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少女トラベルミステリ

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「星子ひとり旅シリーズ&幽霊事件シリーズの研究本を出そう」から始まった『少女トラベルミステリ』──『少女』『トラベル』『ミステリ』の視点で少女向けミステリ、少女探偵、女性向けトラ… もっと読む
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少女に気軽な一人旅が届くまで問題7

今回は1952(昭和27)年、日本が独立国に戻る前の話から進めます。日本の経済が復興してきて、既に占領中にもある程度旅行を楽しむ余裕も出てきています。 一人旅を楽しめる余裕が出る前に、まず語らねばならない要素があります。子供達の修学旅行です。実は戦時中もかなりぎりぎりまでは神社への聖地参拝旅行が行われています。修学旅行には神社への参拝に行く訳です。(ちなみにワタシも小学校の修学旅行でも行き先が伊勢志摩だったので伊勢神宮に参拝しています。市内の他の学校では奈良京都だったのです

少女に気軽な一人旅が届くまで問題6

前回、降伏文書に調印されて日本がGHQ占領下になったところで終わりましたが、その話に入る前に旅客機関係の話を挟みたいと思います。 日本で初めて民間定期航空路が開通したのは1922(大正11)年、日本航空輸送研究所が開設した堺──高松線です。堺市の大浜水上飛行場として小松島、高松──松山、大分、白浜などへ向かう路線があったそうです。 日本で一番早く提供された「民間人の乗れる旅客機サービス」です。 1923(大正12)年、朝日新聞社が設立した東西定期航空会が発足。当初は郵便業

少女に気軽な一人旅が届くまで問題5

鉄道連絡船に寄り道しましたが、1926年、とうとう昭和を迎えました。 まずはこの時点での交通についてざっくりと説明します。 青函航路があるので青森──函館間の乗り換えOKです。北海道に鉄道連絡船で行けます。 関門航路があるので下関──門司間の乗り換えOKです。九州に鉄道連絡船で行けます。 宇高航路があるので宇野──高松間の乗り換えOKです。四国に鉄道連絡船で行けます。 関釜航路があるので下関──釜山間の乗り換えOKです。朝鮮に鉄道連絡船で行けます。長春まで行けちゃいます。

少女に気軽な一人旅が届くまで問題4

ここまで来て大変重要なことを忘れているのに気が付きました。 船です。 「鉄道の話じゃなかったの? 船旅の話?」とお思いになるでしょうが、鉄道移動する際の合間にある船移動ターンの話です。 今は九州と本州を繋ぐのも、北海道と本州を繋ぐのもトンネルがあります。四国と本州を繋ぐのも瀬戸大橋があります。それ以前にはそうではなかったというのを完全に失念していました。今は鉄道で行けるのに、当時は鉄道だけでは行けない場所があるのです。 まずは昭和の鉄道状況に入る前に、鉄道連絡船について説

少女を旅に誘った作品問題

今回は割と息抜き回です。あまり論拠はなく、個人の印象で語っています。昭和の鉄道についてはこの後まだ頑張って本を読む予定です。 昔の若い女性が旅に出たい、旅行したいと思うきっかけについてについて考えていました。まだ決して治安もよくなく、ほとんどの人には経済的にも豊かではない時期、少女達はどんなきっかけで「旅に出たい」と考えたのでしょうか。 身の危険があってどこでもいいから逃げ出すというのでもなければ、何の知識もない、存在すら知らない場所に出向こうとは思うはずがないので、何か

少女に気軽な一人旅が届くまで問題3

1912年7月30日、年号は大正になりました。この時点での列車移動についてまずまとめます。前回はちゃんと扱っていなかった部分についてもここである程度まとめます。 注意 2以降のこの記事は鉄道情報が足りていません。追記の告知をせずゴンゴン書き足します。申し訳ありません。 国有鉄道、私鉄がかなり整備されたことで、いろんな場所に行けるようになっています。むしろこの時点で重要な『行けない場所』『ない場所』について説明しておいた方がいいかもしれません。 まず、山手線です。 全くな

少女に気軽な一人旅が届くまで問題2

今回は明治の鉄道についての話題です。 ……と、いきなり言ってもいくつか説明しておかないと理解不能になってしまうので、少し並べておきます。 今回はこんなのあるなーという程度で読み飛ばしてOKです。自習のためにウィキペディア首っ引き状態です。後で解らなくなった人は読み返してください。詳しい人は「あ、門外漢がアンチョコペーパー作ってるな」とあたたかい眼で見守ってやってください。何しろ高校で日本史取ってないレベルなので詳しくなさがすごいです。 注意 2以降のこの記事は鉄道情報が足り

