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#エッセイ09 仙人と私

先週のことだった。

「おっちゃーーーん!待ってて!今向かってるからあああーー!」


大声で天に向かって叫んだ。私は今、第二京浜を滑走している。
喪服ワンピース、黒タイツにチャリ。靴はピンクの登山靴。

誰に見られたって良い。私が果たしたい目的がそこにある。

3月は出会いと別れの時期。訃報は突然に来た。

このエッセイでも書いた、私が初めての独り暮らしの際に晩御飯をお世話してくれていた、一見さんお断りの店の店主、仙人が亡くなった。享年54歳だった。

作務衣を着て、長いひげに下駄を履き、餃子と粥を作っていた。

仏教や仏像、秘仏に詳しく、私が血尿出したときは「回復には、とにかく体内のミトコンドリアを喜ばせる食事が良い!」と、旬のものを沢山出してくれた(その時の竹の子)

タケノコ。奥のは私、お酒飲まないので誰かのレモンサワーだろうな(笑)
中華街仕込みの中華粥!美味しい!

基本は一見さんお断りなのに、辺りの店がやっていなくて、ひもじくしていた私を受け入れてくれた。その後、常連さん達もみんな優しく面白く通うようになり、毎度わたしの奇想天外な冒険話に耳を傾けて、聞いた後には髭をなで、「そりゃあ、神のご加護がありますなあ。」と言ってくれたりしていた。そんな仙人の訃報。

良い医者が治療法がきっとあるはず、と会えば常連のみんなで話していた。秋の靖国神社での琵琶の演奏奉納をしたい、とご本人がおしゃっていて、それを叶えられたから勇み足になったのであろうか。私が有名になって、ここは公務員時代を支えてくれた店、と自慢しようと思っていたのに、仙人は天でやることがあるらしい。それは、凡人の私には止められまい。

@靖国神社 晴天の良い日だった。


通夜は18ー19時だと連絡があり、余裕をもって向かった。

が。

仕事をしてからだったので、仕事着→喪服を着替える場所探しに手間取ってしまった。なんだかんだしていたら、駅に着いたのが18:40分だった。

なんだって!?
しかも、駅からセレモニーホールまでを調べたら徒歩30分だった。
何がどうなっているのか、少し遠い駅で降りたのである。
葬儀場の最寄り駅ではない。阿保である。

青くなった。

自転車だ。電動自転車だ。
とっさにそう思って、レンタルサイクルを探した。奇跡的に1台あった。
ついてる!そう思って、自転車置き場に向かうと、そこには、サドルが極限まで上がった状態の自転車があった。

おい!おい!おい!そんなに、みんなの脚が長いと思うなよ!!!!

脚の短さには定評があった。なぜこんなに急いでいる時に、サドルが一番高い自転車しかないのか。またがったが、足が付かない。両足ブラブラだ。
しかも、サドルのネジが錆びていて動かない。脚が短くて、乗れない。。。

ダメだ!間に合わない。タクシーもない。走るか?いや、走りも運動神経が悪くてダメだった。

どうするッ!?

天を仰いだ。春先の18時だ。空はもう暗い。
私はどうしても今生、お世話になった仙人にお礼を言いたいんだ。美味しいご飯をたくさん作ってくれた琵琶を奏でる仙人に!!!拙者、必ず通夜へ馳せ参ず。


絶対にあきらめない!絶対たどりつくぞ!

諦めないと決めると、視野が急に広くなり、斜め左、先の先の方に違うレンタル自転車会社を発見した。

ダッシュでそこに行き、自転車を借り(サドルは一番低かった!)
喪服ワンピースでまたがった。準備は出来た。Google mapで調べたらセレモニーホールまで自転車では20分かかると出た。現在は18:45。一か八か。果たしたい想いがそこにある。

冒頭の叫び疾走に戻る。
闇夜の第二京浜、と言っても18時過ぎ。平日なので帰宅ラッシュの車を横目に、喪服ワンピース、黒タイツにチャリ、靴は仕事用のピンク登山靴で滑走した。電動自転車だったが、気持ちは急いている。通夜19時までの到着は、Google mapは不可能だと言ったのだ。

今まで、何のために地図仕事で脚を鍛えてきたのか。
もはや、このためではなかったか。

「おっちゃーーーん!待ってて!今向かってるからあああーー!」

第二京浜(街道)を、大声で叫んで馬力を出した。
数十人かに見られた気もするが、仕方がない。
わたしは1分1秒を争っている。他人の目を気にしている場合ではない。
仙人(おっちゃん)が待っている。

するとどうだろう。
セレモニーホールまで、街道の直線上に4つも信号があったが、私が近づくたびに次々と都合が良いように、赤からになった。

絶対間に合わねば。そんな思いで気迫の喪服立ちこぎを10分したところで、最後の信号が赤になった。こんなところで止まれない!

と思いつつも、法令順守。急いた気持ちを抑えて、止まり、久しぶりの深呼吸をしていたら、斜め前の電柱に気が付いた。

【←ここ左折。○○セレモニーホール】

ここじゃないかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
左折なのかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

仙人どの!左折ね!分かった!と言いつつ、そこから爆速でこいでギリギリ間に合った。葬儀場に滑り込み、到着と同時にちょうどお坊さんが念仏を唱え終わりお焼香の時間になった。

遺影の仙人は朗らかに微笑んでいた。
初めての、あの日も、ギリギリ店を閉めるときに滑り込んだよね。
もっと、中華街仕込みの餃子とお粥も食べたかったし、琵琶の演奏も聞きたかった、実は私の冒険話もこれからなのよ。止まらない涙を、はらはらと流した。


常連客や商店街の皆さんもいらっしゃっていて、多くの悲しみに包まれていた。だけど、葬儀後にはみんなで前を向く。お店は引き継がれお店はそのまま新しい門出として再出発すると連絡があった✉️。仙人のお店は、終わらない。お店を愛し仙人を愛したみんなの手で、まだまだ続くのだ。


仙人は、空から秘仏がフリーパスで見れて喜んでいる事だろう。
私は来年の3月には何を報告できるんだろうか。また「さわさん、それはそれは、面白い話を持ってきますねえ。うーむ。」と仙人を唸らせる全国や世界の謎の秘境と民族体験をお店に持っていきたい。


私の大好きな名店。いつもありがとうございます。「中延くわじ」 の面白い仙人。安らかに。

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