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お詫び

 名古屋公演、広島公演を楽しみにしてくれていた皆様、この度は申し訳ありません。

 Zepp Nagoyaでリハーサルを行った感触から、開演直前まで喉の状態は夜に向けて良くなっていくと考えていました。しかし、3曲目までを歌った段階で、自分の喉からは、どう頑張ってもチケット代をいただいて人に聴かせられるようなレベルの声が出ないと理解しました。その場で楽器チームの責任者とリーダーの喜多君とステージの上で話して、振替公演をお願いしたいと伝え、謝罪しました。

 ツアー時の体調管理は毎度大変に緊張しながら、できる限り健康であるための努力をしているつもりでしたが、札幌公演の数日前から喉に少しの違和感があり、日曜月曜の札幌でのライブを経て夜から咳が増え、火曜日の夕方に発熱しました。名古屋公演当日の午前中には平熱に戻り、新型コロナの簡易検査キットも陰性とのことで、名古屋に向かいました。

 リハーサルは喉を酷使しないようにセーブしつつ、高音域がどこまで出るかのチェックをしました。そのときはやれる感覚が実際にあったんですが、本番を迎える頃には、自分の想像(願望だったのかもしれません)とは裏腹に喉の状態は悪化していまいました。

 中止から一夜明けて、喉を専門的に診察しているクリニックを受診し、今後の活動について相談しました。声帯には傷もポリープもないけれど、声帯の炎症が酷く、21日に無理をして歌った場合には22日はほとんどうなだれるしかない状態になるだろうとのことで、最短でも22日にならなければ歌うことは難しいという診断でした(新型コロナとインフルエンザは陰性でした)。幸いにも、ホールからの公演再開までには1週間以上の時間があり、この期間があれば完全に喉は元に戻るでしょうとのことです(とはいえ、不安でいっぱいです)。

 過去の自分なら、なんとしてでも週末の公演を開催したかもしれません。しかし、「サーフブンガクカマクラ」というアルバムの楽曲を考えると、体調が万全であっても2時間の歌唱にいくらかの緊張感を伴うようなツアーになっています。本当に、ボイトレやボディーメンテナンスを全部しっかりやって、その上で朗らかな精神を保たないととても歌いきれない、みたいなアルバムだと感じています。そして、ここまではそれにおおむね成功していて、非常に演奏が楽しい、とても充実したツアーになっています。

 アーティストのわがままですけれど、なるべくいい状態の演奏を、アジカンを見てほしいと正直に思いました。声が出ないなとステージ上で感じながら、こんなもんじゃないと悔しい気持ちを抱えたままでは、2時間の演奏のうちに身も心も立ち直れないくらいペシャンコになってしまうなと。

 この日にしか機会を持てない人がいることも想像します。どうにかこうにか取れた休みかもしれない、家族や仲間や友人たちとの関係性のなかでこの期間しか実現しない広島への旅行だった人もあるでしょう。申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 2004年から数年の間の僕は、そうした様々な事情を想像するあまり、自分が何らかのヘマをした場合には誰かの生きる希望を奪うのではないかと考え混みすぎて、ほとんどパニックを起こしているような状態になってしまいました。最も売れていたあの時代、ステージに立つまでの時間は緊張とプレッシャーの苦しみでしかなく、気持ちを落ち着けるためにトイレの個室に篭るしかありませんでした。とても苦しかった。

 そうした時間を経て、まずは僕が朗らかに音楽を楽しまなければ、素敵な音楽を鳴らすことができないのだという考えにいたりました。ここ10年くらいのことです。これはかなり大きな発想の転換で、自分の楽しみと観客の楽しみを一体にしていくような、どちらが先でどちらが後なのかもわからないような空気を作り上げることが、自分の演奏上のゆるい目標になっていきました。そうすべき、みたいな自己への強制ではなくて、もうちょっとゆるく、自分も他者も縛らないような演奏上の目標といいますか。しかしながら、そうした目標への確信と決意は、脱力した身体の隅々に、毎度力強くたくわえているつもりです。

 アジカンが生で見れて良かったねだけではなくて(それももちろんライブの楽しみのひとつだけど)、それぞれが自由で、誰もがその人の通りにそこに在ってよく、そうした会場の、みんなが吸ったり吐いたりした空気によって音楽が振動することの喜びを、参加してくれた皆さんと、それぞれに、それぞれの喜びとして味わいたい。その会場の真ん中なのか端っこなのか、ステージの上で、こんなはずじゃなかったと思って演奏するほうが、自分にとっては後悔が大きいと思いました。

 繰り返します。名古屋公演では直接お伝えましたが、あらためて、すみませんでした。MCで中止を告知した後の声援が、恥ずかしさでいっぱいの自分の背中をそっと撫でてくれました。とても嬉かったです。そして、広島公演に参加する予定だった皆さま、申し訳ありません。

 勝手ではありますが、またどこかで一緒に素敵な時間をつくるチャンスがありましたら、とても嬉しいです。僕にとっては幸いにも、スタッフたちが振替公演の準備を進めてくれています。詳細はこのnoteやオフィシャルページでお伝えしますのでしばらくお待ちください。

 長文での申し開き、言い訳と解釈される方がいても仕方ありません。ただ、僕の面倒くさい性格上、こうした文章を自分の言葉で発信しないわけにはいきませんでした。これもまた、僕のエゴです。失った信頼を、どこかのステージの上で取り戻すチャンスが訪れることを祈りつつ、今はしっかり喉と身体を労わりますね。

 いつも応援ありがとうございます。

ASIAN KUNG-FU GENERATION
後藤正文

@jay_hirano_photography
photo by Jay Hirano