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2022年に読んだ本ほぼ全てについて感想を書きます

私が2022年に読んだ本をまとめます。
そんなにたくさん読んだわけではないので、思い出せる範囲で全ての本について個人的な感想を書いていきます。

技術書

職業エンジニアなので技術書は多少読むが、日常的に読んでいるわけではなくてふと思い立った時に読むくらいである。技術書は実務に直結していそうで意外とドンピシャに明日から使える内容ばかりが載っているわけではないので、本で読んだことをどう活かすか(もっと言えば実務に活かせる本をどう選び取るか)まで含めると読書のプロセスは長い。「本を読むだけで何もしない人」になるくらいならネットで技術ブログでも読んで手を動かす方がよっぽど良い。

施策デザインのための機械学習入門

「性能の良い機械学習モデルはできたが売り上げには繋がらなかった」という悲劇を防ぐために、ビジネスKPIから機械学習のモデルと評価関数をどのように設計すればいいかについて書かれた本。特に、自覚がないまま抱えてしまうKPIとのずれをなくすため、どうやってモデルのバイアスを取り除くかに焦点が当てられている。

「機械学習をちゃんとビジネスに適用する」という目標に真正面から取り組んだような本で、自身の普段のプロジェクトを振り返ると心が痛んだ人も多いのではないかと思う。ただ、逆にいうと、このテクニックをそのまま自分の(複雑な要素がさまざま絡んだ)業務に適用できる人は多くないと思う。特に、今回っているモデルが幸運にもビジネス価値を生み出せている状況では、それを再度"大真面目に"考え直すことは簡単ではないはずで、そこまで考え抜くのであればかなり読み応えのある一冊だと思う。

推薦システム実践入門

かなり基礎的な部分から始まり、色々な機械学習モデルや評価方法に関して、推薦ならではの気をつけるべきポイントを押さえながら説明してある。特にモデル構造の説明に関しては、最先端ではないものの長く使われていて未だに効果的な協調フィルタリングやFactorization Machine、Neuralなembeddingを使ったモデルの解説までしっかりと触れられている。

また、推薦におけて明らかに大きな影響を持つがロジックに関係しないので語られることの少ないUI/UXの役割についても踏み込んで解説している点も良かった。推薦に取り組む最初の一冊としてかなりおすすめできると同時に、仕事で推薦システムをやっている身としても学べることは多くあり、推薦に関わる人は読んで損はない一冊だと思う。

統計学実践ワークブック

これは統計検定準一級に向けて読んだ参考書なので正確にはこのリストに含めるべきではないかもしれないが一応入れておいた。統計検定の受験やこの本に関する詳しいレビューについては過去の記事「統計検定に合格できるかどうかを統計的に検定してみた」を参照してほしい。

統計検定の受験勉強に使うには申し分ない本だが、いかんせん受験参考書という感じで統計学の深淵に触れていく感じの内容ではないため、純粋に統計の勉強をしたい人には特におすすめしない。

実践Rustプログラミング入門

流行りのRustに関する書籍は巷に溢れているものの、こちらは良書としておすすめされているのをよく見かけたので購入。プログラミング言語の機能紹介チュートリアルではなく、実際に何か作って動かしてみようという方に主眼が置かれていたので自分の好みに合っていた。特にRustを使ったRest API, Wasm, 組み込みRustなど、話には聞くからとりあえず触ってみたい感じのトピックがざっくり全部含まれているのも嬉しいポイント。

ところで、誰かが「Rust触ってみたいなと思って本を買って読むけどそこから何か作ることもなく、仕事でも使わないのでしばらくしたら忘れて、また別の入門書を買って読むのを繰り返してる」と言っていたが、自分もまさにそのパターンで、これを読んで以降特に何もしていない。興味本位でRustを学ぶ人にとっては(Rustに限らずなんでも)そこが永遠の課題になりそう。個人的には重い処理を裏でRustでやるWebアプリをWasmで作るのが初手として一番良いのかなと思っている(思っているだけ…)。

ソフトウェアテストの教科書

テスト技法としてカバレッジなどの話から始まり、デシジョンテーブルテストや状態遷移テストなど、「膨大なテストケースの中からどう適切にテストケースを選定するか」という部分に主に焦点が当たった本。後半はテストドキュメントの書き方などに話が移って、どちらかというと応用情報試験のテキストに載ってそうな内容という印象を受けた。