少女に気軽な一人旅が届くまで問題1

半ば忘れられていそうですが、実は『少女トラベルミステリ』は山浦弘靖『星子ひとり旅シリーズ』と風見潤『幽霊事件シリーズ』に関する研究本プロジェクトです。 そのため最近の記事は「少女がトラベルミステリの主人公として成立し、ヒットするまでの流れ」を追いかけています。 今までの記事では『ミステリ』『少女探偵』などについては扱ってきていますが、最大の要素である『トラベル』について扱ってきていませんでした。門外漢ですし、ものすごく大変なので後回しにしていたところがかなりありますが、さす

男女コンビ、カップル探偵問題

今回は割と雑談に近い話です。 注意書き。現在、noteでは埋め込み機能に不具合が出ているようです。不具合が修正された時に修正します。 テキスト記事に埋め込みできるサービス一覧 https://www.help-note.com/hc/ja/articles/360019596133 注意書き終了。 カップル問題──少女探偵について書くに当たって、どうしても避けられないというか大変紛らわしい問題です。「男女カップルだろうが何だろうが、少女が探偵役だったらいいじゃん?」

日本における少年探偵団とナンシー・ドルーの影響力問題

とうとうこの問題に触れざるを得ない回がやってきました。一応両方に触れている記事もリンクしておきます。 いや、あんまりやりたくなかったんですよ。めちゃくちゃ面倒くさいし、既にこんな問題は検証済みの人がちょこちょこいるだろうと思っていたので、その記事、本などを紹介して済ませようかと探していたんですが、残念ながら「全く」見当たりませんでした。全く納得がいきません。 ただ「ない理由」は何となく推測はできます。 少年探偵団とナンシー・ドルーが「どこで売れているか」の違いです。 ナン

【ナンシー・ドルー】作品リスト

キャロリン・キーン『Nancy Drew』シリーズとその翻訳作品リストです。『少女トラベルミステリ』ではナンシー・ドルーのシリーズは原文では改定前のオリジナル版を、翻訳情報については両方取り扱います。 ナンシー・ドルーはものすごく長く続いている単刊のミステリ小説のシリーズです。『少女トラベルミステリ』で時々言及されるナンシー・ドルーを改定前のバージョンに限っているのはいくつかの理由があります。 ナンシー・ドルーの設定に大きなキャラ変更 オリジナル版のナンシーは十六歳で高

少女探偵の源流はそもそもどこなのか問題3

今回はこちらの続き的な記事です。 少女探偵について調べていて、ある程度情報を仕入れていると大きな問題にぶつかりました。「日本の作家が書(描)いた、一番最初に有名になった少女探偵は誰だろう?」という問題です。 必ずしも現時点の少女探偵の源流である必要はありません。一番最初に有名になったのは誰かということです。 これ、実はものすごく大変なんです。有名というのは要するに「そのジャンルのファンでなくても知っている」状態です。そして戦前の少女向け雑誌は「都市部の一定以上経済的に豊か

『ガールガール』がいつ刊行されたのか問題

今まで『ガールガールミステリー』と表記していました山田節子先生、さいとうゆずる先生の少女劇画シリーズですが、どうやら正式名称は『ガールガール』だったようです。マリアナ海溝にダイビングするレベルに勇気を出して『全国貸本新聞』を買って確かめました。 結構高かったんですよ。(値段は訊かないでください……)しかし、せっかく高い本を買ったので多少は元を取りたい訳です。そういう訳で今回は『ガールガール』がいつくらいに刊行されたのか推測する記事です。 全国貸本新聞には毎号いくつか広告が

少女探偵の源流はそもそもどこなのか問題2

以前からずっと考えている問題ですが、これに関してはずっと悩み続けています。 この記事を書いた頃に較べて結構あれこれ本を読んで、ちゃんとした理解はできていないものの、もう少し解像度が上がったように思います。今回はそのへんについて書いていきます。 少女探偵の源流はどこなのか。これは「世界、主に英語圏の」と言えばある程度定まっていると思います。ナンシー・ドルーです。1930年にジュブナイルミステリを多く刊行しているストラッテメイヤー・シンジゲートからキャロリン・キーン『The