水中写真を撮り始める前にやってほしいこと(1/2)#2

あなたは今ダイビングをしていて、
真っ赤なイソバナの脇に
白黒の幼魚を見つけました。
その魚はくねくねとした動きで
せわしなく泳いでいます。
パンダのような模様をした
とても愛らしいその魚の名は
マダラタルミです。

おそらく、
多くの方がすぐさまカメラを向けて
撮り始めてしまうことでしょう。

でも、
ちょっと待ってください。

そうやって撮った写真に
満足ができたことって、
ありましたか?

恥ずかしながら
今回の記事も前回と同様、
カメラの使い方などには
一切触れていません。

先ほどの質問に
「できる」
と回答された方は
きっと、
たくさん練習してきて
すでに技術を習得されている方
だと思います。

そんな方がわざわざ
この先まで読み進める必要は
ありません。

この記事は、水中写真を
始めたばかりの方に向けて
書いたものです。

何を意識しながら練習していけば
上達することができるのか、
大切な心構えが主題です。

それでも構わないよ、
という方には
私が撮り始める前に
必ずやっていることを
ひとつ
ご紹介しようと思います。


それは「観察する」ということです。

もう少し具体的に言うと、
写真を撮り始める前に
魚に対して
どういうアプローチができるか
について考えるということです。

お客様の撮影をアシストする
フォト派インストラクターを
目指している方にも
きっと役に立つ情報でしょう。


①テリトリーの観察
②パターンの観察
③撮影位置の観察

観察するといっても
その対象は
上記のように3つに分かれています。

まずは
テリトリーの観察
から説明します。

撮りたい
と思った被写体を
見つけた際に、
私がまず始めにやること
それは
テリトリーの観察です。

もしかしたら
みなさんが想像された
テリトリーが
私が指しているものと
違うかもしれません。

ソーシャルディスタンス
を想像してもらえればいいです。

そこまで近づいきたら
さすがに嫌ですよ
っていう距離感のことです。

私が考える
魚に対する距離感には
1⃣安全域
2⃣緊張域
3⃣退避域
という
3つの区分があります。

冒頭のマダラタルミは
この3つの区分を
理解するのに
最も適した魚です。



1⃣安全域


その種が持つ
テリトリーの中央
のことです。

ほとんどの被写体は
見つけた時には
このエリアにいて、
なおかつ
リラックスした状態
であることが多いでしょう。

あなたには一切目もくれず
捕食行動に夢中でいられる場所です。

写真を撮るには遠く
たとえそこから撮ったとしても
ごちゃごちゃした背景が
写りこんでしまいます。

ストロボの光が届かないほど
遠くかもしれません。

被写体を見つけてすぐに
写真を撮り始めてしまう方は
ここから撮影しているケースが
大いにあります。

2⃣緊張域


その種が持つ
テリトリーの周縁
のことです。

私は、まず
緊張域の範囲を判別して
この範囲の外縁ぎりぎり
のところで撮るように
心がけます。

それはなぜか。

ためしに、マダラタルミに
少しずつ近づいてみてください。

すると、
離れていくように
泳いでいくので
ある一定の距離より
近づくことは
できなくなるはずです。

ここでさらに
注意して見てほしいのが
マダラタルミの
クネクネとした泳ぎ方です。

始めはゆっくりだったはずが
ある一定の距離を
詰めようとすると
急にクネクネが早くなります。

この時、マダラタルミは
緊張状態にあるわけです。

動きが早すぎて
カメラのオートフォーカスは
追いつきません。

動きが早くなったと思ったら
一歩引いてみてください。

それだけで再び
リラックス状態に
戻ります。

この
緊張とリラックスの境界
となる距離を
カメラの専門用語で
「最短撮影距離」
といいます。


嘘です。


※緊急退避限界線


退避域の説明をする前に
先ほどの、
安全域から緊張域まで
移動したマダラタルミに
さらに近づいてみましょう。

クネクネのスピードが
早くならないような
絶妙な距離を
保ちながら
マダラタルミを
じわりじわりと
追い詰めてみます。

すると
ある一定の位置までいくと
不思議なことに、それ以上
