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【ショートショート】『クリスマスカラス』

ドアチャイムが鳴った。スコープを覗く。マスクをしていても横顔でもすぐに君だとわかった。

「やあ」

ドアを開けるとドクターマーチンのブーツからレザージャケット、キャップで覆われた頭のてっぺんまでブラックな君がいた。

「メリークリスマス」

二コリともせず君はいった。

やっとその夜がクリスマスイブであることに気が付く。
「相変わらず真っ黒なんだね。こんな日も」
「カラスの勝手でしょ」

キャップのバイザーに少し残っていた雪が融けて水滴になる。
「寒いから入れてよ」

「やだよ」

好きな人が出来たからとフラれたのは僕の方で、もう半年も前のことだ。

「そう」

いつだって悲しい顔を見るのは辛い。

「さよなら」

君は持っていた包みを差し出す。反射的に受け取る。足早に立ち去る君。

包みを開くと真っ白なクリームのホントに小さなホールケーキ。蝋燭が三本。

日付が替わると君の誕生日だったね。

ばかだね。こんな日のたった一人に僕を選んじゃだめだよ。

人々が祝うこの日なのに。
  
 

(410文字)


* * *

以上、こちらからお題をいただきました。

 
 
 

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