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心からわかりあえる人はいますか

Netflix で韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』を昨年末に観ました。とても良いドラマで観ながら色々考えたのですが、特に「孤独である」とはどういうことなのか、そして「人を理解する」とはどういうことなのかについて特に考えさせられました。

ドラマは、サムアンE&Cの部長であるパク・ドンフンが、社長派と専務派の社内の権力争いに巻き込まれることから始まります。ドンフンの元で派遣社員として働くイ・ジアンは借金返済に追われており、ドンフンに間違えて届けられた賄賂の金券を盗んだり、社長に取り入ってドンフンの追い出しに加担し、そのためにドンフンの携帯を使って盗聴を行います。イ・ジアンは金券による返済がうまくいかなかったので、社内のゴミに捨て、結果ドンフンを救うことになります、そのことでドンフンもイ・ジアンのことを気にかけ始めます。一方、イ・ジアンはドンフンを盗聴し続けることで、次第にその人柄に惹かれていきます。

孤独であるということ

パク・ドンフンは、側から見れば大企業の部長だし、妻と子供に恵まれ、家族や近隣の仲間たちも沢山いるし、部下にも慕われています。けれどイ・ジアンの盗聴の先に聞こえてくるのは孤独な人そのものという感じです。実際会社で働いている時のドンフンも自宅や兄弟といる時のドンフンもほとんど笑顔を見せることはありません。兄弟の中では唯一の成功者である自分、弁護士として忙しく働く妻、他の皆に気を遣いながら自分の感情を押し殺して生きているドンフン、こういう風に自分で全てを抱え込んでそれでも頑張らねばという人、いると思います。そんなドンフンを母親は心配して、失業中の兄や実家でゴロゴロしている弟以上に気にかけています。でもドンフンは決して母親にも弱みをみせようとしません。

周りに沢山いる人たちには決して弱さを見せられないドンフンがある時、雪の降る帰り道で道路に寝っ転がるというシーンがあります。盗聴していたイ・ジアンは心配になり近くまで走っていきます。盗聴していたことでドンフンの抱える孤独さをわかりかけていたイ・ジアンの行動ですが、それは彼女自身も孤独を抱えていたからでしょう。

イ・ジアンは、方々から借金を重ねた上で死亡した母親の借金を背負い、さらに耳が不自由で足も悪い祖母の面倒を見ているというドンフンと比べれば劣悪な環境にいます。だから社長側についてドンフンを社外に追放しようという策略を仕掛けた時も、恵まれてぼーっと生きている人は騙されて仕方ないと思っています。借金を背負い、祖母を守らねばならない、そのためには自分だけが頼りで、自分がしっかりしなければいけないと思い詰めているので誰かに弱みをみせることなど考えられないと思っていたようです。この孤独感は自分のような恵まれない者だけが味わっているもので、ドンフンのような恵まれた人間には無縁だろうと思っていたのでしょう。でも盗聴し続ける内にドンフンにも同じように抱えている孤独があるのだということを次第に感じていくのです。

人を理解するということ

ドンフンがイ・ジアンには全部見通されているようだと言っていたのは、ある意味ずっと盗聴されているわけですから当然なんですが、イ・ジアンはそうすることで、決して心の内を誰にも話そうとしないドンフンの最大の理解者になるのです。

一方で、ドンフンもイ・ジアンのことを気にかけ、調べることで彼女の置かれている環境を理解し、祖母への愛(イ・ジアンが月が見たいという祖母をスーパーのカートに乗せて、月を見せに行くシーンが印象的でした)を感じ、彼女は本来心優しい人間であり、それを完全に失っているわけではないと理解し、彼女を徹底的に擁護します。ドンフンは彼女を擁護しているようで実は自分が癒されてもいたのだと感じていたのかもしれません。

ドンフンの「君は俺を救うためにこの町に来たんだな。」という言葉が、イ・ジアンという自分のことを本当にわかっている存在が彼にとってどんなに大事だったかを物語っています。ドンフンの優しさを言葉のニュアンスや態度から理解していったイ・ジアンはドラマ中、ドンフンに「ファイト」と声を掛けるシーンが2度あります。2回目の時は、ドンフンも「ファイト」とイ・ジアンに返します。2人が本当に理解しあっているのだという合図なのだと思いました。

人生のうちで、本当に自分を理解していると感じられる人に出会えることは幸運であり、もし1人でもそういう人に出会えたならば、それだけで人生勝ったようなものなのかもしれません。あなたには心からわかりあえる人がいますか?そう問われているように思いました。

ちょうど去年の暮にドラマをほぼ観終わった頃、主演のパク・ドンフンを演じたイ・ソンギュンの訃報を目にしました。心よりご冥福をお祈り致します。そして素晴らしいドラマを届けてくれてありがとうございました。


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