離れていかなくなる場所が
あります。

ここが
その種が持つ
テリトリーの限界
です。

つまり緊張域の限界である
この境界を超えて
退避域に入ると
慌てて退避行動を
取るようになります。

緊急退避限界線とでも
名付けたいその境目の手前では
マダラタルミは
ゆっくりとした泳ぎをしながら
その場にとどまります。

なぜそんなことが
起こるのか。

もともとは安全域にいた
マダラタルミの気持ちを
想像してみてください。

マダラタルミは
捕食者かもしれない
あなたから遠ざかろうと
テリトリーの中心を離れました。

あなたが素早く動くなどして
身の危険を感じたなら
すぐさま退避行動にでます。

ところが、あなたは
じわりじわりと
近づいていくだけです。

気づけば緊張域の限界ぎりぎりまで
追い詰められてしまいました。

マダラタルミは
安心できるテリトリーの
中央に戻りたい。

けれど、
逃げるタイミングがつかめない。

まるで
思考停止しているか
のようにその場で
停止してしまうのです。

このときの
マダラタルミは
動きも少なく、
撮り放題です。

ただ、注意してほしいのは
撮り放題ということは
捕り放題ということでもあります。

もし、エソなど
本当の捕食者が
近くにいた場合、
目の前にいる
あなたに対する警戒だけで
頭がいっぱいのマダラタルミは
いとも簡単に
食べられてしまうでしょう。

ファインダーに
写っていたはずの
マダラタルミが
こつぜんと消えてしまう。

きっと、
あまりに一瞬の出来事なので
何が起きたかすぐには
分からないかもしれません。

こんな
悲しい運命をたどる魚を
増やしてしまうかもしれない
禁断の撮影術、
本当は教えたくないのです。

でも、
水中写真を
上手に撮るには
魚の行動を
うまく利用することが
絶対に必要です。

フォト派ガイドを目指す
若手インストラクターの方は
種ごとに違うテリトリーを
細かく研究して
サポート時に活用してみてください。

緊急退避限界線まで
被写体を追い込んだら
あとはその手前にお客様を
誘導してあげるだけです。

フォト派ダイバーも
フォト派ガイドも
捕食者の存在には
細心の注意を払ってくださいね。


3⃣退避域


先ほどの
緊急退避限界線の手前で
停止していたマダラタルミは
なんとかして
あなたのスキをついて
安全域まで戻ろうと
するでしょう。

まだ撮っていたいあなたは
マダラタルミが戻ろうとするのを
なんとかして阻もうとしてみます。

ところが、
勢いあまって
緊急退避限界線の向こうまで
追いやってしまいました。

それまでゆっくりしていた
マダラタルミは
あなたの脇を
決死の覚悟で
素早くすり抜けて
いくことでしょう。

逃げるタイミングを
見計らっていた
マダラタルミが
意を決して
行動に移す場所、
それが退避域です。

マダラタルミのテリトリーは
これまで説明してきたとおりに
安全域を中心として
周縁に緊張域、
その外側に退避域があります。

お分かりだと思いますが、
テリトリーの構成内容は
種によって異なります。

ヤシャハゼの場合は、
安全域は一番外側にあります。

このエリアに
あなたが留まっているうちは
盛んに飛び上がって
流れてくるプランクトンを
捕食しているでしょう。

徐々に近づいて
緊張域に侵入すると着底し、
緊急退避限界線を超えると
巣穴に引っ込んでしまいます。

ハゼの場合、
緊張域における警戒度は
近づくスピードによって
微妙に変化します。

微動だにしなければ
そのうち警戒が解かれ
再びリラックスして
くれるかもしれません。

個体によっても
差があります。

まずは観察して
どこまでなら寄れるのか
しっかり見極めてから
撮影にのぞんでみてください。

「水中撮影を始める前に
やってほしいこと」、
1つだけでこんなにも
長くなってしまったので
残りはまた次回。

テリトリーの観察だけでも
意識してみると
水中写真の撮り方が
大きく変わっていくはずです。

観察力を磨いていけば
初めて見る種に対しても
駆け引きがうまくできるように
なるだろうと思います。

頑張ってみてください。


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