チューリップ紫

連載『オスカルな女たち』

《 真実を語る 》・・・5

「さて、と。これから診察なんで…これで失礼します」
 文化ちりとりを引き上げ軽く会釈し、まるで自分はこの会話をするために彼女を待っていたかのような退散に敗北感を感じながら、真実(まこと)はその場の空気を惜し気なく断ち切った。
「えぇ、また…」
 背中に投げかけられる濃子の声に、おそらく彼女と会話をするのはこれが最後だろう…と、そう確信しながらその場を後にする。
(はい、さようなら…)
「しっかし…」

 染まってしまえばいいのに・・・・   

(だと? すごいこと言うな…)
 軽くかぶりを振り、耳に残った言葉を振り払ってから院に入った。

「これから来客だから、緊急事態以外は電話つながないで…」
 頭の後ろで腕を組みながら受付の前で歩を緩める。
 中途半端に下ろされたシャッターの向こうに声を掛けると、電卓を打つ手が止み「はい」とだけ返ってきた。
「それと、操(みさお)先生は腰痛で午後出だからそのつもりで…」
 このところ天候が不安定なせいか、肌寒い朝は決まって調子を崩すようになった。
 歳を理由に娘に甘えているだけかもしれないが、冬になったら更にそんな日が増えるだろうかと、勤務体制について考えざるを得ない。

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです