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海外大学院 ランドスケープ専攻 1年目を終えての振り返り:前編

カリキュラムの折り返しを迎えて

こんにちは。エストニアの大学院でランドスケープを専攻しています。今は2年間の課程の丁度半分、修士1年を終えて夏休みに入ったところです。この1年で様々な授業(9割は必修)を受けてきて、自分自身で「ランドスケープ」という言葉の解釈の仕方にはだいぶ幅があるなぁと感じました。その感想を自分の内だけに留めて置くといつか忘れそうだし、ランドスケープで扱う内容について気になる人もいるかなぁと思うので記憶がおぼろげになってしまう前に文章にしてみようと思います。

個々の授業の内容に触れる前に、カリキュラム全体としての感想を。
想像以上に必修授業が多くて毎日何かしらの課題に追われていました。エストニアの大学院が全体的にそうなのか、私の通っている大学院のこの専攻だけのことなのかはわかりません。卒業には必修含めて120ECTを取ることが必要で1セメスターで大体30ECTを取るように推奨されています。ですが、秋学期は必修授業だけで31ECTと、推奨を上回る量の単位数を修めることが義務付けられていました。そのため月から金までなにかしら授業が入っていて曜日によっては3つ授業が入っている日もありました。しかも1個1個が重い。

私は日本の大学を卒業後、半年だけ日本の大学院にいたのですが、その時のスケジュールといえば週に5つほどの授業と研究室の定期ミーティングで、授業なしの日が1日くらい平日にあるようなゆるっとした1週間でした。一般的な日本の大学院生のスケジュールを私は知りませんが、自身の日本での院生経験とエストニアでの院生生活を比較してみると学校の活動だけでいっぱいいっぱいになるのはエストニアの方で、学ぶ機会や内容も充実しているのもエストニアの方だという印象を受けました。もちろんこれには母語でない環境で勉強していることや学部でやっていたことから若干路線変更したから受け取る情報量が多いということも関係しているとは思います。

総評としてはこんな感じです。

受けた授業が多いのでそれに比例してnoteも長くなると思ういます。なのでまずは修士1年、22-23の秋学期の振り返りから行きたいと思います。

22-23秋学期の授業(この学期は全て必修)

理論を学ぶことがメインのクラス

Basics of Environmental Psychology
その名の通り、自然物や人工物によって作られる環境が人間心理に与える影響を学ぶクラス。例を出すと、木の下にいるとだだっ広い芝生の上にいるより安心した経験だったり、入ってみたくなる不思議な魅力のある小道に出会った経験ってありません?そういうなんとなーく感じていることや経験したことを研究を根拠として教えてくれる授業だった。身近な体験と結びついている内容だからスーッと頭に入ってくるし記憶にも残るし面白かった。
最終評価はテスト。

Landscape Architecture as a Contemporary Cultural Practice
ランドスケープとは何ぞやということを先生の解釈を加えながら理解していく授業。先生の話し方も授業資料も哲学的でまあまあ理解に苦しんだ。端的にわかったことをまとめると、ランドスケープは複数のレイヤーが重なってできるもので、庭や建物の外構だけでなく扱う範囲は建築と重なる部分も多くあるってこと。この授業の理解度は半分くらいだと思う。他のクラスメイトに聞いても「むずかしい」「これは哲学」「参考文献も哲学書かと思った」などの意見をいただいた。
評価は授業内にしたミニプレゼン+2000字くらいの自分でテーマ決めたランドスケープに関するエッセイ。

Planning Theory
個人的に一番しんどい授業だった。Planningと授業名に名の付く通り、都市計画やそれに関連することについて指定された資料や本を授業前にいくつも読んできてディスカッション(3時間ある🥲)するという形式。エストニア語でやるクラスと英語でやるクラスに分かれていて、英語クラスにはエストニア外から来てる正規学生が5人しかいないからできる子に隠れて発言しないということが不可能でもう毎回必死に出されたもの読んでた。
さらにしんどいのが、都市やまちづくりに関する難しい思想やシステムだけなら頑張って読んだらなんとかできるというのに、まぁ頭のえぇ学者さんは経済学や西洋の哲学的思想の話を都市と絡めて書いちゃうの。そしたらもうアジアの端っこ島国出身女はついていけなくなるわけ。建築学科で学んだことなんて徹夜で設計して周りと競って心をボロボロにする方法くらいで、アカデミックな話なんて(先生はしてたのかもしれないけど)必要となる場面が少なかったの!
もうね、多分私が学部で建築やってなかったらミリも理解できなくて鬱になってたと思う。都市計画については勉強したけど、改めて日本でやってた勉強の浅さを思い知ったし、知識不足と新しい知識を解釈してディスカッションレベルにまで持っていく力のなさを思い知って打ちのめされた。この授業のせいで木曜日だけ毎週異常にテンション低かった。二度とやりたくないけど少人数過ぎたおかげで「とりあえず何かしら発言する。じゃなきゃ日本みたいに議論を回してくれるファシリテーターいないから地蔵になる。」っていう心構えが身に付いた。
評価は授業内の発言と、都市計画について自分でテーマ決めてエッセイ13ページくらい+8分くらいでそれのプレゼンだった。

Sustainable Environmental Engineering
持続可能な環境工学。そのまま。建築環境をよりサステナブルにするには、とか自然物を使って環境の向上を試みた事例を紹介、とかそんな感じ。難しいことはなかったけど新しい知識に出会えたりへ~こういうのあるんだ~ってのを知ったからアイデアの貯蓄になった。デザインコンセプトの引き出しが増えた感じ。
最終評価はペーパーテスト一発。

