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【オチのない話】 月光と電灯

電灯の光が瞬く、その一隅に、小さなアパートの窓がひっそりと光る。窓の中、淡く照らされた部屋の角に、一人の男が座っている。彼の名前も、彼がどこから来たのかも、誰も知らない。彼はただ座って、外を見つめる。外では、月が静かに空を滑り、電灯の下では人々が行き交う。彼らは急ぎ足で、自分たちの小さな生活に追われながら、上を見上げることはない。

男は時々、ペンを手に取り、何か書き始めるが、すぐに筆を止めてしまう。彼の書く物語には始まりもなければ、終わりもない。文字は紙の上で踊るが、結びつかない。彼の心の中には、言葉では表現しきれない思いが渦巻いている。それは月光のように澄み切っていて、電灯のようにちらつく。

毎夜、彼は窓辺に座り、電灯と月光の交差する景色を眺める。彼には、その光が語りかける何かがあるように思える。月光は静かに彼に囁き、電灯は現実の残酷さを告げる。しかし、彼はそのメッセージを解読できずにいる。彼の存在は、この二つの光の間で、ひっそりと揺れ動いている。

ある夜、彼はふと気づく。自分の書く物語にオチはないのではなく、自分自身が物語の中のオチを迎えることがないのだと。彼の人生は、閉ざされたドアのようで、開く鍵を探しても見つからない。彼はただ、電灯と月光が照らす中で、静かに時が過ぎるのを待つだけである。

そして、また一つの夜が来る。電灯がぽつんと消え、月光だけが部屋を照らす。彼はその光に向かって手を伸ばすが、何も掴めない。彼の手は空を切るだけで、彼の心は依然として重く沈んでいる。物語は続くが、結末は来ない。月光は彼に静寂を、電灯は彼に現実を、そして世界は彼に終わりのない探求を与える。それがすべてである。

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