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回転運動と併進運動

はるか昔大学生のとき高校生の弟に物理の問題を質問された。
斜面を転がる円筒。慣性モーメント?。。 弟とは教育課程がちがう。わたしは旧課程で物理B、弟は新課程で物理ⅠとⅡ。弟の教科書を開くと、わたしが全く知らないことが書いてあった。$${m\ddot{x}=F}$$に対して $${I\ddot{θ}=N}$$ の世界がある。新鮮だった。
そのときからずっと気になっていた。今回剛体の力学を学習する中で、再びこの世界に出会った。うろ覚え(おぼろ覚え)になっているのでこの機会にまとめてみた。

2種類の運動の対応

                   (・は時間微分を表わす)
  併進運動           回転運動
 $${\bm{r}}$$:位置            $${θ}$$:角
 $${\bm{v}=\bm{\dot{r}}=\bm{ω}✕\bm{r}}$$:速度       $${\bm{ω}=\dot{θ}}$$:角速度
 $${\bm{\dot{v}}=\bm{\ddot{r}}=α}$$:加速度       $${\bm{\dot{ω}}=\ddot{θ}=β}$$:角加速度
 $${v=v_0+αt}$$         $${ω=ω_0+βt}$$
 $${x=v_0t+\dfrac{1}{2}αt^2}$$        $${θ=ω_0t+\dfrac{1}{2}βt^2}$$
 $${v^2=v_0^2+2αx}$$          $${ω^2=ω_0^2+2βθ}$$
 $${M=Σm_k}$$:質量         $${I=Σm_kr^2_k}$$:慣性モーメント
 $${\bm{F}}$$:力            $${\bm{N}=\bm{r}✕\bm{F}}$$:力のモーメント(トルク)
 $${\bm{P}=M\bm{v}=M\bm{\dot{r}}}$$:運動量   $${\bm{L}=I\bm{ω}=I\bm{\dot{θ}}=\bm{r}✕\bm{P}}$$:角運動量 
 $${M\bm{\ddot{r}}=\bm{F}}$$:運動方程式        $${I\bm{\ddot{θ}}=\bm{N}}$$:運動方程式
 $${\bm{\dot{P}}=\bm{F}}$$:  〃         $${\bm{\dot{L}}=\bm{N}}$$:  〃
 $${ΔP=FΔt}$$         $${ΔL=NΔt}$$
 運動量の変化=力積      角運動量の変化=角力積
 $${K=\dfrac{1}{2}m\bm{v^2}}$$:運動エネルギー $${K=\dfrac{1}{2}I\bm{ω^2}}$$:運動エネルギー
 $${\dfrac{dK}{dv}=mv=P}$$       $${\dfrac{dK}{dω}=Iω=L}$$
 エネルギーの変化=仕事
 $${ΔK=FΔx}$$         $${ΔK=NΔθ}$$
 $${\dfrac{dK}{dx}=F}$$          $${\dfrac{dK}{dθ}=N}$$

慣性モーメントの定義

$${I=Σm_ir_i^2 }$$ より$${I}$$はスカラー量であり、$${\bm{L}=I\bm{ω}}$$、$${\bm{N}=I\bm{\ddot{θ}}}$$の比例定数である。また$${\bm{L}、\bm{ω}、\bm{N}}$$は同じ向きのベクトルである。

平行軸の定理

 $${I=I_G+Mr_G^2 }$$
回転軸が重心Gから平行移動(に限る)したときの算出式である。

直交軸の定理

 $${I_z=I_x+I_y}$$
ただし、成り立つのは非常に薄い板のときのみである。

Atwoodの装置

質量$${m_1、m_2}$$の他に滑車まわりの運動方程式を考える。
滑車の慣性モーメントを考慮しないとき($${\bm{I}=0}$$)は$${S_1=S_2}$$である。

斜面を転がる物体の運動

物体が斜面をすべり落ちるとき、斜面との摩擦がなければその加速度は重力$${g}$$の斜面方向の分力$${g\sinθ}$$である。
しかし、もし物体が球または円筒で斜面を転がるときは物体の慣性モーメントを考慮する必要がある。(転がるということは摩擦力も存在する)

斜面方向の加速度は$${\Biggl(\dfrac{1}{1+\dfrac{I}{Ma^2}}\Biggl){g}\sin{θ}}$$となり、併進運動だけ($${g\sin{θ}}$$)の時より小さい。

実体振り子

質量のない糸に吊るされた質点と考えたときは$${T=2π\sqrt{\dfrac{l}{g}}  }$$であるが、振り子を剛体(質点の集まり)として考えると慣性モーメントを考慮して$${T=2π\sqrt{\dfrac{I}{Mgl}}}$$であり、$${l}$$は$${\dfrac{I}{Ml}}$$(相等単振り子の長さ)に置き換わる。

実体振り子に撃力が働く場合

点$${P}$$に撃力を加えたとき、$${PG}$$の延長線上に動かない点$${P\bm{'}}$$が存在する。$${P\bm{'}}$$を$${P}$$に対する撃力の中心と呼ぶが、この関係は逆も成り立つ。すなわり$${P}$$も$${P\bm{'}}$$に対する撃力の中心である。
野球でバットで球を打ち返すときに撃力の中心$${P}$$に当てるようにすれば、回転中心である手$${P\bm{'}}$$に返ってくる力はゼロとなる。

まとめ

全質量が1点に集中すると考えるときは慣性モーメントは考えなくてよい。($${\bm{r}=0なので、I=Σm_ir^2=0}$$)
しかし現実には物体には大きさがあり、質量は物体全体に分布している。
またその分布の様子も一様とは限らない。そして回転運動についても併進運動に相当する力学がある。両者を併せることによって初めて現実の世界を考えることができる。
       〇     〇     〇
大学の力学の教科書では剛体の回転運動は最後の締めくくりとして現れる。弟の時代の物理Ⅱは力学分野を完結したかったのだろう。このときの教育課程はかなり高度なものを目指して、化学でもⅡには$${s、p、d 軌道 やsp^3}$$、$${π軌道}$$、$${S_N反応}$$などの量子化学や有機反応論の触りが出てくる。1、2年生で物理Ⅰを履修したあとは3年生で一部の理系選択者のみが物理Ⅱを履修することが前提のかなり冒険的なものだった。しかし、その後の教育課程ではこれらは姿を消した。内容が高度になり過ぎた反省で理科Ⅰや総合的な学習、ゆとりの時代が訪れる。現在はその反動で再び盛りだくさんの内容になりつつあるが、それでも剛体の回転運動は含まれることはない。まあ、こんな試みもあったということで。

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