手を動かすことがメインのクラス

Advanced Presentation Graphics
Illustrator、Photoshop、CAD等を使って綺麗なパースや着色図面の作成方法、グラフィックの基礎を学ぶクラス。

課題は大きく2つ
①好きな図面表現のコピーキャット課題
②テーマに沿ってポスター作成 

①はネットやPinterestから平面図、立面図or断面図、パースの3枚をかき集めてきて、それをコピーキャットつまり同じものを作る課題です。フォトショとイラレの能力の向上には役だったと思う。でもパース作成に関しては3DCAD→レンダリングで最終的にフォトショ調整が主だった建築出身女にとては、ゼロからフォトショでコラージュして作る小規模ランドスケープのパース作成はかなりしんどかった。
②は、来年タルトゥが欧州文化都市となるのでそれのテーマに沿ったポスターを作るというもの。グラフィック的な指導はあまりなくて個々のセンスに任された部分が大きかったから最終的な評価は先生の好みがかなりあったと思う。でも完成品のポスターにクラスの子たちのカラーやデザインセンスが見えて面白かった。
最終評価は①と②の成果物の出来で。

理論と実践が半々のクラス

Artificial Water Bodies in the Landscape
人工水域と名前はついているけど、ランドスケープに関わる水についてのクラス。ランドスケープの先生じゃなくて大学内の違う専攻にいる教授(物理工学やった気がする)が担当してた。メインは噴水の設計や種類とか仕組みとかそれに関わる数学と物理について。理系出身なら難しいことは何もない。
最終課題は与えられた敷地に噴水の設計して各種図面とパース、選択部品を使った際の計算過程と結果を1枚のシートにして提出。噴水の設計はさすがにやったことなかったけど自分の設計について疑問があれば相談いくらでもできる。
先生は感じ良いし、最終課題の計算についての質問も聞いたらほぼ全部教えてくれるし楽しかった。

Outdoor Recreational Planning and Design
秋学期のメイン。他のクラスの3倍以上の単位数(11ECT)がこのクラスに割り振られていたくらい重要度が高かった。午後1時スタートで5時終わりのクラスだったから毎回授業終わりはくたくたになってた記憶。
今年はエストニア南部に流れる川、Emajõgiエマヨギ(全長約100km)の半径2.5kmを対象エリアとして授業が進んでいった。

授業は4段階構成
①4つのテーマから好きなものを選んでデスクリサーチ(グループワーク)
②対象エリアをLCA(Landscape Character Assessment)する。(グループワーク)
③LCAをもとにエリアごとの変化(人間の介入)に対する許容度、繊細さ、適正を評価する。(グループワーク)
④広大な対象エリアから自分で好きな場所を選んでアクティビティの提案と設計(個人作業)

①は自然環境 / 歴史・文化 / インフラ・施設 / 観光・アクティビティの4つのテーマから好きなの選んでグループ作ってGISとエストニアが出してる資料を使ってデスクリサーチ。最後はプレゼンと15-20P程度のレポート。成果物は全体でシェアしてこの後の②~④の作業する際に自分で調べてない範囲のことは他のグループのものを参照できるようになってた。
②はLCA。建築出身の私には新概念。作業に取り掛かる前にエマヨギにフィールドリサーチに行った。さすがに超長い川を全部じっくり見ることはできないから、先生がピックアップしたポイントとバスから見える景色の写真の両方を撮っておいた。それから学校でGIS使って等高線の地図とwaterbodies(これなんて日本語訳したらいいのかいまだにわかんない)、土地利用情報、オルソフォトを地図に重ね合わせてA1にでっかく印刷。フィールドリサーチで見たものとGISデータ、①の結果を総合して対象エリアを特徴でパッチワークみたいに分けていく。これは最後は40Pくらいのレポート+プレゼン。
③は、②でやったことを④に持ってくための経過という感じ。②で作ったキャラクラ―それぞれに変化を与えるとするとき、各キャラクターの変化に対する許容度、繊細さ、適正などを数値化して決めていく。例えば「ここは自然保護区だしcultural heritageもあるからsensitivityが高くてsuitabilityとcapacityは低いなー」(実際は評価基準を作ってあるのでもっと細かい)とかそういうのをちまちまとやる。②でキャラクターを無駄に細かく分けたせいで結構な地獄を見た。これも最後は40Pくらいのレポート+プレゼン。
④でやっと個人作業。人の作業を待たずに自分でぎゅんぎゅん進めていけるからとにかく楽だった。③で変化に対する許容度が高いと判断したエリアからひとつ面白そうなところをピックアップしてそこに適したアウトドアアクティビティの提案と計画をしてプレゼンボードを綺麗に作っていく。建築学生お馴染みの設計課題みたいな部分がここになってやっと出てきた。

敷地選定までの段階で色んな情報が得られるし考えれるんだなーという、設計に対する論理的アプローチの引き出しが増えた。④があんまりうまくいかなかったけど、①~③までの時点で学びはたくさんあった。今まで設計で敷地選定するとき、事前リサーチとして土地の歴史・文化的側面とインフラしか見てなかったから(都会だと土地限られてるしLCAしたところで全部同じになるからそれだけでよかったってのもある)、都会じゃなくて広大な自然の中に設計するときはリサーチの仕方を変える必要があるんだなってことを学んだ。


半期振り返ったけど量多くてまとめるのしんど、、、色々やってたんやな~私。
もし私の学校での成果物、どういうもの作ってるのかの画像ほしい等あればTwitterの方に声かけてください。ポートフォリオもリンク限定公開でネットにあげてるのでそちら教えること出来ると思います。


後編(22-23春学期)もそのうち書きます。秋学期よりも授業数が多かったのでもっと文章量多くなると思う。夏休み中には出せるようにしておきます。

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