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恋愛体質:BBQ

『尭彦と雅水』


4.heartbreak

「さっきの話だけど…」
「さっきの話?」
ぼちぼちお開きという頃、ずっと聞き手に徹していた寺井が小さく雅水まさみに囁いた。
「他に連絡はなかったのかって話」
「あぁ。あなたでも興味あるの?」
そうは言っても彼は「出会いを求めていた」と言っていたことを思い出す。
「そりゃぁ…」

「いたわよ」
「え?」
「あってはいないけど、連絡は取り合ってる」
言いながら手元のスマートフォンをかざして見せる。
「でも年下なのよね。わたし年下は論外、しかも学生だし」
「へぇ」
「気になる?」
「まぁ」
そこは普通に「男の反応」なのかと、受け止める。

「じゃぁ、あなたも?」
こちらを気にするということは、つまりはそうなのだろうと解釈した雅水。そう思ったらなんとなく憮然とした声になった。手持ち無沙汰に目の前のハイボールを手に取るが、すでに中味はなく水っぽくなっていた。
砂羽さわ~。お願い」
なんとなくバツの悪い雅水は、斜め前に座る砂羽にグラスを手渡した。
「今日はかわいい飲み物じゃなくていいの~」
意地の悪い笑みを浮かべ、グラスを受け取る砂羽に「うるさい」と口パクで応える。

「わたしたち以外に、会ってる子たちがいるってわけだ」
そこで初めて右隣の寺井を見遣る雅水。少し眉ねを上げながら「どうなの?」と促す。
雅水自身、彼らに特別な感情があるわけではなかった。そういう意味では自身の態度こそが失礼に当たるのかも知れないとも考えたが、女としてなんとなく、粗雑に扱われるのは遺憾だ。だが、
「他はいないよ」
その答えは意外だった。
「へぇ…」
それにしてはタイムラグがあり過ぎる。もしや、こちらからの連絡を待っていたのだろうか。
(まさか、ね)

「出会いを求めてるなら、もっとLINEすればいいじゃない。てか、しなきゃダメでしょ」
それ以外に親交を深める手立てはないのだ。
「そう、なんだけど」
「あまり間を置くと、不審がられるわよ?」
古河こがさんたちみたいに?」
「言うわね」
目を細めながら、砂羽の差し出すグラスを受け取る。
「そうよ、その通り。だって、おかしいもの。それとも…ただ慣れてないだけ?」
「どうかな」
(うわぁ)
「そんな返しはできるのね」
そう言ってハイボールをひとくち、喉に流し込んだ。

「オレが…」
寺井は、そう勢いよく言い、次の言葉を飲み込んだ。
「オレが…?」
なかなか次の言葉を言い出さない彼を見返すと、なんとも言えない表情をしていた。
「オレも…LINEしていいかな?」
「え。砂羽に?」
「いや。古河さんに」
「あぁどうぞ」
雅水は深く考えずに答えた。
(今さらあたしにLINEしたところで…)
そう考えて再びグラスを口に運ぶ。だが次の瞬間、それでようやくタイムラグの意味に気付いたようだ。

ゴクリ・・・・
「でもあたし…」
冷たいグラスを膝の上で握ったまま、今度は真面目な表情を寺井に向ける。

「あたし、失恋したばかりなのよね。もともとあまりもの同士で付き合ってたから、そんなに執着もなかったつもりだったけど。思いの外ダメージ受けてて」
言い終えてテーブルにグラスを戻し、そのまま寺井の目の前にある空になった取り皿に手を伸ばした。「あまり食べてないでしょ」と、すっかり冷めきった肉や焼き野菜に手を伸ばす。
「女って、切れたあとでも気になるもので、SNSとかチェックしちゃうわけ。その彼がさぁ…楽しそうに他の女と一緒の写真をアップしてたりするわけよ」
綺麗に盛った取り皿を寺井に渡し「でね…」と付け加えた。そのままの流れで自分の取り皿にも焼き野菜を取り分ける。
「こっちも『楽しくやってるよー』って、見せつけてやりたくなるじゃない? 男には解らないだろうけど」
「そうですね」
寺井は、皿を受け取ったままの姿勢で黙って雅水の姿を眺めている。その視線を感じながら、
「だから、今回のBBQはいいきっかけだったわけ」
「なるほど」

「腹立たしいでしょ」
改めて寺井を見ると、彼はそれまでの苦笑いとは一変し生真面目な顔をしていた。
「いや。まぁ…でも」
「どっちなの? あなたってよく解らない。なんでも解ってるような澄ました顔して、それが素なの? あたし教師やってるくらいだから、意外と人の顔は読めるつもりでいたけど、あなたも、あの元ホストたちも、て~んで解らない。まだまだってことかなー」
いい切って野菜を口に頬張った。
「そんなことないと思うけど」

「ふぅん。とりあえず、LINE待ってるわ」


3.step into   1.minute waltz



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