「残業の癒しが」・・・怪談。ラブラブメールをしていると。
「残業の癒しが」
これは聞いた話。
次郎くんが夜中に会社のデスクで残業を片付けている時、
家で待っている恋人の佐江子からメールが来た。
「残業で遅くなりそう。サイテー」
「お疲れ様。頑張って♡」
なんて他愛のないやり取りをするのが残業時の次郎の癒しになっていた。
ところがその日は途中から。
「なんか嫌な感じがする」
「周りに変な人がいたりしない?」
と佐江子のメールがおかしくなっていった。
彼女は別に霊感のある方では無いし、怖がりでもない。
次郎が夜の道で、
「なんか嫌な感じがする」
とか言ってると、
「何怖がってんだよ」
と言って背中をポンっと叩くような全く心霊現象など信じないタイプだ。
それなのに、この時だけは違った。
「どうしたんだろう」と不思議に思いながらも、やり取りを続けると、
「何だか変な気配がその部屋に来てるような気がする。
ヤバいから逃げて」
とまで言って来る。
そう言われても仕事が残ってる次郎は
「キリの良いところまでやって早めに帰るよ」
と送ったのだが、彼女は。
「ダメ。もう遅い。あなたの傍にいるわ」
と送って来た。
「え? 俺の傍に?」
と見回すけど、何もないし、誰もいない。
「心配し過ぎだよ。誰も・・・」
とまで打ったところで、スマホの表面に
何かが映ったような気がした。
「ここに映るという事は・・・」
次郎が頭を上げて見ると、そこには、
天井から上半身だけを垂らして、血走った目でスマホを操作している
佐江子の姿があった。
長い髪は自分に向かって垂れていて、赤い口元はよだれが垂れて落ちようとしている。
「うわあ~。佐江子!佐江子!」
天井からぶら下がっている女は、次郎の呼びかけにも答えず、
目を片方ずつ左右に離れてぶるぶると不規則に動かすと、
ニヤリと笑った。
「ぎゃあああ~」
余りにも異様な恋人の姿に、次郎は悲鳴を上げて
転がるようにオフィスを出て行った。
エレベーターのボタンを押したけれども
到着するのを待つのもじれったく思えて階段を駆け下りた。
受付の横を通り、ビルの正面玄関から、外の道に飛び出したところで、
ようやく息をつくことが出来た。
「はあはあ。あれは一体何だったんだ。佐江子が天井に?
まさか、そんな筈は無い」
今までいたオフィスのある階にはまだ明かりが点いている。
と、その時、次郎の背中をポンと何者かが叩いた。
「うわああ~」
「何よ。そんなに驚かなくてもいいでしょ。
遅いから迎えに来てあげたのに」
そこには、佐江子が立っていた。
普段と変わらない明るい笑顔を浮かべて。
「本物?」
「どういう意味よ」
「いや。実は・・・」
次郎はそれまでのいきさつを話した。
「へえ。面白いじゃない。私も見てみたい。
戻ってまだいるか確かめてみようよ」
「冗談じゃない。それに夜は外部の人間は入れないんだよ」
「ちぇ。つまんないの。でもさ、次郎君、そんな奴が現れても
一発でニセモノだと見抜かなきゃダメよ」
佐江子はそう言ってバッグの中から携帯電話を取り出して見せた。
そうだ。佐江子の携帯電話は、ガラケーだったのだ。
「幽霊になんかに騙されないでよ」
佐江子は又、次郎の背中をポンと叩いた。
それ以来、次郎はどこかで心霊的に怖い感じがしても
佐江子の事を思い出せば落ち着くようになった。
そして、段々怖がりな性格も治っていったという。
おわり
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