2億の論理

テレビでキングオブコントをやってる真裏で「THE 性癖」というトークライブに出演してしまった。あらゆる性癖について語り尽くす タイトル通りすぎるイベントだ。

10/8(土)にライブ開催を決定して告知。席も埋まりホクホクだったけど、後にお笑いの日が放送されることが判明した。お笑いファンのお客さんがごっそり減ることが容易に想定できたので、イベントの中止も鑑みた。しかし会場費のキャンセル代を払いたくなさすぎたので決行することにした。やってみた結果、お客さんの数は驚くほど減らなかった。

録画してる人がほとんどなんだろう。地下お笑い界は現場を優先してくれる人が意外に多い。「キングオブコントよりTHE性癖をリアタイ!」というお客さまに愛されている。本当にありがたいことだ。
とはいえ念のためライブ冒頭で「そもそもKOCを見る予定がなかった人」と客席に聞いたら、それなりの数の挙手があった。繰り返すけどとてもありがたい。本当に。でもちょっと複雑な気持ちになった。

家に帰って、ほとんど情報0のままキングオブコントを見ることに成功した(TVerで見たのだが、優勝者がサムネで表示されていたのだけ最悪だった。いい加減にしてくれ)
もう本当にため息が出るぐらいレベルが高い大会だった。コントがどんどん盛り上がっている。きっと来年はもっといい番組になるんだろうなぁと予感させるものがあった。だからこそ芸人人生を賭けてぶつかる価値がある、なんて熱くなったりもした。この時期は全芸人が熱くなるものだ。


本当にいい番組で、クオリティも毎年上がっていると言われているにもかかわらず、キングオブコントの視聴率は下がっている。個人視聴率が20年が8%で、今年は6.8%だったそうだ。下のリンクで解説されていたけど、この2年間で中高生やネットユーザーが離れてしまったらしい。貼ったけど、あんまりいい気分になれる記事ではないのでお笑いファンは読まなくてもいいと思う。


分かっていたつもりだったけど「キングオブコントをほとんどの人が見ていない」というのが しんどい瞬間がある。M-1グランプリも同様である。我々にとっては本当にオオゴトなのに。狭い界隈なんだ、お笑い好きって。仕事にしてるから全員見てると錯覚してるけど。ホリエモンがM-1の批判をしてたけど、あれぐらい興味ない人がたくさんいるんだって。悔しい〜


YouTubeをやり始めて、お笑いの界隈以外の方とご一緒することが増えて、上記の件を痛感する機会も多くなった。
最近、何件か取材していただいたのだが(本当にありがたいこと)ライターさんは全員キングオブコントを見ていなかった。夢はキングオブコントの優勝直後に浜田さんにビンタされること、と言いたかったが伝わりそうになかったのでやめた。


YouTubeに軸足を置いて活動すればいいじゃないか、と言われることがある。側から見ればその通りである。
現在、ライブ出演は20本/月ほど。一方YouTubeの撮影は月3日程度に抑えている。ネタ作りやネタ合わせなんかに支障が出ないように、企画や編集もなるだけ手を抜けるようにしている。力の入れ具合はお笑いが8から9割、1割がYouTubeといった感じだ。
しかし収入は真逆で、ライブではほとんどお金にならず、YouTubeマネーが9割以上だ。

コンサルが入ったら「お笑い事業を削ってYouTubeに軸足を置きましょう」とアドバイスするのは至極当然だろう。編集や企画、撮影の労力を増やせばもっといいチャンネルになると思う。それをしないのは、いつまでも続くコンテンツじゃないと自覚しているというのもあるけど、ある程度はもう意地でしかない。この意地というものが非常にやっかいで、そして大切だと思っている。


先日、出版社の方とお話する機会があった。楽しい雑談の中に忘れられないエピソードがあった。なんでも、とある有名人の不倫をスクープした記事が「2億PV」を記録したそうだ。

今もっとも勢いのある漫画、たとえばSPY×FAMILYやチェンソーマンでも「1000万PV」いけばかな〜り良い方らしい。チェンソーマン2部の第一話は「800万PV突破!」と宣伝されてましたね。2億回視聴された、という数字がどれだけ凄いか。

「あの○○がセクースしてますよ〜!!」というだけで2億回視聴されてしまう世の中だから、性のコンテンツを狙い撃ちしてるバキ童チャンネルが伸びるのも当たり前なんですよ。という文脈で聞いた。

複雑だった。いま一番面白いと思ってるチェンソーマンより、誰かのセクース特報のほうが知られてしまう。だからって、セクース特報をやり続ける人生を選んで良いわけないよなと思ってしまう。


2億PVの論理は魅力的だ。圧倒的な影響力と収益がある。でも狭い世界だろうがなんだろうが、自分が面白いと思うことをやれた方が絶対良い。

数と質。二つの論理を行き来する。全員が喜ぶものを作らなくてはならない、は演芸において一つの正義なのだけど。みんなが面白がるものに、本当に面白いものは少ない。

ネタが、キングオブコントが、どれだけ観られてなかろうと。ここに賭けていきたいと、まだ思えている。
いつの日か2億の論理に傾く日が来てしまうかもしれないけど。浜田さんにビンタされたい、と思っている以上はまだまだやれそうだ。

身に覚えのない慰謝料にあてます。