逆に言うと、自動テストの書き方やCIに関するベストプラクティスはほとんど触れられていなかったので、その辺りを期待した自分にはハマらなかった。

Googleのソフトウェアエンジニアリング

「プログラミング=コードを書く営み」、「エンジニアリング=長期にわたってコードを維持改善していく取り組み(すなわちプログラミングの時間微分)」と捉えて、Googleにおけるエンジニアリングについて語られた本。現代のエンジニアリングのベストプラクティスを紹介するというより、大規模かつ長い歴史を持つGoogleのコードをいかに維持改善してきたかという努力の歴史が書いてある印象だった。Googleの社内ツールの説明や、典型的なアンチパターンの紹介などもあって知識のインプットにも使える。

良書としてよく紹介されているものの、あまりの分厚さに挫折する人が多いと思う。逆に言えば、読み切るだけで何か壁を超えたような達成感があるので挑戦してみることをおすすめする。ちなみに、これだけ厚いと後から読み返すのも大変なので、私は気になった部分に直接マーカーで線を引きながら読み、検索性を上げるようにした。

ビジネス書

これからビジネス書を紹介する人間が言うことではないが、基本的にビジネス書を読んでもあまり大した学びを得られないと思っている。具体的・実践的なスキルに焦点を当てた本は例外として、大抵のビジネス書は心構えとかコミュニケーションスキルとか、多くの人に普遍的に当てはまる内容に焦点を当て過ぎていて、結果的にぼんやりとしたことしかわからない。なおかつそういう内容は大抵字面を追うだけではなく実際に自分で苦労して経験してこそ身に染みて分かるものなので、本を読んでも仕方がなかったりする。趣味として話半分に読むくらいがちょうどいい気がする。

採用基準

採用基準というタイトルなのでHR関連の話かと思いきやリーダーシップに関する本だった。「リーダーになりたいなら平社員の時からリーダーとして振る舞わなければならない」が主要なメッセージで、別の言い方をすればいわゆる当事者意識である。リーダーになるには自分がリーダーとなる環境に強制的に身を置くというのも手だが、ある程度大きい組織にいる場合はリーダーの枠も限られているためそのような戦略は取りづらい。でも組織の平社員として平社員なりに働き、組織改変などの数少ないチャンスを待っているだけの戦略ではなかなかチャンスを掴めない。そういう状況にいる人に向けた本ではないかと思う。

文章の書き方には独特の癖があり、なんとなくコンサルスタイルを礼賛するような雰囲気があって最初は苦手だったが、それを差し引いても色々な気づきを得られて読んで損はない本だと思う。

生産性

上の採用基準と同じ著者の本。採用基準は平社員に向けた本だ(と私は思った)が、こちらはむしろマネージャーなどチームを率いる側の人に対して、どうすればチームの生産性を向上させられるかにフォーカスしている。「数年に一度レベルの天才的なポテンシャルを持つメンバー」「上位20%くらいの優秀なメンバー」「出世ルートから外れてモチベーションを失った中堅メンバー」に対してそれぞれどういうアプローチを取れば良いのかなど、かなり具体的に書いてあって面白い。

また著者は、「生産性とは成果物を労働量で割ったものであり、いたずらに労働時間を長く取るのは悪」という立場を取っている。現代では一周回って「ワークライフバランスなんて考えず若いうちは命をすり減らして働いて圧倒的成長するのが正義」というコンサルやベンチャー界隈の労働スタイルが学生の支持を集めている気がするが、そこに一石を投じるロジックになるかもしれないと思ったりした。

ジョブ理論

顧客の困っていることや叶えたいことを「ジョブ」、そのために製品が購入されることを「雇用」と呼び、製品を生み出す際には顧客のジョブにフォーカスすべきという内容。イシューから始めよの「イシュー」と近い意味だと思う。どちらかというと統計的な指標よりもむしろ「顧客がその商品を買うに至るまでの個別のストーリー」に着目することでジョブを発見できるということだった。例えばユーザーがある商品を本来の意図とは違う形で使っている場合にもジョブ発見のヒントがあるらしい(これはなんとなくGoogle SWE本の「Hyrumの法則」を想起させる)。

