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恋愛体質:BBQ

『尭彦と雅水』


1.defenseless

「手慣れてますね~」
BBQが始まってからずっと、焼き網の前から離れられなかった尭彦たかひこに、掛けられる言葉といえばそれくらいしかなかった。
「いつもやらされてるんだ」
器用に肉を返しながら、それが「役割」とばかりに答える。
「いつも?」
「下っ端だから」
ははは…と空笑いをするのは彼の癖なのか、今日はずっとその顔がついて離れないのが気がかりだった。
「ふぅん。進んでやってるんじゃなくて?」
なんだか雅水まさみは、その笑顔に意地悪を仕掛けたくなった。

「その笑い、辞めた方がいいですよ」
意外に長身の彼を、上目遣いに見ながら、お坊ちゃん育ちのわりには筋肉質であることを値踏みする。彼に会うのは街コンから数えて今日で5度目、よくよく見ていなかったことに今さらながら気付いた。
「え?」
「あなた、会社で嫌われてるでしょ」
言ってしまって「しまった…」と後悔しても遅かった。
「ごめんなさい。でも」
両手で大皿を持ったまま、バツが悪そうに顔を伏せる。
「多分ね。でも、昔から人と絡むのが苦手で」
そう言ってまた苦笑いを見せる尭彦に「でしょうね」と、言おうとして飲み込んだ。

「街コンも。あなた、あぁいうところにいるタイプじゃないもの」
思ったことがつい口に出てしまう…いつもそれで「失敗するのに」と思っても、ふたりきりのせいかどうにも止められなくなった。
「違うよ。あれは純粋に、出会いを求めてた」
意外にも彼は、真顔でそう告げた。
「あなたが?」
「うん。変、かな? だってそういう場所だろ?」
「そう、だけど。へぇ」
次期社長は引く手数多だろうに、これは本気で社内で「嫌われているのか?」と別な疑念がよぎる。

「そうだ! 聞こうと思ってたのよ」
「なに?」
「なんで砂羽さわに連絡くれたのかな? しかもずいぶん経ってから。上石くんが砂羽に興味あるようにも見えないんだけど」
自分から連絡をして来たわりに、上石の砂羽に対する口数は少なかった。
「もしかして他に狙ってた相手がいて、そっちがダメだったから? わたしたちは施しを受けたわけ? まぁそれはそれでルールがあるわけじゃないけど。それにあの和音かずねって子。随分と上石くんにご執心じゃない? なんなのあれ、ちょっとびっくりよ。砂羽に聞いても濁されちゃうし」
「捲し立てるね」
矢継ぎ早の質問にひとことで返す、そんなところもまた雅水には鼻につく態度ではある。しかし、
「あぁごめんなさいね。だって、気になることばっかりなんだもの。今日はずっと、あの子がきてから調子狂いっぱなし」
焼きあがったお肉を、尭彦の盛りつけに合わせクルクルと皿を回す。

黙って肉を盛っていた尭彦だったが、網の上が空になったタイミングで「じゃぁ聞くけど」とまっすぐに雅水を見据えた。
「なぁに?」
古河こがさんは、トモが目当てでここへ来たの?」
想定外の言葉に、雅水は拍子抜けして目を丸くした。
「そう見える?」
「いや。でも。あなたはいつも本音を話していないように感じるから。食事のときも、いつもよそ行きの言葉を使って喋る。今のが本当の古河さんでしょ」
「やだ…そんな風に見てた?」
確かに、彼らとの食事の際は「素」とは言えない態度で接していた。
(意外と見る目はあるじゃない)
それは雅水が、ほんの少し心を開いた瞬間だった。


5.explore   2.party



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