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恋愛体質:étude

『カフェテラス』


2.cause

「バイト? 式場? ロビコン? あたし知らないけど」
同じ弦楽専攻の藍禾あいかは、和音かずねと一緒に結婚式場やホテルのロビーで室内楽のアルバイトをしている。
「式場で会ったわけ? おじさんしかいないって言ってたじゃな~い」
管楽専攻の結子ゆうこは蚊帳の外だ。
「式場じゃなくて、そのあとよ」
「そのあと!?」

和音は大きく息を吐き、
「藍禾が都合が悪くてこれなかった日があったじゃない?」
「あぁ。あったかもね」
「あの日、おじさんたちに誘われて飲み会に行ったのよ」
「へぇ。よく付き合ったね」
「やだ、和音こわい~」
「だって、回らないお寿司食べさせてくれるって言うし、中途半端な時間で迎えも頼めなかったから」
「あぁ回らないヤツなら仕方ない」
「色気より食い気なのね」
想定内だけど…と、ストローに口をつける結子。

「ひれ酒っていうの? 言われるままに調子に乗って飲みすぎちゃって、おじさんたちとバイバイしたあとダウンしてるところを助けてもらったの」
「へぇ~。そんな都合のいい出会いあるの?」
半信半疑の結子に、
「ホントはおじさんだったんじゃないの?」
と、からかう藍禾。
「冗談でもやめてよ」
「ごめん、ごめん。それで?」

「店の真ん前にいたから…邪魔にされたというか」
「店の真ん前。ホストの?」
「そう」
「作戦?」
「んなわけっ」

「じゃぁ酔っぱらいの和音を解放してくれたのが、ホストの…なんてったっけ彼…」
名前を思い出そうとする結子。
「ユウヤ!…酔っぱらいって」
「そう、ユウヤね。まぁそういうことよ」
「それで?」
名前なんかは「どうでもいい」と、先を急ぐ藍禾。
「それで、そのあとお礼にお店に行ったらいなくて」
「会えなかったの?」

「あんたたち、双子!?」
「そんなのはいいから」
「それでどうしたのよ」
「彼を知ってる人捕まえて、結局は会えたんだけど。会ってみたら兄貴の知り合いだった」
途端にばつが悪くなる。
「兄貴?」
「じゃぁ、都合いいじゃなぁい。取り持ってもらえば」
身内が出て来たことで途端に興味をなくす結子。
「だから。それでなかなか会えなくなっちゃったんだってば」
和音は「うんざり」といった表情を浮かべる。

「会わないの? 会えないの?」
「どっちもよ、多分」
「え~」

「仕事が忙しいから?」
「振られちゃったの?」

「はぁ…」
再び重なるふたりの声に、和音は大きくため息で返す。
「そもそも兄貴の知り合いって時点で、あたしを相手にはしない」
「なんで? お兄さん怖いの?」
アイスカフェモカを持ってきた店員に「わたしもおなじものを」と声を掛ける結子に「めんどくさいの」と和音が畳みかける。
「めんどくさい?」
「そう。兄貴がめんどくさいこというから。だから相手も『だったらつきあわなくていい』ってなるでしょーよ。兄貴の友だちは兄貴の性格知ってるから」

「あんたの兄貴、兄よりの親父さんだもんねー」
藍禾はからかうように目配せし「そうなの?」と問う結子に、
「そうなの。和音んちはさ、両親より兄貴の一声!…だもんねー」
と、1、2度見掛けた程度の兄の印象を伝える。

「へぇ~頼もしいじゃない」
「頼もしいことなんかないわよ」
頭を抱えて見せる和音には、今一番の悩みの種なのだ。

「そんなこと言ったって、デートについてくるわけじゃないでしょ。え、ついてくるの?」
「さすがにそれはないけど」
「ならいいじゃない。いいお兄さん」
身内が味方なら「取り持ってもらえる」と単純に考える結子に、
「いいお兄さんじゃなくて、お父さんだから。対応が」
藍禾は「ムリムリ」と首を振る。

「そう、くちうるさ…あ! 今何時?」
「もうすぐ4時」
「まっずい。あたし行くね」
音を立てて立ち上がり、テーブルの上の私物をかき集める。
「どうしたー?」

「その口うるさい、、、、、兄貴が迎えに来るのよ。ちょっとでも遅れたらマジで置いてかれる」
そういうと、椅子に掛けてあったリュックを背負い、隣の椅子に立てかけてあったバイオリンケースを手に「あとで連絡するね」と早口に述べてその場を駆け出した。

「ぁうん。気をつけて」
「慌てると転ぶわよー」
忙しなく駆け出していく和音の背中に、聞こえてはいないだろう声を掛け、顔を見合わせる藍禾と結子だった。



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