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恋愛体質:BBQ

『尭彦と雅水』


3.step into

「実際どうなの?」
チラ…と視線を流し、珍しくこちらの状況に興味を示す友也ともなりに、
「別に、たいしたことないわよ」
自分のことには言葉を濁す雅水まさみ

「あ~だれからも連絡こなかったんだー」
すかさず子どものようにはしゃぎ立てる唯十ゆいとに、
「どうだっていいじゃない、そんなこと」
不快を露わにする。

「じゃぁ、教えてくれてもいいじゃないですかー」
「とことんヤなヤツね、あんた」
若干本気モードの雅水の冷ややかな目つきに、
「雅水。本音が漏れてる」
と、笑いまじりの砂羽さわのひとことで我に返る。
「あら」
砂羽の気転で冷静を取り戻した雅水は、大人の余裕を浮かべて笑顔を返す。
「ごめんなさいね、つい」

「砂羽さんは?」
唯十の興味がどこに在るのか計り知れないが、砂羽にはどうでもいいことだった。
「あたしは一件だけよ」
そう言って友也を小さく顎で指す。
「へぇ」

「むしろこっちが聞きたいわね。あなたたち、たくさん連絡きてるんじゃないの?」
そう言って右隣の寺井に目を移す雅水は、よっぽど連絡までのタイムラグが気になっているようだった。
「どうなんです? ユウヤさん」
そこは唯十も興味をそそられる部分であるらしい。
「どうだっていいだろ」
友也は面倒臭そうに唯十を見た。

「まぁでも、人気だったことは事実じゃない? フリータイムの時、女の子が群がってたし」
「さっさと引き上げていったわりには、よく覚えてんじゃん」
苦笑し、友也は「そうでもない」と涼しげに答える。
「うそだぁ」
即座に反応を見せる唯十に、
「嘘じゃない。興味のない相手から連絡があったところで、なんの価値がある。時間の無駄だ」
半ば不機嫌な口調で言い放つ。
「いうねぇ…さすがナンバーワンホストは余裕がある」
どうにも友也をよく思っていないらしい様子の重音かさねの言葉は、当事者じゃなくても聞き苦しい。

「ナンバーワン!? ナンバーワンだったわけ!?」
真顔で驚く砂羽に対し、
「当たり前じゃん」
しれっとどや顔で答えたのは唯十だった。
「なんであんたが得意げなわけ?」
「トモとその坊やがワンツーだったからだろ?」
空になったビールの缶をクシャリ…と潰す重音は「ビールまだある?」と、右隣の桃子とうこに声を掛け、立ち上がる。

「あ、持ってきます」
そう言って桃子は腰軽く立ち上がり、冷蔵庫に向かった。
「あぁさんきゅ」

「じゃぁ、ふたりがいなくなったらお店は大変ね」
素直に感心しつつも皮肉る砂羽に、
「だから辞める時、もうホスト業界では『働かない』って誓約書書かされたんです」
おもしろがって大げさに話す唯十。
「そんな!? よくやめられたわね」
「男の旬は華の命と同じくらい儚いんですよ、おねぇさん」
「いちいち棘があるわね」

「興味がない相手に割く時間がないってことは、こいつらにはその価値があったわけだ」
目立つところにあっても、いちばん触れてはいけない地雷を「お手柄」とばかりに踏みつけてくる重音の態度に、
「こいつらって言い方は聞き捨てならないわね」
砂羽は釘を刺すつもりで割って入った。

「まぁ。そう、なるか」
そんな皮肉にも慣れているのか、ケンカを買うでもなく含み笑いで受ける友也。
「へぇ…珍しいこともあるもんだ」
意外にも重音はそれを笑顔でスルーした。
重音の性格を知る砂羽は内心ハラハラしていたが、数年会わない間に「大人になった」ようだと、ホッとして視線を外した。

「また行くんですか? 街コン」
まるでジム通いでもするかのような唯十の質問に、
「もう、ごちそうさん」
と砂羽が答え、
「当分はいいかな~」
と雅水が答えた。

「じゃぁそっちも、こいつらで手を打つわけだ」
「そういうことじゃなくて。当分そういう出会いはいいかなって。思ったほど理想の相手には出会えないものね」
小さなため息とともに力なく腕組みをし、雅水はソファにもたれかかった。


2.party   4.heartbreak


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