また、多くの企業は最初はうまく顧客のジョブを解決する製品を生み出すことで成功するが、しばらくすると測定可能な目先の指標を改善することに捉われて停滞してしまうという話はかなり納得感があった。そのため組織構造自体の中心にジョブを据える必要がある(これはプロダクトの構造は組織の構造がそのまま反映されがちという「Conwayの法則」に似ている)が、これを維持するのは不断の努力が必要だなあと。

INSPIRED

プロダクトマネージャー(いわゆるPdM)がいかにあるべきかという本。より具体的には、「どういうプロダクトを作るか」に対して責任を追っているPdMは、どうやって作るべきプロダクトを発見すればいいかについて書かれている。最も避けるべきなのは直感だけでプロダクトをスタートさせて出戻りが発生したり顧客に刺さらなかったりするケースだが、成功を簡単かつ確実に計測する方法はないので、結局市場調査やテスト導入などを高速で繰り返すしかないという話だった。

また、製品開発のなるべく初期の段階からデザイナー、エンジニアを交えるべきという主張もかなり納得感があった。エンジニアが製品発見にがっつり参加するのは言うほど簡単ではないが、良いものを作る上では避けては通れない道のように感じる。

エッセンシャル思考

人生で色々なことを引き受けすぎる/やりすぎる/抱えすぎると本質的なことに取り組んだり考えたりす時間が少なくなるので、真にやりたいことを見極めて思考をクリアに保つべきという本。現代は断捨離の概念が浸透しているようにそんなことは誰でも知っているのだが、皆実践できていないから今こうなっているわけで、この本では先人たちのエピソードを踏まえつついかにしてエッセンシャル思考を実現するか(本質的なものの見極め方、不要なものの捨て方など)について色なTipsが書かれているので、それぞれ参考にできるものが見つかるのではないかと思う。

この本にも書かれているが、最近はマインドフルネスといって、心に余裕を持って自分を見つめ直すことが重要だとよく言われる。「我々が普段から抱えている色々なことのうち、本質的に重要なことは数えるほどしかない」というマインドを持ち、日々の雑務に忙殺されることなく1日のどこかに穏やかな気持ちで考えを巡らす時間を作ることが必要なんだろうと思わされる(そうしなければおそらく真の生産性や真のジョブ理論を発見することもできない)。

ナヴァル・ラヴィカント

この本の内容は「富をいかに構築するか」と「幸せとは何か」の2ブロックに分かれていて、「シリコンバレー思想家」といいつつ生き方全般に関する本という感じ。「富は複利で増えるので労働を切り売りせず放っておいても稼げるシステムを作るべき」「我々は世界のエントロピーを小さくするために生きている」など、興味深い主張がいくつかあった。

特に幸せに関する部分でNavalさんは東洋哲学の思想に影響を受けており、世の中の変化や現象を受け入れて常に自然体でいることこそが幸せであると述べている。個人的には、若いうちは大きな夢を追いかけて心を揺さぶるような経験をした方がいいのではという立場なのでその点完全には共感できなかった。しかし、心の平穏を得るための手法として挙げられていた「瞑想」は、いわゆるマウンドフルネス実践の典型例としてその効果をちらほら聞く(ダルビッシュ選手も瞑想を取り入れているらしい)ので、自分もトライしてみたくなってきた。

その他

ナナメの夕暮れ

オードリーのラジオを聴き始めてから、若林さんの本は「社会人大学人見知り学部 卒業見込」「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」と読んで3冊目になる。こちらは連載をまとめたコラム集のような感じで、ドラマチックな展開はないものの最後まで一気に読んでしまう面白さがある。特に、あれだけテレビで売れている有名人であるにも関わらず、いつまでも徹底的に弱者の味方だと思わせてくれるような語り方が読者を(視聴者を)惹きつけている気がする。ただ、個人的にはキューバの本の方が長編がゆえに若林さんの考え方が強く見えておもしろかったのでぜひ今後も長編を書いてほしい。

