寺の変」を起こした歴史的事実を知っているし、あれが日本史のターニングポイントだということも知っている。
しかし、あれは彼の目の前にあったいくつかの選択肢のうちの1つでしかない。結果的に彼があの選択肢を選び、僕たちはその後の歴史の上を歩いているので、「もはやあの選択肢しかない」と思っている。
しかし、時間を巻き戻せば、当然違う選択肢もあったのだ。

もし自分が「敵は本能寺にあり!」と叫ぶ前の明智光秀の立場に立ってみたら、どんな選択肢があり得ただろうか?そして、自分はどの選択肢を選んだだろうか?それはなぜ合理的なのか…?

「歴史にifを考えるのは禁物」という言葉もある。
しかし、無限の選択肢がある中で、その一つを選んだことを批判的に捉え、「自分だったらこうした」と考えることに意味はあるはずだ。
そうやって無限の選択肢の中から一つを選び抜くという姿勢そのものが、今を生きる私たちの当事者意識につながるのだから。

未読状態のため、この本がどこまで「過去に立ち戻って未来を見据える」という思考実験をしているかはわからない。
ただ、この「はじめに」のメッセージにはとても共感したことを伝えたかった。
これから読むのが楽しみだ。

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