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アート作品は鑑賞者を映し出す鏡であること

アート作品を観ながら、ある特定の作品には凄く惹かれるのに別の作品にはそうでもない、そういう体験は美術館での鑑賞の場合はもちろんありますし、ギャラリーである1人の作家の個展で作品を観ている時にも起こります。それが起こるのは、逆に特に惹かれる作品が存在する場合により強く意識されるように思います。

ちょうどそんな体験を先日観た荒木由香里さんの個展『よりよき世界のかけら』で感じたのでどうしてそう思ったのかちょっと考察してみたいと思います。荒木さんの展示は、ハイヒールと日常のものを組み合わせた作品たちとそのハイヒール作品のカラーに合わせた小作品で構成されていました。

荒木さんにとってハイヒールとは以下のような意味があるそうです。

ハイヒールはもともと好きなモチーフでテーマが変わっても度々作品にしてきました。女性性があり美しく力強い点、また女性性関係なく靴の中で最も美しく繊細で狂気性もあり構造も美しく多様である点も魅力があると感じています。
ハイヒール自体、靴の中でも機能性はなく非常時には最も不要であるけれど、美しく力強く時代に合わせて変化し豊かに表現されている事に、美術と相似点があるとより一層気付き、より興味深いモチーフとして作品にしました。

よりよき世界のかけら | Fragments of a Better Worldのステートメントより

私個人の感想としてですが、ハイヒールとは女性にとって、通常モードから、職場やパーティや特別な外出のように戦闘モードに変わるためのアイテムのようなものではないかと思ったりします。男にとってはネクタイでしょうか。戦闘モードの時は外向けの自分であり、通常モードは自宅などでくつろいでいる時の自分です。通常モードの自分こそ本来の自分というわけでもなく、戦闘モードでいる方がより楽しいと感じる人もいるし、通常モードでいる方が楽しいと感じる人もいると思います。実際には100%どちらかだけだと疲れるか飽きたりするので両者の混合の割合が人によって異なっているというのが本当のところでしょうか。


荒木由香里個展 よりよき世界のかけら 展示風景

荒木さんのハイヒールの作品は、戦闘モードのハイヒールに通常モードのアイテムが詰め込まれて成立しているように感じます。その通常モードのアイテムの詰め込み方が、丁度両者のバランスを表現しているようなイメージです。だからどのハイヒール作品が好きかによって潜在的に自分は戦闘モード寄りなのか、通常モード寄りなのかを教えてくれるバロメーターになっているように感じました。

私は通常モードのアイテムが詰まった作品に特に惹かれました。それと通常モードのアイテムを小さく纏めた感じの小作品にも惹かれました。通常モード、つまり日常をもっと楽しく、より楽しみたいという気持ちが強いんだなと改めて思いました。気がつくとそう思い至るまでに随分作品と対話していたことに気づきました。こういう作品と自分との対話の時間を楽しむのもアートの味わい方の1つですね。

<展覧会情報>
荒木由香里個展 よりよき世界のかけら | Fragments of a Better World
会場 アイン ソフ ディスパッチ
会期 2023/09/02(土) 〜 2023/09/23(土)
   13:00〜19:00 木曜休
詳細:


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