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恋愛体質:BBQ

『唯十と友也』


3.session

「ナンバーワン? ナンバーワンだったわけ?」
そう真顔で驚く砂羽さわに対し、
「当たり前じゃん」
どや顔で答えたのは唯十ゆいとだった。
「なんであんたが得意げなわけ?」

(あ~だれか、オレの頭をハンマーで殴ってくれ)
アルコールを口にしていないのに、すっかり酔っ払いの気分だった。

「ユート、おまえ今日おかしいぞ」
砂羽がトイレに立ったタイミングでそう友也ともなりに指摘され、
「充分自覚してる。でもそれはユウヤさんのせいだ」
率直に答える唯十。
「なんでついてきた」
「解ってるくせに」
普段通りの会話をしても気が晴れない。

『そもそもなんで?』
『興味もないのに?』
『いや、まさか本気で?』
聞きたいことは山ほどある。
だけどここで話せる内容でもない。
(もやもやする…!)
もう誰も余計なことは言わないで欲しい…そう思った矢先、
「興味がない相手に割く時間がないってことは、こいつらにはその価値があったわけだ」
重音かさねの一投に、更なる不安が襲う。

「こいつらって言い方は聞き捨てならないわねー」
そもそも砂羽は重音の元カノだ。

「まぁ。そう、なるか」
皮肉ともとれる重音の問いかけに、ケンカを買うでもなく含み笑いで受ける友也に、
(なにー!?)
再びざわつく唯十。
「へぇ…珍しいこともあるもんだ」
意外にも重音はそれを笑顔でスルーした。
(ガミガミお兄さん、もっと突っ込んでー!)
普段の重音なら、更に嫌味のひとつやふたつ投げかけるはずだ…と、次の言葉を待つもなんのリアクションもない。腑に落ちない唯十は、重音の様子を観察、異変に気付く。
(自分のことで手いっぱいってことかよっ)
どうやら重音にとっても、気忙しい事情ができたようだった。

「また行くんですか? 街コン」
仕方がないので「ターゲットを変えよう」と、今度は雅水まさみと砂羽に質問を投げかける。すると、
「もう、ごちそうさん」
と砂羽が答え、
「当分はいいかな~」
と雅水が答える。
「じゃぁそっちも、こいつらで手を打つんだ」
すかさず突っ込みを入れてくる重音に、
(手を打ってもらっちゃ困るんだよ!)
ついつい鋭い視線を向けてしまう。

「お兄さんは砂羽さんと元恋人なんですよね?」
半ばヤケクソの唯十は、重音が「焦ればいい」と思った。だが、
「なんで今その話!? 恋人って言い方、辞めてくれない?」
遮るように答えたのは砂羽の方だった。
「ぇ、いやぁ。サギさんは、おねぇさんに会いたくて来たのかな~と思って」
方向性は違うが、唯十は自分の気を落ち着かせたかった。
「え、そうなの?」
だが、そこに反応したのは意外にも友也の方だった。
「なんで?」
(なんでユウヤさんが気にするの~!)

唯十の「なんで」が自分に向けられたと思った重音は、
「いや。街コンなんか行くタイプじゃねーから『なんのつもりか』とは思ってたよ」
と、友也に向かって答えた。
「ひとは変わるのよ」
ここで「ただのつきあい」だとは答えたくない砂羽は、小さく呟く。
それぞれの事情が交差する。

「ちなみに、オレ好みはいた? 街コン、オレも行ってみるかな~」
「よくいう」
重音を「悪いやつじゃない」という友也は、失笑気味につぶやく。
「サギは、街コン参加してる時点で全員却下だろ」
唯十にはその姿に若干違和感を覚え、自分が思うほど重音に対して敵意を抱いているわけではないのか…と思い直す。
「見聞、見聞~」
「空気悪くなるからやめとけよ」
「おまえと行ったらそうなるかもな」

鷺沢さぎさわさんて、そういうタイプ?」
言葉を選んだところで、雅水のその表情からは、
「面倒臭いって顔に書いてあんぞ」
と、重音は目を細めた。
「え、そう?」
「まぁ『昭和』なんだな、オレは」
それを受け、砂羽は「やだ、おっさんくさ」と口元に手を当て、
「大人になったのかと思ってたら、歳くっただけか」
と、旧友らしい皮肉を述べた。
「うるせーわ」

そんなふたりのやり取りに、
「サギさんいたら、女の子たち泣いちゃいそう」
更なる唯十の地雷発言。
「あ~それ、解る~」
砂羽の合の手に「でしょ~」と言って笑った。

「なんだよ、オレだってよそ行きの顔するわ」
「ホントですかー?」
「じゃぁ一緒に行ってみるか?」
「やですよ。僕、嫌われたくないですもん」
そもそも、女の子に興味はない。
「おまえ、女に興味ねーじゃん」
「余計なこと言わないでください」

え、そうなの?
重なる雅水と砂羽の視線は声にならない言葉を発していた。


2.relationship   4.conviction



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