フォン・ノイマンの哲学

コンピュータ、原子爆弾、ゲーム理論などを生み出したフォンノイマンの伝記。タイトルには哲学とか悪魔といったフレーズが入っているが、基本的には王道の伝記として楽しめる。あらゆる分野に才能を発揮したがそれは主に天才的な数学能力に由来するものだったこと、実は人当たりがよく周りとのコミュニケーションも上手だったことなどが意外だった。Wikipediaで有名人の来歴を読んだりするのが好きな人にはおすすめしたい。

約束の地

オバマ元大統領が生まれてから大統領を終えるまでのストーリーが本人によって語られた一冊。オバマ氏が大統領になった当時私はまだ中学生だったのであまりわかっていなかったが、アメリカで黒人が大統領になることの意味の大きさを改めて感じさせる一冊だった(以前に読んだアメリカ黒人の歴史という本も興味深かったのでおすすめ)。また、バイデン氏が副大統領として登場するため、現大統領のバックグラウンドも垣間見ることができる。

なお、全体的にちょっと記述が冗長なので上巻を読むので疲れてしまって実はまだ下巻を読んでいない…

よくわかる音楽理論の教科書

私は大学時代にオーケストラサークルとアカペラサークルに所属していて今も趣味でたまに音楽演奏をしている。しかし、これまで全く音楽理論を勉強せず雰囲気でやっていたため、少しは音楽を勉強しようと思い腰を上げて買った一冊。

とっつきやすそうな表紙の印象に違わず読みやすい内容だが、完全に初歩的な内容かというとそうでもなく、対位法、和声、コード理論、ジャズ理論と内容は濃い。一度に全て理解するのは厳しいので何度も読み返す必要がありそう。いや、本を読むよりむしろ、理論を意識しつつたくさんの音楽を聴いていく必要がありそう。

このシリーズは他にも作曲や編曲などにフォーカスした本もあるのでそちらも読んでみたい。今年は自分で簡単なアレンジができるようになるのが目標。

坊ちゃん(集英社文庫)

5月に松山旅行をした後つい空港で買ってしまった本。松山では「坊ちゃん団子」「坊っちゃん列車」など至る所で夏目漱石がプッシュされていたので読まずにはいられなかった。ただ中身を読んでみると、東京から教師として赴任してきた主人公が「松山は未開の地」「早く東京へ帰りたい」などと言っていて、松山の人はこれでいいのかちょっと不安になった。

松山に行く際はぜひ、「坊ちゃん」と「坂の上の雲」を読んで、道後温泉に入りながら歴史に思いを馳せてほしい。

レ・ミゼラブル(角川文庫)

小学生の頃にレミゼラブルを読んだことがあったが、内容をほとんど忘れていたのでふと思い立って読んでみた。書店でレミゼラブルを探すと文庫本5冊組くらいのものもあるが、角川文庫から出版されているこちらは冗長でストーリーに関係ない部分を削って上下巻にまとめられている。この長さでも個人的には全く違和感がなかった(これでも十分過ぎるくらいたっぷりある)ので、全てくまなく読みたい方以外は手軽に読み切れるこちらを強くおすすめする。内容に関しては今更何も言うことはない名著。

二年間の休暇(岩波少年文庫)

こちらもレミゼラブルと同じく小学生の頃に読んで以来また読み直したくなった本。1888年に書かれて以降長く読み継がれる名著だが、超メジャーというわけではないため書店にあまり並んでおらず、新宿紀伊国屋書店の児童書コーナーで買ってきた。

手違いで漂流して無人島にたどり着いた15人の少年たちが、島で生き延びる方法を考えつつ故郷への帰還を目指すストーリー。これ以前に書かれたロビンソンクルーソーなどの流れを汲んでいるものの、少年だけで無人島生活を生き抜いていく点がユニーク。全体を通してさすがに"古さ"を感じなくもないが、何もなかったところから徐々に生活範囲を広げて島を開拓していく様は夢があるので、鉄腕DASHのDASH島とかが好きな人は読んでみていいかもしれない。

まとめ

個人的Best3はこちらです。僕が今さら言わなくてもいい3冊になりました。Google SWE本に関しては単に時間をかけて読んだ達成感のせいかもしれません。

  • 採用基準

  • Googleのソフトウェアエンジニアリング

  • 施策デザインのための機械学習入門

「本はとりあえずたくさん読むのが正義」とNaval本にも書いてあったので、来年も継続的に読みたいと思います。   


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